第72話 近付く意図が見えないままに


 俺は瞳さんとその週の土曜日、可愛塾に入塾テストを受けに行ったけど俺の受講する現役理系コースは入塾テストはないと言われた。大学受験コースのみ入塾テストがあるという事で、フロアで待つ頃になった。


 スマホを弄りながら待っていると

「山神君」


 声の方を向くと北川さんが立っていた。可愛いフレアのスカートにブラウス、それにカーデガンを羽織っている。今の季節らしい装いだ。でもなんで私服なんだ。今日は学校が有ったのに。


 学校はまだ夏服になっていないので分からなかったけど、結構胸がしっかりある。目のやり場に困り目線を合さずにいると


「今日からなの?」

「いえ」

「じゃあなんでここに?」

「別に北川さんに言う事ではないので」

「そう、いつから通うの?」

 やたら質問してくるな。


「GWからです」

「楽しみにしているわ。じゃあね」

 始めはクラスメイトと思って応対したけど、最近は鬱陶しくなって来た。どうにかならないかな。



 ふふっ、山神君。私の胸を見ていたわ。やっぱり男子高校生ね。ここらでやり方転換しますか。始めは信長型だったけど、次は…。家康型では時間が掛かり過ぎるから秀吉型はどうかしら。やはり歴史は物語るわね。



 俺がやっと北川さんの鬱陶しさをスマホで忘れ始めた所で瞳さんが出て来た。


「柚希、結果は直ぐ出るけど、合わせて勉強のやり方を決めないといけないと言われた。GW開けからの事なので、またにしますと言ったんだけど、時間あるなら今日しませんかと言われてしまって。どうしようか?」

「うーん、今日これ以上ここに居ると二人の時間無くなっちゃうし、明日じゃ駄目かな?」

「私は今日使っても明日一日中柚希と一緒にいれる方がいい」


「じゃあ、そうする。そう言えば俺もそんな事言われていた。GWの後だからまだいいやなんて思っていたんだけど」

「柚希待っていてくれる?」

「良いよ。俺も今日できるか聞いてみる」



瞳さんの結果が出るまでフロアで二人で待っていると係の人がやって来た。

「上坂さん、入塾テストの結果が出ました。わが校は個別カリキュラムによる指導なので、そのお話をしたいのですが、今日時間有りますか?」


 瞳さんが俺の顔を見ている。

「あの、俺現役理系コースを受講するんですけど、俺もまだその個別カリキュラムの話をしていないんです。俺も今日できますかね?」

「ちょっとお待ちください。確認します」


 カウンタの中に入って誰かと話をしている。直ぐに戻って来た。

「申し訳ないですが担当者が空いていないので明日以降なら良いのですけど」

「それじゃあ、瞳だけ話を聞いたら。俺待っているから」

「分かった。そうする」


 瞳さんの話は三十分程で終わった。小会議室から出て来ると

「柚希、ちょっと困った事が有って、決めきれなかった。明日相談しようか」

「分かった」



この日は近くに有るファミレスで一時間程話した後、瞳さんを家まで送って、まあこれもデートだけど、家に帰って来た。


 そう言えば姉ちゃんもあの塾行っている。どう個別カリキュラム組んでいるんだろう。帰ってきたら聞いてみようかな。

 


 

 次の日曜日、俺は瞳さんの家の最寄り駅改札で待っていた。約束の待ち合わせ時間は午前十時。まだ十五分前だ。


スマホを弄りながらチラチラ来る方向を見ていると五分程して瞳さんが現れた。明るいクリーム色のブラウスにカーデガン、それに膝までのスカートだ。爽やかな感じがする。


「柚希、待ったぁ?」

「今来たばかりだよ」

「ねえ、今日は柚希の家に行きたい」

「良いけど、母さんが居ると思う」

「構わない。塾の話したいし」



 瞳さんのとこの駅から我が家まで七駅。途中学校ある駅も通過する。席は空いていたので、二人で並んで座り、瞳さんが膝の上にバッグを置くとちょっとだけ俺の方に寄って来た。

