第15話 初めての夏休み

アッサとは毎日

楽しく仲良くできている・・・と思う

 

学期末試験は

夏休み冬休み春休みの3週間前に実施される

昭和の日本のような

中間試験が無いので助かる、へッへへへ

 

今日

一学期期末試験の答案用紙が返ってきた・・・


まずい・・・

非常~にまずい事になっている


数学の試験、

早く解き終え余裕をかましていたら

終了間際に解答欄が一つずつズレて

記入しているのに気付き

慌てて書き直したが半分も直せなかった!


ルクトに

「今日の試験はどうだった?」

と聞かれた時に言えなかった・・・

本当のことが言えなかった・・・

いつかはバレるのに・・・


そうだ、今日バレるのだ!

まずい、非常にまずい・・・!

あぁルクトの怒りまくる姿が目に浮かぶ~


刻々と迫る放課後・・

そしてやって来た放課後・・・

ラテルとルクトが教室に迎えにきた


「ほら」

とルクトが手を出した

「えっ、なに?」

「答案用紙」

「あぁ、あれねぇ」

あぶら汗が・・・


渡した答案用紙を見ながら

「100点。100点。100点。47点⁉」

答案用紙をジッと見つめるルクト

「そうかぁ、解答欄を間違えたのかぁ」


やったー!よかった~

怒ってないじゃん良かったぁ~

と油断した次の瞬間


「いつも言って聞かせてるよなっぁ

 答案用紙は必ず見返し確認しろと

 どうせ早々に終わらせて余裕こいたんだろう」


なんでわかるの?

怖い・・・ルクト怖い・・・


「だから何度も言って聞かせたのに!

 お前はいつもそうなんだよ!」

 と頭を抱えだした 


いつもそうって、何がだよ⁉ 

と言いたいが、返す言葉が無いです


二人のやり取りをみてラテルは

「プップップップ」

と笑うばかりで私を助ける気はさらさら無い

 

あぁ~周囲の視線が痛い・・・涙


――――――――


一学期が終わり

ゴコーゼッシュ家から迎えの馬車がきた


今回こそと思っていたのに・・・

ルクトは馬車に乗るなり

眉間にいつもより深いシワを寄せながら

本を開いたり紙に何かを書いては

頭を抱えるの繰り返しだ。

ラテルによると

期末試験が終わってからずっとこんな感じ

だそうである。


カイッソウガ領までの5日間

ルクトの眉間のシワは消えることは無かった


ババ抜きしよう~

などと言ったら

泣くほど怒られるのは目に見えている

私のババ抜き野望は

風と共に去っていった・・・。

 

今回も護衛係は

無表情二号の二モンである

小さな声で

「ねぇ、なんでディーゴは来ないのかなぁ?」

とラテルに耳打ちしたら

「うっ、ううん」

気まずそうに目を伏せた

なぜ気まずそうにしてるのだ?

ラテルは

ディーゴが王都へ来ない理由を知っているのか?

まさかディーゴはお尋ね者で

カイッソウガに身を隠しているとか⁉

いやいやいや、ないないない、

ディーゴは悪い奴じゃあない!


―――  ―――  ―――


5日間の帰路も無事に終わり屋敷に着くと

玄関前で

父キチェスと母リエッドが出迎えてくれた


『ただいま戻りました。父様、母様』

「お帰り、待っていたぞ。

 さあ、居間でゆっくりと学園の話を聞かせ・・・」


「父様、僕はヒーサコの製造工場を

 見て回りたいのです」

「ルクト、明日でもいいでは・・・」


「いいえ父様、すでに製造が始まっているので

 間違いはないか早くこの目で確認しなくては!」

「そっそうかぁ。ふむ、行っておいで」


「馬車を用意して」

と使用人言いながらルクトは行ってしまった


「じゃあ、ラテルとフォーラは居間で・・・」

「父様、私はトーキスとスイークに

 早く会いたいの!」

「まぁ、フォーラは優しいお姉様だこと。

 ねぇ、貴方」

「そっそうだな。二人に会って来なさい」


キチェスは寂しそうだが

学園生活の話しなんて

毎週手紙を書いて送っているから

何も話すことなんて無いですよ。


毎週の手紙を送るのは

キチェスの言付けなのだが・・・


余りにも面倒なので、三つ子で相談して

毎週持ち回りで一人が代表して書いた

それでも、

三週間に一度の手紙なんで

私には苦痛でしかないんですけどねっ。


「父様、母様。

 学園生活のご報告は長男である私が」

いいぞっ!ラテル元王子よ、宜しくたのむ!

