第79話 体育祭


 体育祭、当日になった。姉ちゃんは結構早く家を出た。今日は体育祭の為、制服の着用は強制されていない。


 男子は、ほとんどが学校指定のジャージと体育着だが、女子生徒はそれでは電車、バス通学の人がトラブルに巻き込まれる恐れがあるという事でほとんどの人が制服を着用して学校に来る。


 俺も一応制服を着ている。一度教室に全員で集まった後、女子は指定の教室で着替える。男子も同じだが、ほとんどいない。俺は、生徒会室で着替える為に行く。今日は万一も有るので、ドアをノックして


「山神です」

「山神君、入っていいわよ」

 西富さんの声だ。ドアを開けると


「うっぷ!」

 凄い化粧水やコロンの匂いだ。


「ごめんなさいね。もうこの時期日焼けに気にしないといけないし、今日は汗かいてくさくならない様にしているのよ」


 良く見ると会計の人や姉ちゃんもいた。なんかいつもより綺麗に見える。


「柚希、着替えたいんでしょ。あそこのドアの部屋を使いなさい」

「分かった姉ちゃん」

「柚希!」

「あっ、山神生徒会長」

「よろし」

 そう言えば瞳さんがいないな。


 別の部屋で着替えて戻ると瞳さんもいた。えっ、いつもよりちょっとお化粧している感じがするけど…。


「柚希、日焼け止めよ。お化粧じゃないわ」

「…………」

 俺には良く分からない。


「皆揃ったわね。グランドに行くわよ。柚希はウォーターサーバと紙コップを台車に乗せて持って来て」

「分かった」

 こういう事は、男の仕事だな。




 一年から三年まで一クラス四十人が十二クラス、それに先生達も入れると六百人を超える人達が、グラウンドに集合した。


 校長の先生の話が終わると体育の先生の注意事項が有って、それから姉ちゃんいや山神生徒会長が、皆の前に出て準備運動が始まった。


 姉弟贔屓じゃないけど、やっぱり姉ちゃんは綺麗だ。周りにいる女の子や女性の先生と比べても全然違う。まあ俺は瞳さんが一番だと思っているけど。



 準備運動が終わると赤と白に学年ごとに色分けされた自分達の座る場所へ全員が動く。各クラスから出ている体育祭実行委員が持ち場所に着いてから競技が始まった。


 俺は早速、来賓席があるテントの中に後ろから入った。時計見ながら競技の進み具合をプログラムと比較確認するタイムキーパーだ。


 これ自体は大した事無いけど競技が伸びそうになると次の競技の準備を早く進める指示を係員に出すとかちょっと細かい所で気を使う。



「柚希、私行って来るね」

 プログラムを見ると次は玉入れの様だ。学年単位で三回行われる。男子女子一緒なので結構凄い事になっている。


 瞳さんを見ているとやっぱり絵になるな。渡辺さんも背が高いから直ぐに分かる。ちょっとぼーっとして見ていると


「山神君、次は君の出る二人三脚でしょ。早く行きなさい」


 いけない。タイムキーパーが次の競技を見落とすのは不味いな。会計の子に注意されてしまった。



 スタートラインに行くと

「山神君、こっちこっち」


 参加者が学年順で並んでいる。

「あれっ、亮と望月さんもこれに出るの?」

「そうだよ。だから柚希に勧めたんだ。お前、あの時、上の空だったろ」

「…………」


 知らなかった。


 亮と望月さんが先のスタートとなった。


 スタートした。上手だ。息がぴったりでゴールに向かっていく。一着だ。凄い。


「山神君、足出して」

「えっ、ああ」

「なんか上の空ね。怪我しない様に走ろう。体くっ付けて」


 北川さんも緊張しているみたいだ。俺達は練習した通りに結局肩を掴むことになったが。

 しっかりと支え合う様にしてスタートラインに着いた。

 


 レディ。パーン。


「「いちに、いちに、いちに」」

「山神君その調子」


「「いちに、いちに、いちに」」


 ゴールが目の前だ。ゴールに着いた。


 バタッ!


