第11話 陰陽師

そうして勉強の日々が始まった

マジかっ⁉


ルクト曰く

「予習が大事」だそうで

ラテルがキチェスに頼んで

レアリカヒ学園の1・2年生の教科書を

取り寄せてもらった

元王子は実に交渉上手だ。


私は武術も身に付けなくてはならない

しかし、キチェスが


「フォーラは女の子だ、必要ない!

 武術の稽古で怪我をしたらどうする⁉

  絶対に許さない!」

 とオヤジバカが炸裂


だが交渉に当たったラテルは一歩も引かない

静かな口調で

「父様、フォーラは私にとって大切な姉です

 その大切なフォーラが悪い者たちに

 さらわれでもしたら、どうするのですか?」

「そっそれは・・・」


「私はフォーラが最低限の

 自分の身を護るために護身術を

 習うべきだと思います

 その方が父様も安心なのではないですか?」

「ふむっ、護身術か・・・

 たしかに身に付けていれば安心だ」

「そうです父様、フォーラのためです」


ここでラテルから指示されていた

私の押しの一声


「父様、悪い奴から身を護るすべを学びたいのぉ」


少し甘えた口調で

上目づかいが更に効果があるそうで

って本当かよ?

と半信半疑で言われた通りにやってみたのだが・・


「そうかぁ~、フォーラがそ言うなら認めよう

 でも危ない稽古は禁止だぞ」


おぉ、ほんとに効果覿面だよ!


「許してくれてありがとう。父様、大好き」

「お~フォーラ、私のプリンセス」

と言いながら抱きしめられた

グッワーーッここは我慢だ!

ラテル元王子は

他国との外交も行っていたそうで

流石の交渉上手だ


でもさぁここまでやる必要ありました?


最後の〚父様、大好き〛いらんかったのでは?

キチェスのムッギューが発動するのは

目に見えて明らかだったよねぇ⁉

腑に落ちんのですがぁー。


――――――――

 

武術の稽古は、もちろんディーゴが担当

久しぶりに会ったが相変わらずの無表情

だが私は知っている

内面は心優しい男だと、フッフフフッ


「旦那様より、

 フォーラ様には護身術をお教えするよう

 仰せ付かりましたので

 本日より稽古をいたします」


護身術だけじゃ無いもんねぇ

剣術も弓矢も教えさせちゃうもんねぇ~


「これは助手の二モンです」


おぉ助手がいたのか

ディーゴが助手にするだけの事はある

愚直そうで笑わない男だ

よし、無表情二号と命名してやろう


「フォーラ様の稽古は二モンが担当いたします」


あっ、そうですか


「ラテル様ルクト様は、あちらへ」

あれっ、みんな行っちゃったよ

無表情二号と二人きりだよ


「護身術とは敵を倒すのが目的では無く

 隙を作り逃げることが目的の術です」

無表情で淡々と語ってるよ


「襲われたら、まず大声で助けを求めます」

 はいっ?


「さっ、大声で助けてー。と叫んでください」

えっ?まじっすか⁉

無表情二号は早くやれと言わんばかりに見てくる

やりますよ、やりゃぁいいんでしょ


「助けて」

「もっと大きな声で」

「助けてー」

「それでは周りに聞こえません」

「助けてーー」

「もっと大きな声を出して、敵を一瞬ひるませるのです」


なんだ、なら初めからそう言ってよっ


「助けてー-!!」

「そうです。

 そのように大きな声を出すことで

 自分の恐怖心も薄らぎ次の行動を取りやすくなる」

「次の行動って?」


あれか、蹴ったり突いたり投げ飛ばしたり

カッコよく決めちゃうやつだよねぇ


「走って逃げます」

「はいっ⁈」

「走って逃げるのです。

 それが何よりもの護身術です」

「わかった。でっ、次はなにを教えてくれるの?」

「フォーラ様の護身術は、これで終わりです」

「えっ??他には?」

「ございません。

 稽古で怪我をしないよう

 最低限の事だけを教えるようにとの

 旦那様のご指示ですので」


ラテルとルクトは剣を持って稽古してるのに

私だって二人みたいにカッコよくやりたいっ!

こんなんじゃ勇者になれないよぉ!


「教えろ。もっと敵をバッ、ザッ、ガッって

 倒す技を教えろ!」

「できません。

 フォーラ様はご令嬢なので、お教えできません」


無表情で言ってるよ~

あぁそうかよっ

外見は6歳児女子だけど

中身は立派な15歳男児なんだよ!

