第13話 才ある息子

その日の夕食後

居間で食後のお茶を楽しんでいる

父キチェスと母リエッドに


「見せたい物があると」

ルクトがテーブルの上に

例の小瓶とナイフを置いた


二人はなにが始まるのかと興味津々だ


だが突然ルクトが

ナイフで自分の手のひらを切ったので

「キャー」

と声を上げリエッドが立ち上がった

キチェスはオロオロするリエッドの肩を抱き

「ルクト、なにをする!」

困惑しながら怒っている


「ラテル、薬を」

言われるとラテルは小瓶から薬を出し

傷に塗った


青色の薬は白い泡になり消えて

傷は綺麗に治っている

ルクトは手のひらをキチェスとリエッドに見せ


「これは、擦り傷・切り傷・

 中度の火傷を治す薬です」


「まぁ、こんな手品を使って驚かすなんて

 悪い子達だわ」

リエッドは少し怒っているようだ


キチェスは

まじまじとルクトの手のひらを見ている

かと思ったら、ナイフで自分の手を切った

そして真剣な眼差しで

「薬を」

と手を差し出した

ラテルが言われるまま薬を塗る


自分の傷が治っていくのを見て

キチェスは

「これは、どこで手に入れた?」

ルクトが

「この薬は、僕が発明しました」

それを聞いたキチェスは

しばらく目をつむり


「それでお前たちは

 この薬をどうするつもりなんだ?

 なにか考えがあるのだろ?」

「はいっ!」

待ってました!とばかりに

ラテルとルクトは良いご返事です


「僕は、この薬が人の役に立って欲しいのです」

「私たちは、この薬を製造販売したいのです」


おぉ、そうだったのか初耳だ

私はなにも知らされてない

私をモルモットにしたくせに!ひどい!


「ふむっ、それで?」

キチェスの眼が鋭くなった


「どのように製造するかが問題だな」

「製造販売については私が考えてみました

 これをご覧ください」

とラテルがキチェスに書類を渡した


「まずは製造工程を四段階に区分し

 四工場でそれぞれの薬品調合をし

 五つ目の工場で瓶に詰めて出荷します」


「ルクト、薬の調合は大丈夫なのか?」

「はい、僕が工程ごとに

 調合の全てをまとめました

 その通りにすれば間違いは起きません」


「そうか、ルクトが言うなら間違いないだろう

 だが人手はどうする?」

「そのことは7枚目に書いてあります

 人手は広く領外からも募ります

 ただし移住ではなく出稼ぎとそる

 そうすれば他の領主から

 領民を奪ったと恨まれずに済み

 出稼ぎ者は自分の領地へ所得税を払う」


元王子はお話し上手です


「他領から働き手を確保しても

 領地同士の争いを回避できる、妙案だな

 だが、ガラス瓶を造る技術は

 カイッソウガにはないぞ?」

「それはワフガカが良いと思うのです

 国内での流通量は3位ですが技術力は高い

 大量発注すれば安く仕入られるかと」

「ふむっ・・・」


「父様、この薬は必ず人の役に立つ

 そして大きな収入源となり

 カイッソウガの更なる発展につながると

 私もルクトも信じています!」

「よし、分かった。

 やろうじゃないか!さっそく取り掛かるぞ」


「貴方、どういうお話しですの?」


リエッド、よく言った!

私も聞いていて途中で眠くなり

全く意味が分かりません


「ハッハッハッハ!要するにだ」


うんうん、ようするに?なに?


「君の産んでくれた息子の一人は

 科学の才能に

 もう一人息子は商才に長ている

 素晴らしい息子たちと言うことだよ」

「まあ、そうなのね。偉いはラテル、ルクト」


はぁ~?

リエッドのおっとり具合は並はずれ過ぎだろう


「だが困ったな、

 ルクトは4月から王都へ行く

 製造の管理責任者を誰に任せるか?」

「家庭教師のサンス氏が適任だと思います

 科学の知識をお持ちですから

(まぁ俺の知識には遠く及ばないがな)」


「それはいい

 サンスには次の働き口を紹介しなくてはと

 考えていたのだ。

 二人のお陰で新事業の青写真は完成した

 ここからは父の腕の見せ所だな

 ところでルクト、薬の名前は決めたのか?」


「[ヒーサコ]です」

とルクトは胸を張り答え、目を潤ませていた。

 

なんで?お目目がウルウル?