 彼女のお尻や太腿の感触が直に伝わって来る。ちょっとだけあの時を思い出してしまった。

「柚希、何考えているの?」

 うっ、気付かれたかな。誤魔化す様に笑うと、俺の耳元に口を顔を近づけて

「柚希のエッチ」

「へっ?」

 気付かれた。


「ふふっ、私もよ」


 何を返せばいいのか分からなくなった。



「そう言えば、柚希の家って初めてだね。お母さんに会うの楽しみ」

「そ、そう」

 そう言えば連れて来た事無かったな。いつも外か瞳さんの家ばかりだし。


 やがて駅に着き、改札を出ると

「へーっ、雰囲気が違うね。新鮮な感じがする」

「そうかな。確かに俺も瞳の家に初めて行った時、この辺とは違うなあと思ったけど」



 手を繋ぎながら歩いていると直ぐに家に着いた。

「ここ。後、隣が詩織の家」

「へーっ、本当に隣なんだね。確かに幼馴染」

 何を感心しているんだろう。


 鍵で玄関のドアを開けて

「ただいま」


 シーン。


「あれ、母さん居ないのかな?瞳上って」

「お邪魔しまーす」


 俺は自分の部屋に行く前にダイニングに行くとテーブルの上に紙が置いてあった。


 柚希、母さんは三時間程出かけてくる。


 スマホで連絡入れれば良かったのにと思いつつ、

「瞳、俺の部屋に行こうか」

「うん」


 二階に上がって俺の部屋のドアを開けて中に入った。

「瞳の部屋と違って全然狭いからベッドの上に座っていいよ。それともリビングに行く?」

「ううん、ここが良い」


 俺も隣に座って

「塾の話しようか」

「その前に、ねっ!」


 いきなり抱き着かれた。

「ふふっ、柚希の部屋でしたかったんだ」

「でも、塾の話が…」

 

 口を塞がれてしまった。


………………。


 

 二ラウンドもしてしまった。瞳さんどうしたんだろう。春だから?



「瞳、そろそろ起きないと母さんが帰って来る」

「まだ三時間経っていない」

「いや、あの紙がいつ置かれたか分からないし」

「もう、仕方ないなあ」


 二人で洋服を着ている間に一階から


「柚希、帰っているの?女の子の靴が有るけど?」


「やばい、瞳早く」

「う、うん」



 部屋を覗かれる訳にはいかないので急いで一階に降りた。母さんは出かけた帰りにスーパーで買い物をして来たらしく、冷凍食品を冷蔵庫に入れていた。


「母さん、ちょっといい」


 母さんが振り返ると目を丸くして驚いている。


「母さん、同じ高校の一年先輩の上坂瞳さん。姉ちゃんと同じクラス」

「上坂瞳です。宜しくお願いします」

「柚希の母です。まあ、こんなに可愛い子が柚希の彼女?」

「はい、柚希さんとはお付き合いさせて頂いています」

「ちょ、ちょっと瞳…」

「ふふっ、はっきりしたお嬢さんね。柚希の事宜しくね」

「はい」

 このままだと要らぬ話までなりそうだ。


「俺達外に出て来るから」

「分かったわ。行ってらっしゃい」


 結局俺達は駅前の喫茶店で塾の話をする事になった。



「柚希、GWは一緒だけどGW開けからは、日によって異なるけど毎日月曜から金曜ま午後六時から一、二時間受講する事になる。土曜も午前中がつぶれる。これだと柚希に会う時間がない」

「うーん、でも仕方ないんじゃあ」

「柚希は私と会いたく無いの?」

「えっ、登下校一緒だし、お昼も一緒だから。後土曜日の午後と日曜日は会えるから」

「でもう。そうだ柚希も同じ時間に塾で勉強して」

「いや、俺は現行の補強だからそんなに受けないよ。やっても一日一時間位」

「じゃあ、午後六時から一緒に受けて、その後柚希は自習室で勉強して待っていて」

「分かった」

 そんなに勉強する気無いんだけど、瞳さんのお願いじゃあ仕方ないか。


―――――


 北川香澄さん、何考えているんだろう。


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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