第71話 いつまでも静かな時間は続かない


 瞳さんと昨日の日曜日も有った。部屋の中にいても考えが硬直するからと瞳さんの家の周りを歩いたり、少し離れた素敵な喫茶店に入ったりした。

 

 歩いている時は、塾の事はあまり話さなかった。瞳さんからも聞いてこない。彼女の家に戻って昼食を摂った後は、いつもの感じになった。


 今日も彼女は積極的でどうしたんだろうと思ってしまう。


「瞳、こういう事聞くの良くないかも知れないけど、春休み位からと言うか後半くらいから凄く積極的になったよね」

「ふふっ、知りたい?」

「…………」


「柚希とこうしているととても心が満たされるの。なんというか、ああこの人と一緒になっているんだ、離れないで居てくれるんだって。そんな充実感。

 勿論思い切り気持ち良いよ。でもそれよりも柚希とこうして肌を触れ合わせている事が、心を安心させる。

 塾の事考えると、余計こうして居たい。柚希から離れたくない、そんな気持ちで一杯なの。だからしたい。ねっ!」


「俺も同じ気持ちだよ」

「じゃあ、……」



 言っている事は良く分かる。でも能力的な事はどうしようもない。早く決めないと係の人が言っていた定員枠が埋まってしまう。



「瞳、こうしよう。君は有名国公立コースに入ってくれ。俺も来年はそのコースに入る。そしてあそこを受ける。でももし受からなかったらごめん。

 だけど東京の大学には行くつもりだから、向こうで会える」


「そんな事言っても…。とにかく、私があの大学に入った後に柚希の高校一年間がある。そこで集中的に学力あげましょう。私も応援する」


 瞳さんはこう言っているけど、実際彼女が俺を応援する事は、物理的に出来ないだろう。俺がやれることは、私立でもなるべく上位校に入る事だけだ。


「じゃあ、そうしようか」

「うん」


 少しだけ呵責を感じたが、こういう風に言うのが今は最善だと思った。




 翌日、いつもの様に皆で登校し、教室に入って行くと武田、渡辺さん、望月さんから朝の挨拶をされた。何か一年の頃を賑やかさが戻って来た感じがした。


 スクールバッグから朝一番の教科書を出そうとすると


「山神君、おはよう」

 えっ?その声の方向に顔を向けると北川さんだった。


「北川さん、おはよう」


 周りの子達が意外という顔をして俺達を見ている。


「塾は入るの?」

 あの時、この人も俺達の事を見ていたのか。


「ああ、一応入る事にした」

「そう、なら同じコースね。楽しみにしているわ」


 それだけ言うと自分の席に戻って行った。隣に座る亮が

「どういう事だ」

「俺にも分からん」



 予鈴が鳴り少しして祥子先生が入って来た。




 一限目が終わった中休み、何気に外を見ていると

「山神君」

 振り向くと北川さんが立っていた。


「何?」

「ちょっと話さない?」

「…………」

 目的が分からず黙っていると


「そんなに難しい顔をしないで。二年から新しくクラスが一緒になった君と話したいだけよ」



「ねえ、どういう事?」

「さあ、北川さん、山神君に上坂先輩という彼女がいる事知っているでしょうに」

「そうだよねえ」



「山神君、ここ五月蠅いから廊下に出よう」

「えっ?」

「いいから」


 腕を掴まれて廊下に連れだされた。

「クラスメイトとして山神君と少し話したいだけよ。別の言い方すればもっと君を知りたいの。クラスメイトとしてね」

「そういう事なら別にここでなくても」

「教室の中では五月蠅いでしょ。一言いう度に、周りから色々言われたんじゃ」

「それはそうだけど」


「あなたに上坂さんという彼女がいる事は知っているわ。だから君を彼にしようなんて思っていないから安心して。ただ話したいだけ」


 そういうものなのか?


予鈴が鳴った。

「じゃあ、また後でね」

 北川さんは教室に戻ってしまった。



 二限目の終りの中休みもそして三限目の終りの中休みも北川さんは俺の所に来た。中身のない話をしただけだ。


 そして昼休み、瞳さんを待っていると

「山神君、お昼どうしているの。一緒に食べない?」

「いや俺は…」


「柚希、行こう」

 瞳さんが俺を呼びに来た。助かった。


山神君、上坂さんと行ってしまった。今はいいわ。事は始まったばかり。



 私、上坂瞳。お昼休みになり、いつもの様に柚希と学食でお弁当を食べる為、教室に迎えに行った。


 そしたらなんと、あの北川香澄がいる。そう言えばあの子はこの学校に入ると言っていた。随分前の事だけど。でもなんで柚希に声を掛けたんだろう?


「はい、これお弁当」

「ありがとう瞳」


「ねえ、さっき柚希と話していた女の子って?」

「ああ、北川さん。今年から同じクラスになった子。始業式の時に声を掛けられてそれっきりだったけど、今日急に話しかけて来た。

 なんでと思っていたけど単にクラスメイトで初めてだから色々話したいんだって。そんなものなのかなあ?」


「彼女がそんな事言って来たの?」

 怪しい。絶対に怪しい。あの子は北川財団の娘。あの容姿相当にもてるはず。柚希に声をかけたのは何か目的が有って。でもなんで?



「どうしたの瞳、なんか顔が怖い」

「あっ、ごめんなさい。食べようか」



 その後は二人で楽しく食べた。塾の事もお互いに頑張るという事になった。申し込みはお互いにオンラインで入塾申し込みをしておくことにして、また土曜日に入塾テスト受ける事にした。



 昼休みが終わり、トイレに寄ってから教室に戻ると亮と望月さん、武田と渡辺さんも居ない。まだ昼休みのかと思って席に戻ると、また北川さんが寄って来た。


「ねえ、山神君、今日一緒に帰れないかなあ?」

「出来ない。俺生徒会の仕事あるし、帰りは一緒に帰っている人がいるから」

「そうかあ。じゃあまた今度ね」


 ちょっとしつこい感じがする。いくらクラスメイトになったからってこんなに話しかけてくるのはおかしい。瞳さんが北川さんの事少し気にした様子が有ったけど、気の所為かな?


―――――


 北川さんの行動。何か有りそうですけど…。


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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