第68話愛と体の代償
私、渡辺静香。武田君の取巻きに連れられて学校裏門までやって来た。何処まで行く気か知らないけど、これ以上は行けない筈。どうするつもりなんだろう。こんな無粋な所で何を話す気かしら。
「渡辺さん、もう少し行きましょうか。大切な話だから誰も聞かれない所まで」
武田君に告白した子がスカートのポケットに手を入れた。取り出したものは鍵だ。
「ふふっ、裏門の鍵なんてどうにでも手に入る」
うそ、ここは緊急時以外は開けない様に職員室で鍵が保管管理されているはずなのにどうやって。その子が鍵で簡単に開けると
「もう少しよ渡辺さん」
仕方なくその子の後を付いて行く。私の後ろには取巻きが居て逃げれない様にしている感じだ。
この中喜多高校の周りは正門に続く坂と裏門から山へ通じる道がある。ここに城を作った人の裏事情があるのだろう。
少し歩くと小さい広場に出た。小屋がある。
「連れて来たわよ」
小屋の扉が開いて出て来た男は、うそ!
「久しぶりだな渡辺」
「小林、どうやって?」
「驚く事は無いだろう。中喜多高校を退学になってもこの街から引っ越す訳でもない。ただ高校が他県に移ったというだけだ。
今日はその女から連絡を受けてな。生チョコを貰ってくれと言われた。確かに美味しそうな生チョコだ。ここなら大声出しても誰も来ない」
取巻きの子達がヘラヘラ笑っている。こいつら最初から小林に私を悪戯させようとして。
小林が近づいて来たので、ゆっくりと後ろに退くと
「逃げられないわよ」
くそ、後ろに取巻きがいるんだった。仕方なしにその取巻きを退かして逃げようとしたところで足を引っかけられた。
「痛い!」
草の下に置かれていた小石にでもぶつけたのか脛から血が出ている。尻餅を着いたままそのまま後ずさると
「はは、逃げられるとでも思っているのか」
小林が私に駆け寄って右足を私のお腹に押し付けた。
「さっ、楽しもうぜ」
小林が馬乗りになって私の冬服を脱がそうとしている。
「止めてーっ!。誰かー!」
「ははっ、誰も来やしねえよ。ゆっくり楽しんでやる」
取巻きは私がされるのを楽しそうに見ている。二人がスマホで撮っている様だ。
抵抗しようとしたが、取巻き二人が私の腕を掴んでいる。上着が脱がされ下に着ているシャツの前ボタンを一つ一つ取られて行く。悔しい。
「ふふっ、いい絵が取れそうね。小林、しっかりと最後までやりなよ」
「分かっているさ」
シャツの前ボタンはほとんど外されてブラが丸見えだ。小林が私のブラに手を掛けた時、
「止めて。お願いだから止めて」
「駄目だな。お前と山神のお陰で俺は退学になった。たった一発あいつを殴っただけなのに。普通は停学だろう。誰かが裏で手を回したに違いない。
だがどちらにしろお前に責任がある。だから俺はお前を楽しむ権利があるんだよ」
ブラの前を強引に引っ張られようとした時、
「待て、それ以上やるな」
「誰だ手前は?」
「信之君、どうしてここに?」
告白した子が武田君に言っている。
「そんな事はどうでもいい。こいつにこんな事止めさせるんだ」
「嫌よ。この女がこの男の手で思い切り汚されれば、もうあなたはこんな女見向きもしないでしょ。だからこの女にはここでこの男に抱かれてもらう」
「ふざけるな」
俺は、思い切り渡辺さんの体の上に乗っている男の顔を蹴ろうと足を上げたが…。
避けられてしまった。
「はははっ、喧嘩もやった事ない奴が粋がるんじゃねえよ」
男が起き上がり、俺の体に頭から突っ込ん出来た。避けようと思ったけどよけきれずにそのまま尻餅を着いてしまった。
ぐはっ!
男は立ち上がると直ぐに俺の腹に蹴りを入れて来た。
「止めてー」
渡辺さんが男の体に後ろから羽交い絞めにして動きを止めている。
今だ。そう思って顔を殴ろうとして、両足で思い切り腹を蹴られてしまった。
ぐはっ!
後ろに飛んだ時、
ドサッ、グキッ。
くっ、足を捻ってしまったようだ。起き上がれない。あいつは俺を両足で蹴った反動で渡辺さんを思い切り後ろに倒し羽交い絞めを解いて。
バシッ!
