73話 この後、ちょっと時間あるかな?
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「んじゃ、俺はそろそろ行くから」
夜の8時を回って空が暗くなり始めた時、俺は玄関で靴を履きながら目の前に立っている
柚子は腰の裏側に手を当てながら、何故か目を細めている。
「……エッチ、スケベ、ベッドヤクザ」
「何故だ」
「止めてって何度も言ったのにちっともやめてくれないし………おかげで、もう腰ぐたぐただし」
「……………お前が悪い」
「なんで私が悪いのよ!」
「少なくとも今回はお前が悪いだろ!!」
全く……昼間に散々甘えてきたヤツはどこへ行ったのか。
まぁ、してる最中はめちゃくちゃキスされたけど。確かに?気持ちよかったけど。めちゃくちゃ興奮もしたけど…………うん。
「むぅ……悔しい」
「いや、悔しがることなのか、それ?」
「あんたは男だからそんなこと言えるよね~~私はいつも……あんたに、やられっぱなしだし……」
「………変な気持ちにさせるなよ。俺、もうそろそろ帰らなきゃだが?」
「ぶぅうう………分かった。ほら、チュー」
「全く……」
それでも可愛らしく唇を出してくるこいつに適う気はしなくて、俺は仕方なく首を曲げてからキスをして、顔を離した。
「んじゃ、また明日な」
「うん、また明日ね。学校一緒に行こ?」
「分かった。じゃな」
「うん!」
心底幸せそうにしてくれてるから、何よりだ。
放課後にずっと入り浸っていたアパートを出て、俺は帰り道につく。季節もそろそろ秋に差し掛かろうとしているからか、身を透き通る風が妙に肌寒かった。
まぁ、家でちゃんと秋物の服に着替えてきたから、そこまで寒いわけではないが。
「ふぅ………ッ」
……そうやってぼうっと歩いていると、やっぱり午後にあったことが次々と脳内で浮かび上がってきた。
柚子の蕩けた顔も、暑さも、思春期の男子高生にしては刺激の強すぎる………あの体のラインまで、すべて。
……俺、ちゃんと柚子に応えているんだよな?いや、俺ももうちょっと積極的にアピールした方が……でも体目当てだと思われるのもなんだし。ううん~~悩むな、これ。
そうやって、色々と考えを巡らせていたところで。
「あら、優君?」
何度か聞いたことのある声に呼び止められて、俺は目を見開きながら声が出たところに振り向いた。
そしたら、絵に描いたようなキャリアウーマンのスーツ姿の
「あっ……し、雫さん!?」
「あら、今日は帰りが遅かったのね~~ふふふっ」
……い、いや。確かに8時回ってるから雫さんと鉢合わせしたって全然おかしくはないんだけど……!!
うぐっ、ヤバい……めちゃくちゃ緊張してきた。さっきまで柚子とあんなことしてたから、なおさら緊張してきて………くっ。
とりあえずありったけの勢いでお辞儀をすると、雫さんはいつものような緩やかな雰囲気で俺の挨拶を受けてくれた。
「ふふん、今まで柚子と一緒にいたんでしょ?」
「そ、そうですね……料理とか一緒にやってたんで」
「ふうん~~~二人でしたのは料理だけ?」
「…………………………………えっ、と」
「あははははっ!!面白いわ~~別に私はいいのよ?あ、そういえば週末の約束、まさか忘れてはいないよね~?」
「あ、はい!!当たり前じゃないですか。忘れるわけが……」
「うん、それならよかった。ふふふっ」
今週末、俺は柚子の家に行って雫さんと一緒に食事をすることになっている。
まだ高校生なのに彼女のご両親に挨拶するとか、ちょっと気が早いかもしれんが……俺としては、全くもって不満はなかった。
どうせ俺は、これからも柚子の隣にいるってもう決めてるから。
外堀が埋められていくのはちょっと怖いけど、俺はそれほど柚子のことが好きだし、一生を添い遂げたいとも思っている。だから、二つ返事で雫さんの提案を受けたのだ。
でも、やっぱり………。
「ふふっ、なんか固まってるじゃない?優君」
「あ、いえ……その、なんでもありません」
「ふうん~~?」
………やっぱめちゃくちゃ、緊張してしまう。
いくら親身に接していただいてるとしても、相手は彼女の大切なお母様。
お一人で柚子を育ててくださった、俺にとってはかけがえのない恩人でもあるから……やっぱり、固まってしまうのは仕方なかった。
だというのに、雫さんは人差し指を顎に当てながらずっとニヤニヤしていて。
ついに喉までカラカラになっていると、突然雫さんから声をかけられた。
「そうだ、優君」
「あ、はい!」
「この後、ちょっと時間あるかな?いい喫茶店知ってるんだけど」
「……………………………………は、い?」
………どうやら、俺の試練はこれからのようだ。
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