第67話 バレンタインデーは嫌な予感


 俺、山神柚希。昨日、武田と渡辺さん、取巻きさん告白事件が有って、今日はどうなるかと思いながら、いつもの様に瞳さん、亮、詩織と一緒に登校した。教室に入ると渡辺さんが来ている。良かった。


「渡辺さんおはよう」


 彼女が俺の顔をジッと見ている。そして…。

「おはよ」

 挨拶も簡単に窓の方を見てしまった。彼女の目から感情は読み取れなかったけど昨日の事怒っているんだろうな。


 武田の方を見ると昨日告白された子に何か言われている。取巻き連中は健在みたいだ。

 


 それから数日の間は、何も無かった。武田が渡辺さんに言い寄る事も、渡辺さんが取巻きから苛めを受ける事も無かった。理由は分からないけど、何も無ければそれで良いと思った。



 そして今日はバレンタインデー。瞳さんから登校時に自分の家で渡したいから来て欲しいと言われている。だから学校では何も無いだろうと思っていた。

 

 下駄箱で履き替えて教室に行くまでの廊下でも女の子が男の子にチョコを渡している。流石、チョコ業界のマーケティングは完璧だ。


 教室に入ると男子はみんなソワソワ落着かないでいる。気持ちはわかる。おれは自席にバッグを置くと


「山神君、おはよう。これバレンタインチョコ。心を込めて作ったから食べて」

 ここ数日の平和な日々で心が落ち着いたのか幸せそうな顔をして渡辺さんが俺にチョコを差し出した。一瞬躊躇したけど


「ありがとう渡辺さん」

「ふふっ、貰ってくれて嬉しいわ」



「ねえ、山神君、渡辺さんからチョコ受け取ったよ」

「じゃあ、私も」

「えっ?」



 俺の所に二人の女の子がやって来た。

「山神君。上坂先輩がいるのは知っているけど、これは私の気持ち受け取って」

「私も。手作りしたんだ。受け取って」


「あ、ああ、ありがとう」

 どうなってんだ俺。


 亮の方を見ると彼も机の上に二つチョコが置かれていた。その後詩織が来て


「はい、柚希。幼馴染チョコ。毎年渡しているから今年もね」

「詩織、ありがとう」



「なんか、この前の渡辺さんがらみの件が有ってから、山神君に対して周りの子がオープンになっちゃたね。これは修羅場の予感」

「うん、うん」


 なんと、俺の机の上には綺麗にラッピングされたチョコが四つも置かれている。去年までは詩織が作ってくれたチョコを美味しいと言っていた俺なのに。どうなってんだ?



 山神君の机の上に綺麗にラッピングされたチョコが四つも置かれている。一つは私の、もう一つは設楽さんの。これは仕方ない。


 でも他の二つは私と同じ。山神君が上坂先輩と付き合っている事を知った上での本命チョコ。これは不味い事になる予感がする。何とか先に手を打たないと。


 

 朝のバレンタインフィーバーが終わり、午前中の授業も終わると、いつもの様に瞳さんが俺を誘いに来た。

「柚希、いこ」

「はい」

 

 教室の皆は日常の風景になった様で、誰も注目する人はいなかった。学食に行く間の廊下でも嫉妬や妬みの視線は変わらないが、悪意の視線は感じられない。


 学食で空いている席に二人で座ると瞳さんがお弁当を広げながら

「柚希、チョコ貰ったの?」

「え、ええまぁ」

「何個、誰から?」

 瞳さんの焼き餅焼きも戻った様だ。仕方なしに


「渡辺さんからと詩織から、それと二人の女の子から」

 うっ、瞳さんの目が怖い。じっと俺を睨みつけながら


「何で貰ったのよ。断らなかったの?」

「いやなんでって言われても。せっかく作ってくれたチョコだし」

「えっ、全部手作り!許せない」


「ちょ、ちょっと待って。詩織からは毎年貰っている幼馴染チョコだから」

「設楽さんは良いわよ。他の子の事よ。特に渡辺さん。あの子柚希の事が好きじゃない」


 ぐ~っ。


「ふふっ、仕方ないわね。この話は、放課後ね。さっご飯食べましょう」


 困ったわね。柚希には私という彼女がいる事を周りは知っているのに。その上で彼にチョコをそれも手作りの本命チョコ渡すなんて!許せない。


「あの、瞳。目が怖いんだけど」

「柚希の所為でしょ!」

「…………」


 お弁当美味しいけど喉の通りが悪い。



 

 放課後に瞳さんから言われるであろう事を考えるとゆっくりと授業が進めばいいなんて思った日ほど、早く時間は過ぎて行き放課後になってしまった。


 亮は俺の知らない女の子と話している。このクラスの子じゃ無いよな。武田はとっくに部活に行った様だ。取巻きの子達が残っているけど、関わらない内に早く生徒会室に行こう。

 そう思ってバッグを持って出口に向かうとちょうど瞳さんが来た。

「柚希、行こうか」

「はい」


 あーぁ、山神君が行っちゃった。今日はバレンタインチョコを渡す事は出来たけど…。少しは話したかったんだけどなあ。


 私は、バッグを片手に教室を出ようとするところで

「渡辺さん、ちょっと待って」


 呼び止められて振り向くとこの前、武田君に告白した子だ。

「なに?」

 その子は背があまり高くない。見下ろす様に言うと


「ちょっと、付き合ってくれないかしら」

「…どこへ?」

「来れば分かるよ」


 気が付くと私の周りは武田君の取巻きで囲まれていた。これでは行くしかないか。



 

 渡辺さんがそんな事情なんて露知らず、俺は瞳さんと一緒に生徒会室に入った。そしていつも手伝っている西富副会長の側に行くと

「山神君、これバレンタインチョコ。手作りだから食べてね」

「えっ?!」

 

 チラッと瞳さんを見ると西富副会長を凄い目で睨んでいる。


「あの、俺…」

「あっ、これ義理だから。ねっ、受け取って」

「は、はあ」


「こら、真紀子。ここは生徒会室よ。プライベイトな事は余所でしないさいと言いたいところだけど」

 あれ、姉ちゃんがこっちに来た。


「はい、柚希。これ私から姉弟チョコ」

「あ、ありがとう」


 瞳さんの目、怖い。


「柚希、チョコはバッグに仕舞って。仕事始めるわよ」

「「「はーい」」」


 姉ちゃん、上手くやってくれたね。これだと西富さんのチョコもバッグに仕舞うしかない。でもこれで帰り道は益々賑やかそうだ。




 俺、武田信之。今日は基礎トレ、持久力強化という事でグラウンドを走らされている。バスケは技もスピードも重要だが、それを維持する持久力は最も重要だ。


 この寒い時期に無理して動くより、今の時期に全般的な体力強化を図っている。俺は先輩達と一緒にグラウンドを走っていると、あれっ?渡辺さんが校舎の裏門の方へ歩いていく。いつもの取巻きも一緒だ。


 ちょっと気になったが今は部活中。声を掛ける訳にもいかない。だけど、走って行くうちにだんだん気になって来た。今日は基礎トレメニューだから早めに切り上げてちょっと行ってみるか。先輩に声を掛けると


「武田、構わないが個人メニューはしっかりこなせよ」

「はい」


 全体の基礎トレ以外に個々の体格やポジションに合わせた個人メニューが組まれている。それをこの冬中にこなす事が決められている。


 だけど気になりだすと止まらない。部室に戻って急いで着替えるとさっき渡辺さんが行った方へ走った。


―――――


 渡辺さん気になりますね。


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る