彼女の頬を思い切り殴った。
「いい加減に大人しくしろ。おいこいつを小屋に連れて行け」
状況にビビったのか。女の子達が動けないでいる。
「しかたねえなあ。おい渡辺来るんだよ」
腕を引っ張られて、小屋の中に連れ込もうとしている。くそっ、足が。
小屋の中に連れ込まれてしまった。
「きゃーっ、止めてー!」
小屋の中から声が聞こえる。くそっ、こんな事で。近くに有った枯れ棒を使って何とか起きると、小屋の所まで足を引き摺って歩いた。取巻き達は怯えているだけだ。
俺は小屋の扉を開けた。
渡辺さんがブラを脱がされて、男の手で胸をわしづかみにされている。扉の開く音で男が振り返った時、思い切りその男の頭に枯れ棒を叩きこんでやった。
ぐぇっ!
次に首の部分にもう一度枯れ棒を叩きこんでやった。
ぐぇっ!
「な、何するんだ」
「うるさい!」
もう一度思い切り頭に枯れ棒を叩きこむとその男は静かになった。後ろで取巻き女どもが震えている。
「救急車呼ぶんだ。警察も」
「「「いやーっ」」」
みんな逃げてしまった。仕方なしに
「渡辺さん、警察に連絡できるか」
首をコクコクと縦に振っている。そしてスマホの緊急ボタンを押した。
渡辺さんが警察に連絡を終えたのを見て、腰を落とした。
「ごめん、もっと早く来ていれば」
「いい。ありがとう武田君」
渡辺さんが俺の頭をいきなり掴んで彼女の胸に押し付けられた。いい匂いがする。それに女の子の胸って柔らかいんだな。
「あっ」
気が付いたみたいで、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。そして
「誰にも言わないで」
「誰にも言う訳無いよ。こんなに気持ち良い事」
バシッ!
なんで俺殴られなきゃいけないの?
それからしばらくして警察と救急車が来た。警察に事の顛末を話した。俺はそのままハンドストレッチャーで救急車に運ばれた。
渡辺さんは洋服を整えて俺の救急車に一緒に乗ってくれた。彼女の膝も応急処置がされている。救急車の中で
「ごめんなさい。ありがとう」
「良いですよ。どんなに振られても貴方の事好きですから」
俺のけがは全治三週間、後ろに倒れた時、脛の後ろにある足首の腱を捻ってしまったようだ。もう学校は二月一杯は行けない。
病院で治療とリハビリをして三月から松葉杖で登校になった。
入院中は、渡辺さんが毎日見舞いに来てくれた。もちろん山神や友人の松本や設楽さんまで。
俺は警察に小林…後で分かった名前だけど、そして小林をそそのかした前は俺の取巻きをしている連中の名前を教えた。
最初知らない振りをしたらしいが、二人の女の子のスマホから彼女が小林に強姦されそうになっている画像を見つけられ…本人は消したつもりだったそうだが、全員が逮捕となった。
取巻き女子全員が退学となった。小林はまだ警察にいるらしい。
だが、最悪な事に登校していきなりの学年末考査。点数はともかく受けない訳には行かず、とにかく一夜漬けで全部受けたが、赤点が二つあった。それは補講で何とかなるらしい。良かった。
今日は、卒業式。教室に入ると直ぐに渡辺さんが寄って来た。怪我後に初めて登校して以来、毎日来てくれる。下校も一緒だ。
「武田君、おはよう大丈夫」
「ああ、もうだいぶ良くなった。四月にはバスケに戻っても良いという事だ」
「そうか。私も陸上に戻ろうかな」
「そうだな。そうすれば、毎日一緒に帰れる」
「今でも帰っているじゃない」
「はぁ、大変な事起きたけど、結果があれならねえ」
「良いんじゃない」
「ところで私達は?」
「まだ二年有るじゃない。きっと素敵な彼が見つかるわよ」
「俺じゃあ、駄目か?」
「あんたじゃ駄目!」
周りのノイズを気にも留めないで渡辺さんが武田と話をしている。
「柚希、なんか大変な三週間だったが、落着いたって言って良いのかな」
「ああ、良いんじゃないか」
良かったな武田。代償は大きかったけど。渡辺さんの心を捕まえる事が出来て。これで渡辺さんも俺に気が向く事は無いだろう。
―――――
何とも言えないですね。でも良かった。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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