第74話 隣の席は空いているのが一番いい


 俺、山神柚希。GW二日目。今日も改札で瞳さんと待合わせして塾に入る。講義開始まで少し時間が有る。


「柚希、今日も私は三時間だけど、柚希は二時間で終わるでしょ。自習室で待っていて」

「もちろん、そのつもりです」


 瞳さんが俺に顔を付けて耳元で囁いた。

「北川という女の子には気を付けて」

「えっ?!」

「理由は後で話すわ。じゃあまた後で」

「はい」


 瞳さんどういう意味なんだろう。確かに北川さん、始業式の日の事といい、この塾に入る事が分かってからといい、普通のクラスメイトの接し方じゃない。



 瞳さんは、三階に行き俺は二階の部屋に入った。北川さんがもう来ている。入り口から俺が入って来るのを見つけると、小さく胸の前で手を振ってこっちこっちという仕草をしている。


 始め無視しようと思ったが、変に彼女に騒がれて悪目立ちしても良くない。仕方なく北川さんの隣に座った。

「おはよ山神君」

「おはよ北川さん」


 北川さん、今日は胸がぴったりとしているブラウスを着ている。昨日とは大違いだが、これなら昨日の様な事は起きないだろう。俺が彼女の胸元を見た所為か

「ふふっ、昨日の様な服装が良かった?」

「な、何の事ですか?」


 彼女が俺の耳元で

「昨日しっかり見たでしょう。いけない子ね」

そう言って俺の脇腹を軽く突いた。


「でも君が見たいなら見せてあげても良いわよ。勿論二人きりの所で。ふふふっ」

「な、何を言っているんですか。もう講義始まりますよ」


 山神君、顔が赤くなっている。やっぱり男の子はそういう事が好きなのね。これなら簡単そう。




 二時間の授業が終わった。瞳さんが終わるまで後一時間ある。立って自習室に行こうとすると

「山神君、二人で自習室で今日の分、復習しようか?」

 どういう意味で言っているんだ?


「いいです。一人でしますので」

「そんな事言わないで。時間有るんでしょう?一時間だけ一緒にやろうよ」

 なんでそんな事知っている?


 これ以上やり取りすると悪目立ちになる。仕方なしに二人で半地下にある自習室に行った。ここはフロントを通らなくても外に出れる様になっている。



 結構人がいた。

「山神君、あそこが空いている」


 確かに二人で並んで座る所は残り少ない。


カリカリカリ。


カリカリカリ。



 俺がペンを止める都度に

「何処が分からないの。あーっ、ここね。これはねえ…」


 という具合で無理矢理教えて来る。俺の右腕に強引に胸を押し付ける様に体をくっ付けてくるので、彼女が近づく毎に俺が反対方向にずれる。

 これを繰り返していたら左にずれるスペースがなくなってしまった。



「北川さん、そんなに近くに寄らなくても聞こえますから。もっと離れて下さい」

「そうかなあ。君が動かなければいいのよ」

「それは…」

 この人、分かってやっているんだ。スマホの時間を見ると後十五分だ。


「じゃあ、元に戻ろうか」

 北川さんが右へ元の位置まで戻る。距離にすると五十センチも無いのだろうけど元の位置に戻ると左手で俺を手招きした。


 彼女が俺にくっ付いてくるのは、俺が分からないそぶりを見せるからだ。だから後の十五分はペンを止まらせずにする事だ。


 なんか必死にやってはいるが、流石にペンが止まってしまった。

「山神君、どこ?」

「あっ、いいです。分かるから」

「えっ、遠慮しないで」


 また思い切り俺も右腕に彼女の胸を思い切り押し付けて来た。

「どれどれ。あーっ、これね。これはねえ…」



「柚希。お待たせ。北川さん、私の柚希にそんなにくっ付かないで頂けるかしら」

「「あっ!」」


 良かった。瞳さんが来た。

「何を言っているか分かりませんが、私は山神君と講義の復習をやっていただけです」

「だったらもう早く終わりにして帰って。この後柚希と私は用事が有るの」


 北川さんは瞳さんをじっと見ると

「そうですか。では帰ります。山神君また明日」


 ササっと机の上に広げていたテキストとノートを片付けると帰って行った。



「何、あの態度。柚希、私達も帰ろう」

「あの瞳…」


 俺は周りを見ると瞳さんも周りを見た。どうもさっきからのやり取りを周りの人が見ていたようだ。


 瞳さんは少し顔を赤くすると小さな声で

「柚希、帰ろ」

「はい」



 今日もファミレスに行って、その後、瞳さんの部屋に行った。勿論復習と明日分の予習をする為だ。


 瞳さんが俺の顔をジッと見ている。

「どうしたんですか?」

「柚希」


「うおっ!」

 いきなり瞳さんが俺の右腕に胸を思い切り付けて来た。それも両手で俺の右腕を掴んで。


「ちょ、ちょっと瞳」

「いいの。悔しい。あの女どういうつもりで柚希にべたべたしているのか分からないけど、これであの女の感触は消えたでしょ」

「だ、大丈夫です。だからもう十分で…」


 唇を塞がれてしまった。家族は午後六時まで帰ってこないらしい。



 二人でベッドに横になりながら

「柚希、あの女を避けて。嫌よ、あんな女が柚希に勝手にくっ付くの」

「俺も嫌ですけど。塾じゃあ、無理矢理避けると悪目立ちするし」

「それって講義中もあんな事しているの?」

「流石にそれはしてないです。今日は自習室だったんで、俺が分からない所が出るたびにくっ付いて来たんです」


「そういうことかあ。じゃあ、明日の講義は柚希も三時間だから問題ないけど、最終日四日目の確認テストは私の方が一時間長いから、柚希は帰る振りしてファミレスで待っていて」

「分かりました。そうします」


「じゃあ、もうちょっと」

「瞳、勉強は…」




 翌日は、初日と同じで朝部屋に入った時だけ、挨拶が有ったが帰りは瞳の部屋で普通に復習をした。



 そして四日目の確認テストの日。現役理系コースは、二時間でテストを終わらせた。

「山神君。この後は?」

「家に帰ります」

「えっ、上坂さんとは?」

「今日は俺も瞳も家の用事が有るでの会いません」

「そう、じゃあ、帰ろうか」

「駅までですよね」

「そうね。それは仕方ないわね」



 俺は彼女と一緒に改札に入った。彼女は瞳さんと同じ方向の電車に乗るようだ。俺も自分の家の方向の電車に乗る振りをする為、ホームに向かった。

途中階段を降りきらずに二本ほど電車をやり過ごした後、もう一度改札に戻って出るとファミレスで瞳さんを待った。



 瞳さんは予定通り、俺より一時間遅れてファミレスにやって来た。俺の姿を見つけると

「上手く行ったようね」

「はい」

「今日は、ここでお昼食べた後、柚希の部屋に行こうか」

「えっ、でも母さんも姉ちゃんもいるかも知れない」

「そうか、お母様は良いとしてもお姉さんがいるのは流石に抵抗あるわね。じゃあ、私の部屋ね」

「すみません」

「ふふっ、いいのよ。さっ、早く注文して食べよ」

「はい」




 あの二人、やはりここに居たのね。二人で同時に家の用事が有るなんておかしいと思ったわ。まあいい、GW開けからは毎日学校でも塾でも顔を合わせられる。彼にアピールして、なんとか落とすわ。


―――――


 うーん、これからどうなりますやら?


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る