 

私は中断されていた

1号2号の飼育観察のため双子部屋へ急いだ


扉を開き

「トーキス、スイーク」

と呼んだら

二人はキョトンとした顔をしている

やはり、小動物だから

私を忘れてしまったのかっ?


少し近づいて膝を折り

もう一度名前を呼んだら

『ウッキャッキャッー』

と言いながら、チョコチョコと走り寄って来た

その足取りは以前より、しっかりとしていて

二人とも私に抱きついてきた


「元気にしていた?大きくなったねぇ」


4ヶ月観察していない間に

随分と大きくなっているじゃないか


「トーキス様スイーク様

 フォーラ様が戻られて良かったですね」

と乳母達もニコニコと笑っている


床の上を一緒にゴロゴロと転がったり

ボールを投げて取りに行かせたりして

4ヶ月ぶりの観察を終えた


―――  ―――  ―――

 

夜はルクトの部屋へ集合


人目のない所で

三人きりになるのは久しぶりだ

私は存分に床に寝転んだ


「どうしたのフォーラ?」

「だってこの4ヶ月

 自分の部屋以外では

 ご令嬢のふりをしてたんだぞ

 いま開放感に浸っているんだ」

「おい、フォーラ。残り7年7ヶ月あるんだぞ」


あーそうだったぁーー

ルクトが嫌なことを思い出させる


「ルクト、今だけは自由にさせてあげよう

 フォーラの中身は15歳の男子なんだから」

「そうだ、私だけ苦労が多すぎる不公平だ!」


「仕方ないだろ、お前の外見は女なんだから」

「言いかた!ルクトはオジサンなんだから

 もう少し言いかたを考えろよ!」

「ほら二人とも、もう止めて

 大事な夏休みなんだから、無駄な時間はないよ」


そうだ

明日からディーゴの武術稽古だし

1号2号の観察もあるし

森で試したい呪術もあるのだっ


「フォーラ。忘れてないだろうな?」

「何を?」

「夏休みの宿題だ」


ゲッ!!

そうだ、そんな物があったんだっけ


「忘れて、ない」

「プップップップ」

とラテルが笑いながら

「フォーラ、忘れてましたって顔に書いてあるよ」

「わっ忘れてない!」

「しっかりやれよ。俺は明日から研究室に籠るから」

「また新しい薬の開発?」

「まあな」


ルクトの研究室とは

イーサムを発明した折に

キチェスにねだり

屋敷の一部屋を改築したものだ


扉には【部外者立ち入り禁止】

と書かれた札が下げられいるが

そもそも鍵はルクトしか持っていない

だからから誰も入れない


私はその研究室に全く興味がない

どうせ入って見たところで何も分からない

しかし!

なにを造るのかは気になる・・・

と言うか心配している

まさか、このオジサン・・・

原爆でも造るつもりじゃあなかろうか⁉


「なっ、なっ何を造るつもりだ!」

「はぁ?なに怒ってるんだ?」


「あっ危ないものを造るんじゃないんだろうな⁉」

「何をって、化粧水だよ」

「はぁ?」


「化粧水を製造販売して金儲けだよ

 ガッハッハッハッ」

「それはいいねぇ。僕も手伝うよ」

ラテルも乗り気のようです


金儲けねぇ・・・

まぁ金は大事ですから


作るのは危ない物でなく

化粧水だったのかぁ

良かった、これで安心して眠れます


―――  ―――  ―――


翌日の午後から

ルクトは研究室に籠った


私は敷地内の森で

剣と弓矢で試したいことがあったのだが

剣を持っているのが

キチェスにバレるとまずいので


「ラテル、剣を持って一緒に来い」

 と元王子に荷物持ちをさせ森へ入った


「なにをするの?」

「呪術の稽古だよ

 この太さの樹ならいけるな」


それは直径20㎝ほどの樹だ

剣を握り

へんめいでん

と唱え

見定めた樹を目掛け脇構えから踏込み剣を振った


「フォーラ、樹は切れていないよ」

「ラテル、樹を押してみろ」


ラテルが樹を押すと

私が剣を入れた所から静かに倒れた

それを見てラテルは驚いている


「どうだ凄いだろ

 素早く尚且つ垂直に切ったから

 直ぐには倒れなかったんだぞ」

「こんな技は初めて見た

 フォーラこれは本当に凄いよ!」


いやぁ~上手くできてよかった~

正直こんなに上手くいくとは

自分でも思っていなかったから

自分が一番驚いていてます~!


