第5話 ニナオイスⅢ世の終焉

突然の

「僕も転生者」

の告白とボロ泣きで訳が分からん

だがここは兄として・・・じゃなくて姉として?

いや兎良つら蝉丸として

弟の話を聞いてやろうじゃないですか


「ラテル落ち着け、座れ話を聞くから」


私がそう言おうとしたのに

まだ目の回ってるルクトが先に言いやがった

そのうえ目を回しながら這って行き

ラテルの手を握りやがって

ルクトそれは長子である私の役目だろうが

でしゃばるなよ!

チッ!面白くないです!


――――――――

 

ラテルの話によると・・・


マーツ二キス前国王の兄

アーザス大公は(ラテルの前世の伯父)

その地位を利用し役人から賄賂を取り

その年に一番多く渡した者を出世させた。

出世したい役人共は

張り合うように金を持ってやって来る

アーザスはその金を取り巻きの貴族等にバラマキ

貴族議会を牛耳っていた。

前国王は

それにより争いも起きず均衡が保たれていた事と

❝たった一人の兄弟❞の情で目をつぶっていた。


だがアーザスは次第に

王座を我が物にしたいとの欲にかられる

王座を手にする為には

もっと大勢の貴族や役人を抱え込まなくては

それには金が必要だ。


アーザスが金を生み出す為に考えついたのは

人身売買だった

タスジャーク人は男女共に容姿端麗で高値で取引される。


同胞を私利私欲のために他国へ売るなんて

悪辣あくらつ非道な奴じゃん!

 

その噂を耳にした前国王は息子のニナオイス王子へ

「事の真相を秘密裏に調べるように」命じた

命を受けたニナオイス王子は

信頼する臣下数人と調査を始める


――――――――


まずは平民に変装し

ごろつきが集まる酒場へ通い顔馴染みを作った


どんな国でも時代でも

裏社会の情報は夜の街を闊歩する

また探る者も太陽の下で顔を晒すより

夜の帳にまぎれた方が動き易い。


二ヶ月経った頃

いつもより羽振りのいい男がいた・・・


「今夜は随分と羽振りがいいんだな」

そう話しかけると


「おぅ、隣国へ商品を運ぶ仕事をしたんだ」

「ほー、そりゃよっぽど高価な品物なんだな」


「そうよ、その品一つで馬三頭

 高い物だと五頭分は下らねえ」

「そいつは凄いな。なあ、俺にも紹介してくれないか」


「いやダメだ。

 ありゃソベク旦那が信用する

 昔馴染みしかできねぇ大事な仕事だ

 新参者のお前にゃあ紹介できねぇ」

「そうか、それは残念だ」


ニナオイス王子は早速

❝ソベク❞なる人物を調べた・・・


ソベクは口入屋を営んでいるが

2年前までは

アーザス行きつけの骨董品屋をしており

いまでも二人はよく密会している

口入屋なら人攫ひとさらいなどしなくとも

人が仕事を求め集まって来る

人身売買の隠れ蓑には打って付けの商いだ


――――――――


ニナオイス王子は父である王陛下に

調査経過の報告をするべく

臣下らを連れて深夜に人目を避け王宮へと戻り

王陛下に謁見する為、一人鳳凰の間へ入った


「以上がここまでの調査結果です。

 あとは人身売買の現場を取り押さえ

 ソベクを捕えれば

 必ず黒幕の伯父上にたどり着きます」


「そうか・・・」

マーツ二キス国王はわずかな沈黙のあと

小さな、しかし体の芯から響きわたる声で


「我はタスジャーク国の王である。

 王である我には国と民を守る責任と義務

 そして権利がある

 罪なき民を他国へ売る者は

 例え誰であっても許すことはできない

 王の権限のもと、必ず極刑に処する!」


国王は見る者が恐れをなすほどに

全身から怒りを放ち

その目には涙を浮かべていた

その涙は哀れな民への涙か・・・

それともたった一人の兄

アーザス大公への情だったのか・・・


「ニナオイスよ、この件をそなたに任せたのは

 民を守る心を忘れぬ良き王と成って欲しいからだ

 くれぐれも気を付けて行動せよ」

「はっ、肝に銘じます」


――――――――

 

しかし、これも世の常

どこの星でも同じで悪党という輩は鼻がきくもんだ


アーザスは王の命令でニナオイス王子が

己の悪事を探っていることに気づいてた・・・


ニナオイス王子が報告を終え

部屋を後にしようとした時

突然扉が開き

アーザスが一人の私兵を引き連れ入ってきた


「兄上、断りもなく入って来るとは無礼ですぞ」


「これは失礼いたしました陛下

 ですがこちらは急用でして

 今ここで

 陛下と王子に死んでいただく大切な急用なのです」

「いったい何を言われるか⁉

 例え実の兄とて許しがたし!」


「私の王座を取り戻すと言っているのだよ

 本来ならば兄である王に成るのは私だったの

 なのに私の母は卑しい身分で

 お前は王妃の子・・・

 お前が生まれなけば私が王だったのだ

 私から奪った王座を返せ!」


「兄上!

 王を志す者が自国の民を他国へ売るのですか!

 亡き父上は母の身分の差で

 私を後継者に選んだのでは無い

 己の欲望に執着する兄上の心根を憂い

 私を王に任ぜられたのです」


「うるさい!

 私は私から王座を奪った父君が王妃が母が

 そしてお前が憎い!」


「伯父上、今ここで

 父上と私を殺せば伯父上の悪事は露呈します」


「ご心配をありがとう、ニナオイスよ我が甥よ

 だが心配は無い

 お前の連れて来た臣下は既に全員死んでもらった

 それに王を殺すのは・・・お前だニナオイス」

「なにをバカな!」


「お前は公務せずに夜な夜な街でごろつきと飲み歩き

 それを𠮟責した王を怒りにまかせ殺してしまう

 だが我に返り罪を償うため部屋に火を付け自害する

 どうだ、よい筋書であろう」


「王子が王をあやめるなど

 そのような事になれば国力は弱まり

 他国から侵略される恐れがあります!」


「お前が王を殺したことは箝口令かんこうれいひくさ

 国内外には王と王子が

 急な流行はやり病で亡くなったと公表する」

「そうして、ご自分が王になると⁉」


「いいや、王座にはクシマイ二に座ってもらう」

「弟はまだ2歳です!」


「そうだよ、だから良いのだよ

 新王陛下は幼く私の操り人形

 王の上に君臨し王を操るそれこそが真の王なのだ!」

 

グッワァ~~!アーザスって脳ミソ沸騰野郎じゃん


「悔しいか我が弟マーツ二キスよ?

 兄は最後にお前の絶望する顔が見られ

 この上なく嬉しいぞ。さあ二人とも死ね!

 お前たちの流す血で

 私の輝く未来に花を添えるがいい!」


そして王と王子は私兵に殺され

アーザスは部屋に火を付けた。


――――――――

 

これがラテルの終焉しゅうえん・・・


なかなかシュールな最後で

まるで三文小説かB級映画かよとツッコミたくなる

まさに❝真実は小説より奇なり❞ですなぁ


話し終えたラテルは

瑠璃色の瞳から大粒の涙を流しながら

「僕はアーザスを倒し

 必ず弟を助け国と民を守る!!」

 

おぉ~高く固い志ではないですかぁ~


今まで密かに

"お利口ちゃん野郎"と呼んでいたが

今日からは昇格させ

❝元王子❞と呼ぶ事にしてやるかぁ。


 

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