合同結婚式の一幕 2



 二人のために誂えられた婚礼衣装はとても素敵だった。

 赤を基調にしているのは一緒だけれども、シオネの方は白、黄色、黄緑など明るい色で刺繍がされていて快活なシオネの印象をそのまま映したようだった。

 エリレアの衣装は一見落ち着いたシンプルな物に見える。けれど少し色調を落とした赤や茶で細やかな刺繍がびっしりと後ろまで施してあり近くで見ると非常に手の込んだ一品であるのがわかる。

 そこに前面の金糸の繊細な刺繍が華やかさを添えている。共に身に着ける装身具がとても映えそうだった。


「すごいわ、とても綺麗」


「着たらもっと綺麗よ、楽しみにしててね」


「アクアオーラに何もできなかった分私たちの結婚式に力を注いだとお母様が言っていたわ」


 お母様はアクアオーラが結婚するときに盛大な式で送り出してくれるつもりだったとシオネは言っていた。

 持ってきてくれた首飾りもその時のために用意していた物だと。

 手紙では何も触れていなかったけれどお母様には勝手をしたことを謝らないとと思っていると話を聞いたのかお母様が入って来た。


「アクアオーラ!」


 駆け寄ってきたお母様に抱きしめられる。

 子供にするみたいにぎゅうっと抱きしめられて戸惑っているとぱっと身を離したお母様が顔を覗き込んだ。


「元気そうね、よく帰って来てくれたわ」


 向こうで困ったことはないか、アイオルドは優しくしてくれているかと矢継ぎ早に質問を重ねるお母様に心配させてしまったと申し訳なく思う。それと同時に心配してくれたことがうれしい。

 ごめんなさいもっと話をすればよかったとまで言ってくれるお母様に首を振る。

 私もそれは一緒。ほとんど話をしないで家出してしまったから気を揉んだのだと伝わってきた。

 アクアオーラが答える間もなくまだまだ続きそうな問いに笑みを零す。


「私は幸せです、お母様」


 言葉が止まったタイミングでしっかりお母様の目を見て告げる。

 自然と浮かぶ笑みに私を見るお母様の表情がふっと和らいだ。

 エリレアがお茶の用意をさせてるからとお母様を誘う。シオネに手を引かれてアクアオーラも後をついて行く。

 久方ぶりの母娘揃ったお茶の時間はとても賑やかなものになりそうだった。




 エリレアとシオネの婚礼衣装の話から入って二人とその婚約者の様子など色々な話をしていく。

 二人ともそれぞれ婚約者とは仲良くしているようでほっとする。

 ローデリオの話になるとエリレアが変な顔をするけれどあれは照れなのかしら。

 シオネは嬉々としてちょっかいを掛けたときのリトスの話をしている。シオネがそんなに構いたがりな性質なんて知らなかったわ。シオネ自身はあまり構われるのが好きではないのに。


「それでリトスが『あんまりからかってばかりだと後で痛い目見ても知らないからっ!』っていうの。

 そんな反応されても可愛いだけじゃない?」


「シオネ、男の子をあんまりからかうものじゃないわよ?」


 照れ屋なんだから程々にしてあげなさいと言うお母様にシオネはだって楽しいんだもんと返す。

 エリレアはなんだか難しい顔をしていた。


「シオネはいいわね、ちゃんと反応を返してくれる相手で。

 ローデリオなんか何を話していてもいっつも同じような笑みを浮かべているのよ?

 何考えてるのかわからないわ」


 彼の人となりをそれほど知らないアクアオーラの印象でもローデリオは本心を見せない人だと思う。


「話をしてみても?」


「嘘は吐いていないと思うけれど本心とも違う答えに聞こえるのよ」


 態度のせいで、とため息を吐くエリレア。こんな愚痴を零すなんて珍しい。


「あら、そうしたら夜二人になったときに彼を自分の胸に抱き寄せて頭を撫でてあげたら?」


「はあっ?!」


「それお母様が時々お父様にやってあげてるやつよね。

 お父様みたいに甘えるローデリオって想像つかないけど」


「シオネ、あなたは見たことをそのまま口に出すのは止めなさい。

 夫婦のことなんだから知らないフリをするくらいでいいのよ」


 お母様の驚きの提案に赤くなって二の句が継げない様子のエリレア。

 シオネの目撃証言に苦言をするお母様。なんだか驚きの情報がいっぱいあったわ。


「別に破廉恥な意味ではないわよ?

 人の鼓動の音って安心するでしょう、くっついてお互いの鼓動を聞いているだけで言葉がいらないときもあるのよ」


 それならアクアオーラも知っている。ほんのり熱を持つ頬にシオネが目敏く気づく。


「アクアオーラもやったことがあるの?!」


「それはしたことがないけれど。

 でもアイオルド愛しい人の腕の中が安心するのはわかるわ。

 逞しい胸に抱きしめられているとそれだけで満たされた気持ちになるもの」


 お母様と微笑み合う。少し驚いたけれど良い話を聞けた。

 そのうちやってみましょう。アイオルドはどんな反応をするかしら。


 私とお母様の話した内容にエリレアは首まで真っ赤にしていた。

 エリレアが実践できる助言にはならなかったみたいなのでお茶会の終わりにこそっともう一つアドバイスを送る。

 アクアオーラの体験談だけれど、きっと悪い結果にはならないと思う。

 こんな話をするようになるなんてそれこそ一年前は思わなかった。けれどこういう関係も悪くない。決心を固めたように手を握り締めるエリレアを見ながらこうありたいと望む関係になれれば良いなとそう願った。



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