「次は弓だ」

200m先立つ樹を指差し

「あの樹の真後ろの樹に弓を当てる」

と宣言して弓を構え

うんふうごう

と唱え矢を放った

 

放たれた矢は曲線を描き消えた

ラテルと走って確認しにいくと

矢は私が指定した樹に刺さっている

 

ウオー!スッゲー!マジスゲーー!!


「フォーラ凄すぎだよ!」

「まぁ、このくらい出来て当然だ

 私は陰陽師なのだから、アッハッハッハ」


―――  ―――  ――― 


その夜の三つ子集会で

興奮しながら森での出来事を

ラテルがルクトに話して聞かせた


「それは凄いな

 フォーラにでも得意なことが有るんだなぁ」


おい!言いかた!


「僕も思ったよ。フォーラでも他人より

 抜きん出たところが有るんだって」 


おい!だから、言いかた!!


「お前たち!今まで私をバカにしてたのか⁉」

「そんな事はないよ」

「そうだ」


「ほらっ、陰陽師の呪術が

 あんなに凄いとは知らなかったから」

「そうだ」


「改めて、その凄さに敬服したよ」

「そうだ」


「やっぱりフォーラは凄いねぇ」

「そうだ」


「ただ者じゃあない」

「そうだ」 


褒められてるのかなぁ??


まぁ今日のことは自分が一番驚いたのだが


「そりゃぁ、私は史上最強の陰陽師

 安倍晴明の最後の弟子、だからな」

 

平安の世でも

これくらい呪術が使えれば・・・

土階様に、溜息をつかせずに済んだのに

と今更ながら平安時代を反省です


―――  ―――  ――― 


夏休み終盤の頃に

ルクト開発の❝化粧水❞ができ上がった


化粧水は女心を知るラテルのアイデアで

無色透明から薄藤色に変更され

ほのかな香りも付けられた


カイッソウガは花の宝庫だから

色も香りも自由自在に調合し放題である。


「いつ販売するの?」

と尋ねたら


「まだだ。まずはメイド達に試してもらい

 問題なければ製造販売の開始だ」

とルクトは言い

屋敷のメイド達に化粧水入りの小瓶を

「これを朝晩、洗顔後に使うように」

と渡して回った


メイド達はカイッソウガの神童であり

ゴコーゼッシュ家のご子息でもある

ルクトの言付けを

断れるわけにはいかん

可哀想に・・・

私の次は

メイド達がモルモットにされました・・・


ルクト曰く

「冬休みには結果がでる」

そうです


―――  ―――  ――― 


夏休みはあっという間に過ぎていく~


ラテルは武術の稽古と

分厚い本を読むのに明け暮れ


ルクトは朝からヒーサコ製造工場を回り

戻ると研究室に籠る


私は武術の稽古に

1号2号の飼育観察に明け暮れ

ベッドの上で

ゴロゴロして忙しく日々を送った


そして・・・今・・・

王都へ向かう馬車の中・・・


それにしても片道5日は遠いい


「ルクト電車を造ってよ

 そしたら1日で着くじゃない」

「電気が無い」

 あっそうか、電車は電力で動くんだっけ


「俺も汽車を造ろうと考えたが

 線路を引くための各領主の承諾やら

 安全確保しながら整地などと

 問題が多すぎる。20年はかかるな」

「それじゃぁダメじゃん」


「もうすぐ新しい街道がでえきるから

 冬休みには3日で帰省できるよ」

おぉ~それはいい

ラテル、そんな情報は早くくれよ~


「2日も短くなるのは助かるな」

「そうだよねぇ。二モンもそう思うでしょ?」

「はあ、便利になることは

 国民にとって喜ばしい事と思います」

 

いや、そこはもっと素直に喜べよ

毎度毎度、往復10日はキツイだろうが


「ところでフォーラ!

 お前は王都に着くまでに

 宿題全部終るんだろうな⁉」


そうです・・・

私は宿題やってませんでした・・・


ラテルもルクトも

宿題をやってる姿を見なかったので

〘まだ余裕じゃん〙とか思っていたら


二人とも・・・

「夏休みの宿題はもらった日に全部片付けた」

そうで・・・

 

私の手付かずの宿題を発見したルクトが

「フォーラ!言ったよなぁ

 宿題やれよと、俺は何度も言ったよなぁ

 お前って奴はー!!」 

と怒りながら頭を抱えていました


そして・・・

私はいま

馬車に揺られながら

良い子に必死で宿題をやっている

  

ババ抜きの野望を自らの手で消してしまった

あぁ私はバカ野郎です・・・

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