 先にゴールした組が目の前で転んだ。避けようとした俺達も結局転んだ。


「痛-っ!」


 急いで足首に結ばれているハチマキを外した。俺は足首を少し動かしたが、痛みはない。でも北川さんを見ると足首を押さえている。


「大丈夫北川さん」

「うん、ちょっとだけ捻ったみたい。肩かして」


 俺が肩を貸して立ち上がらせると、捻った足をトントンとして

「大丈夫だわ。さっ、クラスの所戻りましょ」


 俺が肩を外そうとすると

「座る所までは肩を貸してよ」

 マジに俺の顔を見ている。


「分かった」

 仕方なしに北川さんが俺の肩に腕を回して一緒に歩く。何か痛そうに見えないのだけど。


 タタタッ。


「柚希、交代するわ。私が北川さんに肩を貸す」

「「えっ?」」


 後ろを振り返ると瞳さんがじっと北川さんを見ている。

「いえ、私は山神君と一緒にクラスの所まで戻ります」

「柚希、生徒会長が呼んでいるわ。直ぐにテントの方に行きなさい」

「分かった。ごめんね。俺行くから」


 肩を彼女の腕から外すと急いでテントに向かった。


「北川さん、肩必要?」

「ふん、いらないわ」


 そのまま彼女は自分で歩いて行った。やっぱり仮病だったのね。油断も隙もないわ。全く。



 俺は急いで姉ちゃん山神生徒会長の所へ行くと

「生徒会長、俺に用って?」

「柚希、私は呼んでないけど?」

「…………」



 昼食前の最後の競技は借り物競争だ。

「瞳、ちょっと行って来る」

「頑張って」



 借り物競争は結構盛り上がる競技だ。お題に寄っては難題になり、色々話題を醸し出す。ここは無難なお題を期待するか。俺より先に北川さんがスタートした。


 結構足早いんだな。直ぐにお題を拾った。えっ、こっちに向って逆走してくる。


「おっとー、2A北川さん、スタートラインに向って逆走します。どうしたんでしょう?」


「山神君、一緒に来て!」

「えっ?!」


「いいから」

 手を引っ張られた。俺も走るんだけど。


「おお、北川さん、なんとあの美少女と誉れ高い山神生徒会長の弟の手を引いてゴール向かいます」

 何か姉ちゃんのおまけみたいな紹介だな。


「「「おおーっ!!!」」」



 俺達がゴールインすると係員が北川さんのお題を受け取った。


「今ゴールインした2Aの北川さんのお題は…なんとー。私の大事な人でした」


「「「「「おおーっ!!!!!」」」」」


「これは問題だー!」

 これいるか?



 俺は急いでスタートラインに行くと他のクラスの奴から

「おい、どういうことだ。二股か?」

「俺が知るかよ。そんな訳無いだろう」

完全に誤解された。



 次が俺のスタートだ。間に合って良かった。


 レディ。パーン!


 俺は急いでお題が置いてある所へ行くと急いで一枚拾って中を開けた。えっ!


 自分が一番綺麗だと思う人。


 誰だこんな事書いた奴。仕方なく急いで瞳さんのいるテントへ行くと、偶々姉ちゃんと瞳さんが並んでいた。


 どうする柚希。…また出た。


 考える必要はないか。

「瞳、一緒に来て」

「えっ、あっ、うん」


 俺は瞳さんの手を引いてテントから出ると


「な、なんとー。先程2A北川さんから手を引かれたあの美少女と誉れ高い山神生徒会長の弟が、今度はこれも美少女と誉れ高い3A上坂瞳さんの手を引いている。どうした弟!」


 またおまけにされた。


 俺は瞳さんの手を引いてゴールインすると係の人がじっと俺の顔を見ながらお題を受け取った。


「ただいま、ゴールした2A山神君のお題は…なんとー!自分が一番綺麗だと思う人でした」


「「「「「おおーっ!!!!!」」」」」


「柚希」

 瞳さんが顔を真っ赤にしている。俺はそのまま瞳さんの手を引いてテントに戻ると姉ちゃんが


「柚希、見せつけてくれるわよね」

 なんか氷の女王の様な…。


―――――


 いやはや北川さん強行です。次話はもう体育祭午後の部、混合リレーです。


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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