22 城門――――――――――ピンハネすんなよ!
朝を迎え宿屋を出る。
シニカスが迎えに来ていた。
「ほら、かき集めてきたぞ。大事に使えよ」
片手で持った袋を渡される。
コウキが両手で受け取ると中からジャラっと音がした。
地面において中身を確認する。金貨が詰まっていた。
「こんなに?」
「あの二人には、それぐらいの価値がある。ちゃんと返してくれれば何の問題もない」
キシスと才蔵を見ながら、シニカスは笑った。
シニカスとコウキが先頭を歩き、キシス、イネア、才蔵が続いて城門に差し掛かる。
ゴットノートは立ち止まった。
「私はここで」
「そうか……みんなは先に行ってて」
コウキを残して、全員は歩き出した。
「最後に聞いておきたいことがあってさ」
「私にですか?」
「まあ、単なる推測で……間違ってたら、それでいいんだけど」
「はい」
「ゴットノートさんって、もしかしてアレストと知り合いだった?」
コウキはゴットノートの目を見る。
「どうして、そう思うのですか」
「オレにとっては命の恩人だから、アレストのことを悪くは言えない。でも、キシスさんなんか、ひどいもんだよ? ヘイスレン村でアレストのことを聞こうとしたら、罪人のことを聞き回るのは良くないってさ。正直腹が立ったんだけど、やっぱりあれが普通の見方だと思う」
コウキは城壁に寄りかかった。
「でもさ、ゴットノートさんはアレストのことを『アレストどの』って言ってたんだよ。アレストのことを話すときも、なんか気遣いみたいなものがあった。それにイネアのことも知ってたでしょ? 立場上、罪人の情報は手に入るだろうけど、やっぱりそこまで知ってるってのはおかしいよ」
ゴットノートは黙ったままだった。
「それで、仮にゴットノートさんとアレストが知り合いだったらって考えたんだ。そうすると、二人はどこで知り合いになったんだろうってことになるよね? アレストが捕まる前なのは確かだから、アレストがヘイスレン村にいた時期ってことになる。つまり、ゴットノートさんはヘイスレン村の出身なんじゃないかって。もちろん、あそこは出稼ぎの村ってことだったから、子供のときはマイセズ砦の内側にいたんだと思う。そこで二人は仲良くなったんじゃないかってね」
今日も城壁には多くの通行人がいた。
「ゴットノートさんは、成長してからヘイスレン村に行った。そう考えると色々思い当たることがあるんだ。あの村にいるとき、随分ムスッとしてたよね? 初めは、オレが危うく村の策略にはまって殺されそうになったから、そのことで怒っていたのかと思ってたよ。でも、村に入る辺りから様子が違ったなって思い出してさ。それと、あの村のおばさんの一人が、ゴットノートさんに見覚えがあるって言ってたよ」
あの村にいい思い出はないが、それでも優しい人はいた。
「だからイネアに聞いてみたんだ。ゴットノートさんに見覚えはないかって。無視されると思ったけど、見覚えがあったみたいで認めてくれたよ。でも、そうなるとゴットノートさんは自分の故郷を全滅させる計画に従ったことになる。どうしてだろうって思って……」
「そこからは、私が話します」
ゴットノートが遮った。
「それにしても、よくわかりましたね」
「あくまで推測だから」
「私はあの村の……ヘイスレン村の出身です。両親をあの村の連中に殺されました」
風が吹き、城門を抜けていく。
「祖父母は死んでいたので私は一人でした。守ってくれる者はいません。さまよった挙げ句、あのスラムに流れ着きました。昨日、イネアたちのいた地域です。金もなく盗みでしのぎ、たまたま通りかかった貴族に小間使として雇われることになりました。そこからは名前を変え、必死に体を鍛え、勉学に励み、やっとの思いで兵士になったのです。その間、あの村の連中を許したことは一度もありません」
「どうして両親が殺されたのか、聞いてもいい?」
「アレストと同じですよ。村の方針は開拓地を広げることで一致していました。両親はゴブリン掃討の危険性を訴え、異を唱えたことで、リンチにあったのです。私はそれを見ていました。見ていて逃げ出したのです」
「リンズワルムの計画って……」
「アレストの直訴を聞いて私が意見したものです。あの村を滅ぼしてほしいと」
「もう一度聞くけど、どうしてヘイスレン村の調査を依頼したの? 放っておけばヘイスレン村はゴブリンを攻撃した。その後、フレイムアントがやってきて村も全滅。見殺しにするだけで良くない?」
「奴らが自滅するのを待つだけでなく、自ら関与する形で決着をつけたかったのです……それに、これから死ぬだろう相手の顔は見ておきたいじゃないですか」
ゴットノートは不気味に笑う。
「オレ、やっぱり……あんたのやったこと、認められないわ」
「はい……それで構いません。これは私の復讐ですから」
「身勝手な言い方だね」
「そう思います」
コウキはゴットノートから視線を外した。
「捕まったアレストとは何か話した?」
「同じ境遇だったので、なんとかして助けようとしました。ですが、アレストは拒否しました。今逃げては、直訴の意味がなくなると」
「そっか……マイセズ砦の被害には責任を感じてる?」
「もちろんです」
「そこだけは、オレと一緒だな」
コウキはシニカスに渡された金貨をゴットノートに差し出す。
「このお金を、マイセズ砦で被害に遭った人たちに……支援金として使ってくれないか」
「そんな、いただけません」
「オレもゴブリン全滅に関わった一人だ。知らなかったとは言え責任がある」
「しかし……先程、私のことを認めないと……」
「お前のやり方は決して認めない。だけど、復讐したい気持ちには共感する……結構長い間、一緒にいただろ? 信用してるんだぜ。あと、下手な芝居で悪ぶるな。似合ってないんだよ」
コウキはまっすぐに見つめた。
「ゴットノート。オレの信頼に応えろ」
「……確かに……預かりました」
ゴットノートは両手でしっかりと袋を抱えた。
「よろしくな」
コウキはゴットノートに背中を向け、手を上げる。
振り返ることはなかった。
城門を抜けた。
道の先にはシニカスたちが待っていた。
「先に行けと言ったのに」
合流すると全員でキャラバンの野営地へ向かった。
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