合同結婚式の一幕 1
馬車の窓から王都の街並みを見る。
「すごいわ、人がいっぱいね」
見て、とアイオルドを呼ぶと肩に頭が乗せられる。
「重いわ」
くすくすと笑いながら頭を寄せると肩に回された手が髪を撫でる。
「王女二人の結婚とあってかなりの人が集まっているようだね。
出店も沢山出ているし、夜にはまた更なる賑わいが見られそうだ」
夜には通りを灯りが飾ってとても綺麗なのだという。見てみたいわ。
「行ってみたい?」
わがままを言わせようとしないでほしい。
楽しそうに覗き込むアイオルドの目元へキスをする。
「流石にそんなわがまま言えないわ。
でも、帰りも見てみたい」
この人出の中を歩くのは難しいとわかる。
アイオルドが叶えてくれようとしても他の人はいい顔をしないでしょうし。
こうして馬車の窓から様子を見られれば十分だわ。
灯りがいっぱい通りを埋め尽くすのはどんな感じかしら。わくわくと胸が躍る。
外を見つめていると肩を引き寄せられてアイオルドの胸にもたれさせられた。
「まだ着かないから今のうちに寝ておきなよ。
あんまり眠れなかったんだろう?」
ここのところ寝不足が続いていたことはアイオルドにはお見通しだったよう。
「……不安?」
「ええ、……少し。
お父様はまだ怒っているかしら」
この半年余りエリレアやシオネ、お母様とは幾度か手紙のやり取りをしたけれど、お父様だけは何も音沙汰がないのでどう思っているのかわからない。
皆も示し合わせたようにお父様の話は何も書いていないのだもの。やっぱり少し不安だわ。
「きっと大丈夫だよ」
穏やかな声が耳をくすぐる。アイオルドの腕の中は落ち着く。
ゆったりと囁かれる大丈夫の言葉と髪を梳く優しい感触にゆっくりと眠りに落ちて行った。
「アクアオーラ、着いたよ」
優しく揺り起こされ目を開ける。
馬車を降りると王宮が正面に見えた。
白い壁に陽の光が反射して輝かしい。
住んでいたはずなのに既視感はなく、ただ美しい建物だと思った。
アイオルドの手を取って歩き出す。
ベール越しの景色の先に見えたものにアイオルドを見上げる。
「もしかしてあれは大噴水かしら」
幼い頃アイオルドと一緒に見に行こうとした噴水。
結局あの後も見る機会もなく王宮を出てしまった。
「そうだよ、結局見せられなかった噴水」
「じゃあ十年越しに叶えてもらったことになるわね」
形を変える水柱は遠目から見ても綺麗で楽しい。
もしあの時見られていたらきっと夢中になって離れたがらなかったかも。
どちらにしてもアイオルドを困らせてしまったわね、きっと。
噴水を通り過ぎて王宮に入るとシオネとエリレアが迎えてくれた。
「アクアオーラっ、久しぶり!」
「久しいわねアクアオーラ、元気そうで何よりだわ」
二人とも幸せに満ちた顔をしていてこちらまで幸せな気持ちになる。
「二人ともおめでとう、無事式を迎えられて良かったわ」
本当に良かった。二人の様子をこの目で見てほっとした。二人とも本当に幸せそう。
祝意を伝えるとエリレアが照れなのか視線をずらす。
「少し気が早いわよ」
「でも式の日はあまりゆっくり話をする時間がないかもしれないわ」
お祝いは何度口にしても良いものだと思うし。自然と浮かぶ笑みで見つめているとそっぽを向かれてしまう。
エリレアの照れた様子をシオネがおかしそうに見ていた。
「そうだ、婚礼の衣装見に来てよ」
「いいの? 式の前に見てしまって」
式まで秘密にしなくていいのかと聞くと当然でしょと怒られた。
「いいに決まってるじゃない! 家族なんだから!
式の前にも顔出してよ? 婚礼衣装を身に着けた最高に綺麗な私を見せてあげる!」
「そこは私たちというべきじゃない?」
シオネのセリフにエリレアが文句を言う。
でもエリレアも婚礼衣装を見せることは賛成みたい。
「あ、でも殿方は遠慮していただけるかしら?」
「そうね、リトスが拗ねちゃう。
アイオルドはもう家族だけれど、やっぱり最初に見せる男性は伴侶じゃないと」
口々に遠慮するように言われてアイオルドがもちろんですと答える。
「アクアオーラ、後で迎えに行くから」
アイオルドにどうするのか聞くとリトスたちのところに顔を出してくるという。
「じゃあ終わったらアイオルドが迎えに来るまでお茶してましょう?」
「そうよ、お母様も呼ぶから」
エリレアとシオネが口々に言い募る。
二人ともお母様とも沢山話したいことがあった。
「じゃあアイオルド……」
「うん、また後でね」
軽く髪にキスをして立ち去っていくアイオルドに手を振ってエリレアとシオネに向き直る。
どうしてか目を見開いて信じられないものを見たような顔や呆れた顔を浮かべていた。
「二人ともどうかしたの?」
「……なんでもないわ」
「あれがアイオルドとアクアオーラの普通なのね」
手紙にあったのろけが大したことないように思えてきたわとシオネが呟く。
だって手紙には書けないことも一杯あったもの。
恥ずかしくて言えないこともあったけどそれ以上に……。
自分だけの秘密にしたいことが。たくさん。
笑みで誤魔化すとエリレアに眉を寄せられた。
エリレアからしたらはしたなかったかしら。
そう思っているとシオネがにやりと笑う。
「羨ましいならエリレアもしてみればいいじゃない」
「なっ、羨ましいなんてあるわけないでしょう!」
エリレアの頬にはうっすらと朱が差していて、シオネの言う通りなのかもと思わせた。
違うから、と言い募るエリレア。
あんまり必死に否定するから何も言わないでおこうと微笑むに留めた。
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