27 迎撃――――――――――御柱祭的な?

 シニカスは転がるように斜面を下りた。

 姿勢を保つだけで精一杯だった。止まることなどできない。木を避けながら、ひたすら走って下りる。後ろからは絶えずモンスターの鳴き声が追ってきた。


 平らな地面にたどり着いた。

 スピードが乗った身体をなんとかして止める。危うく転倒するところだった。


 そこは川岸で、小さな石が敷き詰められた向こうには川が流れていた。


 すぐに後ろを振り向く、キシスが背中を向けて斜面を下りてきた。剣を振るってモンスターの群れを食い止めている。


 川の方に逃げながら、メンバーの確認をする。

 キシスを含めると十七人いた。


「私の後ろへ」

 キシスが言う。


 散らばっていたメンバーと一緒に集まる。

 川は背後に迫っていた。


 モンスターの群れが一度動きを止めてから、囲むように広がっていく。四足歩行の獣ばかりで、あの巨大な獣を彷彿とさせた。牙をむき出しにして、よだれを垂らしている。


「引きなさい。殺したくはない」

 キシスは前を向いて声を上げる。


 モンスターに話しかけているようだった。


 シニカスは隣にいたグレアムと目を合わせた。グレアムも理解できていない顔だった。


 モンスターはグルルと唸って、包囲を狭めていく。


「残念です」

 キシスはぐっと腰を落とし、剣を後ろに持ってくる。


 中央にいた一匹が石を蹴る。


 同時に全てのモンスターが襲いかかってきた。


 シニカスは身構える。


 スッと空を切るようにキシスが剣を横薙ぎにした。

 モンスターの鳴き声はなかった。


 襲いかかってきたモンスターたちの身体が上下に別れていく。ずるりと上半分が滑り落ち、血が吹き出す。先頭に立って飛びかかってきた十匹以上のモンスターの死骸が転がった。


 キシスは剣を鞘に収めた。


 包囲の一番後ろにいた何匹かのモンスターはビクビクと震えている。


 斜面からは続々とモンスターが下りて来た。怯えたモンスターは、その流れを無視して斜面を上っていった。今、下りてきたばかりのモンスターたちは、仲間の死体を見て、すぐに踵を返す。


「助かったのか?」

 シニカスはつぶやく。


「そうかもな」

 隣のグレアムが応えた。


 その後、モンスターは一匹も川岸に降り立つことなく、斜面を引き返していった。


「ありがとう、キシスさん。助かりました」

 シニカスはキシスに握手を求める。


「いえ、仕事ですから」

 何の感情もない声で握手に応える。


「がけ崩れに巻き込まれたメンバーがいるかもしれない。周囲を調べろ」

 背後でグレアムが指示を出していた。


「それでは」

 キシスから手を離し、シニカスも捜索に加わる。


 結局、斜面の近くで死体を三体発見した。

 がけ崩れに巻き込まれたか、巨大な獣に襲われたのか。


「埋葬するか?」

 シニカスがグレアムに聞く。


「いや、時間がない」

 グレアムは死体に手を伸ばし、首にかかったペンダントを引きちぎる。


「何をしているのですか」

 キシスが少しムッとした声を出す。


「遺品を持ち帰るのです。死んだ証として」

「そうですか」

 キシスは死人から盗みを働いていると思ったのかもしれない。

 シニカスとしてもグレアムの少々乱暴な手付きには驚いていた。


「みんな集まってくれ」

 グレアムが川のそばで招集をかけた。


「ひとまず、オレが指揮を取ろうと思うが、反対する者はいるか?」

 集まったメンバーは誰も異論を唱えない。


「わかった……おそらく、タリストさんたちは救援に来なられない。ここからはオレたちだけでイルドワースまで向かう」


「そんな」

 思わずシニカスは口にする。


「マンティコアに襲われたんだ。向こうも生きているかわからない」

 どうやらあの巨大な獣はマンティコアというらしい。


「そして、向こうもこちらに生存者がいると確信できない。そうなると、まずは自分たちの命を守るのが鉄則だ」


 向こうにグレアムのようなレンジャーはいたか。才蔵は一緒のはずだが、それで十分か。シニカスは急に不安になってきた。


「ここからは危険だが川に沿って移動しようと思う。他に道を知っているものいるか?」


「元の道に戻ることはできないのですか」

 キシスが質問する。


「あれでは、無理ですよ」

 グレアムが川の方を指す。


 がけ崩れで半分ほどが寸断されていた。大きく迂回する必要があるのは確かだ。


「それとマンティコアがいると分かった以上、あの山を進むのは危険すぎます。この川の対岸を進む方が安全だと考えます」


「先程、川に沿って進むのも危険と言っていましたが」

「ええ。モンスターはこの川の水を飲むでしょうからね」

 つまり、モンスターが寄ってくるというわけだ。


「マンティコアよりはマシということです」

 グレアムがため息をつく。


「他に意見は?」

 誰も答えない。


「では、すぐに行こう」

 グレアムの号令で川を渡る。


 過酷な旅が始まる予感がした。

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