第17話 新参者

ゴコーゼッシュ家では

10月にカンパニーを立ち上げたのだが

キチェスは社名を決めるのに

途轍とてつもなく悩み

毎週届く手紙にも

「悩む・悩んでいる・悩ましい」

と書かれていた

が、結局は五人の子供たちの頭文字から

【ラルフトス・カンパニー】と命名された

少々安直な気もするが

キチェスの子供達に対する

愛情が感じられる社名だ


そして12月1日

化粧水〔フィラ・リエッド〕が

各地の高級化粧品店で販売が開始された

ラルフトス・カンパニーは

既にヒーサコで消費者の信頼を得ていた事と

〔優雅で滑らかな肌が貴女の魅力を際立たせる〕

の宣伝文句が女心を鷲掴みにし

飛ぶように売れた


私には

綺麗になりたいと思う女心が全く分からない

この宣伝文句を考えたのは

勿論、女心の良く分かるラテル元王子である


――――――――


三年生の夏休みに帰省すると

リエッドが太っていたので

「リエッド、太ったね。中年太りかなぁ?」

と言ったら

「フォーラ!リエッドはまだ27歳だよ」 

「そうだ」

「あれは、お腹に赤ちゃんがいるんだよ」 

「そうだ」


そうかぁ、赤ん坊が産まれるのかぁ

今度こそは妹でお願いします!

お願いします!お願いいたしまーす!!


双子の弟トーキスとスイークは2歳半

お喋りもできるようになり

私のことを「ねねタマ」と呼ぶ

だが私は❝タマ❞では無い

無いのは金玉だ、悲しいなぁ・・・

タマとは日本では古来より

猫の名前の定番である

1号2号よ

”タマ”ではなく

チャマと言えるよう日々精進するのだぞ!


―――  ―――  ―――



カイッソウガ領の田園風景は

花畑が増えたが

あとは以前と変わりない

今年も麦は豊作だったそうだ。

領内の貯蔵庫には飢饉に備えて

全領民が2年は食いつなげる量の

麦が絶えず保管されている

これはいにしえから続く

ゴコーゼッシュ領主家の慣わしである


変わった事と言えば

若い執事が一人増えていた

使用人たちの話によれば

ある日キチェスが連れて来た

どこぞの村の農家の四男坊で、年は16歳

無口で自分のことは語らないので

詳しいことは知らないが

真面目に働き

よく気配りができる好青年だとのこと。


そな日の夕食

新入りの執事が給餌を担当し

キチェスから

「新しい執事のシュアスだ。仲良くしなさい」

と紹介された。


その夜の三つ子集会で私が

「あのシュアス、てっ・・・」

と言うとラテルが

「うん、農家の出身者には見えないよね」

「そうだ」


「あの身のこなし、

 品格が備わっていると、僕は思う」

「そうだ」  

ルクト、ちゃんと聞いてるのかよ?


「少なくとも、ルクトよりは品格があるよね」

「そうだ」 

やっぱり聞いてないじゃん!


「プップップップ。

 ルクト、フォーラに悪口を言われてるよ」

「そうだ・・・はっあん?

 フォーラ、なにを言った⁉」

「話を聞いてないルクトが悪いんだよ!ふん!」


「まあまぁ、フォーラ怒らないで

 ルクトは、また新しい発明でも

 考えていたんでしょっ」

「うん、そうなんだ

 保存食に缶詰はどうかと思って」

「いいねぇ。缶詰、便利じゃない」

「カンヅメって、なぁに?」


この国には缶詰が無いのだ

ルクトはラテルに缶詰の説明をした


「それ、いいねぇ」

ラテルは缶詰に興味を持ったようだが

ルクトが

「だが、まだこの国では技術的に無理だ」

だそうである

「そうか、残念だなぁ」

「今は無理でも、数十年後にはできるさ

 缶詰の製造方法は

 〔デペロップメント・ノート〕に記載して

 未来のゴコーゼッシュ家の子孫たちに託す」


デペロップメント・ノートとは

ルクトが作ろうとしたが

いまのイクス星の技術では作れない物

例えば

機関車・ラジオ・発電所蓄音機などの製造法を

子孫に伝えるために作ったノートである

ノートと言っても、大学ノートじゃあない

百科事典みたいに分厚く

しっかりとしたノートである

このノートに書かれている様々な物は

ルクトが中身と同じ57歳まで生きれば

どれも造る事ができるはず

なのだが・・・

アーザスを倒すのは命懸け

たぶん私達、死ぬよね

だから三つ子が死んだ後の

自分を生み育てくれた

ゴコーゼッシュ家へのルクトから恩返しの

デペロップメント・ノートである

 

話しがズレた!


「そうじゃなくて

 シュアスが怪しいって話しだよ」

「なにが怪しいんだ?」 


あぁ、ルクトまったく感づいていないのか

頭はいいのに感は鈍い奴だな、へッへへッへ


ラテルがシュアスの怪しい点を話すと

「うーん、なるほど・・・

 そう言えば、シュアスの瞳は青いな」

 

たしかに青色だけど、それが何か?

「もしかしたら

 キチェスの隠し子かもしれない」


エェッーーー!マジですか⁉

でも・・・

「たしかに瞳が青いけど

 ラテルとルクトはキチェスと同じ瑠璃色で

 シュアスは薄い水色だよ

 それにキチェスは今33歳だから17歳で

 できた子になるよ?」 

 

するとルクトが

「いや、17歳でも子供は作れるだろ」

 

と言うから

「エェー!そうなの⁉⁉」

 

と驚いたら

ラテルとルクトが私の顔を見て

『はぁーっ』

と、ため息をついた

なんのため息なのでしょうか?


なおもオジサンルクトは

「キチェスは愛情深いからなぁ

 隠し子を不憫に思い 連れてきた、のかもだ」  


頭にリエッドの顔がチラつく・・・

「いやいやいや」

「無い無い無い」


と私とラテルは否定したが、心の中がモヤモヤする


真実を確かめて

ことを荒立てるのもなんだし・・・

と言うことで

この件は三人だけで留めておく事にした


今日、知った真実

17歳でも、お父さんになれます!

である

ほんとうに・・・??



















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