――――――――


ルクトの部屋に戻り

不機嫌にしている私を見てラテルが


「フォーラ、さっきからなにを怒っているの?」


はぁん!そんなの決まっているだろ


「ずるいじゃないか!私だけのけ者にして」

「ヒーサコの件か?」

「そうだよ!なぜ私を誘ってくれなかった⁉」


ラテルとルクトは顔を見合わせて

『はぁー』とため息をついた

なんだよ、そのため息は⁉


「毎日フォーラは忙しいのに

 呪術の修行もしてるでしょ」


たしかに、毎日欠かさずやっている


「だからフォーラの邪魔をしてはいけないと

 誘わなかったんだよ」

「そうだ」

「それでも誘って欲しかった!

 二人みたいに凄い事がしたかったぁ!」

「なにを言ってるのフォーラ

 呪術が使えるなんて、凄いじゃないか」

「そうだ」

「僕とルクトには出来ないことなんだよ」

「そうだ」


そりゃぁまぁ

陰陽師の私にしか呪術は使えないけど・・・


「フォーラの懸命に修行する姿に触発されて

 僕たちも頑張れたんだよ」

「そうだ」


そうなの?本当?本当に?


「なら、私は影の功労者だなエヘッ」

「そうだよ!」

「そうだ!」


私は知らないうちに

ヒーサコ開発の力となっていたのかぁ

偉いぞ、蝉丸!

と自分で自分を褒めてあげよう!


そう言えば・・・?

「薬の名前、なんでヒーサコなの?」

「幼くして亡くなった妹

 久子ひさこの名前から付けた」


そう言ってルクトはまた目を潤ませている

家族思いで情の深いオジサンだ


「ところでルクト、

 ずっと〚そうだ〛しか言ってなかったよね?」

「いやぁべつに・・・

 お前との受け答えが面倒だ

 なんて思ってなかったぞぉ・・」

「その言い方、面倒だったと自白してるよねぇ」

「いやっ・・・けして面倒なぞとは・・・

 思ってた。噓をついた。本当にすまん!」


「プップップップ」

とラテルが笑いだした

私もルクトの潔いよいオジサンぷりっに

思わず笑ってしまった


――――――――


三月になり

入学の日が近づいて来た


ラテルが

「忘れ物ないようにしっかり準備してね

 荷造り早くしてよ」


と毎日しつこいので


「べつに学校には毎日行くのだから

 荷物も少しずつ持っていけばいいだろ」

と言ってやった


ラテルとルクトが顔をキョトンとさせて


「学校へは毎日通うけど

 夏休みまでは戻らないんだからね

 忘れ物をしたら不便だよ」


「必要ないだろう、毎日屋敷に帰るんだから」

「フォーラ、本気で言ってるの?」


「当たり前だろっ。

 子供は毎日、家から通学するもんだ

 ラテルは何を言ってるんだ」


ルクトがプルプルと震えながら

「おい、フォーラ!お前こそ何を言っている!

 学園のある王都までは

 馬車で5日もかかるんだぞ

 俺たちは寄宿舎に入るって教えただろ!」


エッ⁉そうだったっけ・・・?


「キチェスがフォーラと離れるのが嫌で

〚フォーラをレアリカヒ学園には行かせない〛

 と言うのを僕とルクトで説得したでしょ」

「そうだ」


「じゃぁ、私は王都に住むんだな⁉」

「そうだよ」

「そうだ」


「入学すれば帰省するのは

 夏休みと冬休みの年二回だけだよ」

「そうだ」


「ならば私は

 キチェスの娘大好き攻撃から逃げられるんだな!」

「そうだよ」

「そうだ」


「ヤッホーイ!寄宿舎、最高ーー!」

「今頃理解できたの⁉

 どうりで最近フォーラと

 話しが嚙み合わないと思ったよ」

と言い、ラテルが苦笑いしている


「フォーラ!人の話をちゃんと聞かないのは

 お前の悪いところだぞ!」

とルクトからは厳しく怒られた


あれっ・・・

むかーし誰かに耳に胼胝たこができるほど

《人の話を聞きなさい!》

って怒られてたよなぁ、誰だっけ・・・

あっ、土階様だ!へへへッ


王都での寄宿舎生活は嬉しいが

1号2号の飼育観察ができなくなるのは

残念な事だ


使用人たちの間では

「フォーラ様は

 トーキス様スイーク様のお世話をよくされる

 心優しいお嬢様だ」

と噂になり

「それを耳にされ、ご主人様はご満悦でした」

と無表情二号二モンが教えてくれた


意図せずして間違った良い噂が流れラッキー!


キチェスと言えば今年に入ってから

ヒーサコ製造事業立ち上げに大忙しだ


五つの工場建設や

諸々の設備などに掛かる莫大な費用を

カイッソウガ領ではなく

全てゴコーゼッシュ家が用意した

確かにヒーサコは凄い薬だけど・・・


だけど・・・

売れるか売れないか分からない物に

臆する事無く投資するとは

キチェスは中々のギャンブラーだぜっ!

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