なめてんじゃねーぞこらっ!!


「教えろ」

「ダメです」

「教えろ」

「ダメ、です」


このぉ無表情二号めが!


「ずるい。差別だ。納得いかん。

 私はー!もっとー!強くなりたいんだーー!!」

 

大声で叫んでやった

それを聞きつけたラテルが走って来て


「フォーラ、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか」

と事のてん末を話すと


「二モン、敵に腕をつかまれたり、

 抱きかかえられたりする事も有るでしょ。

 そんな時のかわし方も教えて欲しいんだ。

 二モンほどの腕前なら、

 それくらい怪我をさせずに教えられるでしょ」

「まあ、それくらいでしたら」


さすが元王子お口が達者です~


「じゃあ、頼んだね」

とラテルは自分の稽古に戻って行った


「それで、なにを教えてくれるの?」

「掴まれた腕のほどき方です」


私はラテル、ルクトと同じ稽古がしたい!


「もし私が二モンを倒して

 背中を地面に着けることができたら

 私の望む稽古をしてもらう。いい?」

「それで、構いません」


 こいつ6歳女子だと思って油断してるな


「約束は守るよね?」

「剣士に、二言はございません」


よーし言ったなぁー

無表情二号よ、吠え面かくなよっ

ここは呪術を使わせてもらっちゃいま~す!

だって勇者になりたいんだもの

悪いなぁ~二モンよ


「このように腕を掴まれた時は」

二モンが腕を掴んできた

私は小さな声で呪文を唱えた

れんねえりき


この呪文は

私の四肢が触れた部位の呪力の流れが止まる

要するに

相手は私が触れた部分の力が一瞬抜けるのだ

たかが一瞬とあなどるなかれ

戦闘時のこの一瞬が命取りとなる

体格差など問題にはならないのだぁ~


私を掴む二モンの右手首を軽く触れて離し

そのまま右脇腹に掌底打ち

すかさず丹田にも掌底打ちを入れ

右足で小内刈をかけると二モンは・・・

そのまま仰向けに倒れた


どうだ、この一連の流れるような動作!

こんなに上手く決まるとは

自分が一番驚いている!

 

ディーゴがゆっくりと歩いて来た

その後ろからラテルとルクトも付いて来る


ディーゴが

「何をしている⁉」

と聞いても、二モンは

まだ何が起きたのか理解できずに

空を見たままポカンとしている


「二モン!!」

ディーゴの大きな声に

ハッと我に返った二モンが

「フォ、フォーラ様が・・・」

「そう、私が二モンを倒したの

 剣士に二言はないんだよねっ、二モン」


「一体どういう事だ⁉」

ディーゴ、怒ってる?


「はぁ・・・フォーラ様が私を倒せたなら

 ご希望通りの武術をお教えすると

 約束いたしました」

「そしてお前は負けたのだな」

「はい・・・」


「この大馬鹿者が!!なんと未熟なのだ

 相手が女・子供だからと油断するなぞ」

「ねぇディーゴ、私は二モンと約束したんだよ」


「ふむっ、仕方ありません

 二モンのした事は私の責任

 宜しいでしょう、どうぞお好きになさいませ。

 しかし、くれぐれもお怪我なさいませんように」

「うん、わかった。ありがとうディーゴ」


「二モン!お前は修行のやり直しだ!」

あーぁ、二モンがディーゴに怒られちゃったよ

私が勝ったのは呪術のお陰で

二モンは悪くないんですけどね

ごめん二モン、許してくれ


でも無表情二号の慌てた顔・・・

面白かった、へッへッへッ

―――  ―――  ―――


その夜の三つ子集会にて


「今日のフォーラは凄かたっね

 二モンを倒すなんて驚いたよ」

「力学を応用したのか?」


力学??ってなんだ??


「あれでしょ、オン・・オン・・オンミージ!」

「違う、陰陽師だよ。少々術を使ったんだ」

「あり得ない。非科学的だ!」

ルクトさん、科学者らしいご意見


「陰陽師って凄いなぁ」

あれっ、ラテルに褒められてる~エヘッ


「呪術を使えば、ディーゴだって倒せるよね」

「当たり前だ。私は陰陽師なのだから!」


噓です・・。

噓をつきました・・。

陰陽師とて、無敵ではありません

見栄を張りました・・。

これからも、呪術の修行、頑張るので

許してください・・・。


 

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