第66話 懲りない奴


 俺、武田信之。山神から渡辺さんが俺の取巻きから苛めを受けていると聞いてショックを受けたが、証拠が無ければ何も言えない。


 松本に協力して貰って嫌がらせをしている所を隠し撮るという方法も考えたが、山神から松本自身が嫌がらせをされる対象になるかも知れないという事でその案は没になった。


 しかし、俺は渡辺さんと二人で一緒にいれるチャンスは昼休み位しかない事を考えると何とかしたい。


 そこで学食で食べている間にあの子達が渡辺さんに嫌がらせをしているなら教室で食べれば、昼休みに嫌がらせは出来ないと考えた。


 幸い彼女の隣席は元神崎さんの席で今は空席だ。彼女の前は山神の席で昼休み、あいつは上坂先輩と学食に行っている。どうにでもなりそうだ。早速今日からやってみるか。




 午前中の授業が終わると俺は急いで購買に行った。少し並んだが、好きな菓子パンは買う事が出来た。自販機でジュースを買うと急いで教室に戻った。渡辺さんはまだ食べ始めたばかりだ。俺は自席に戻らずに直接渡辺さんの所に行って


「渡辺さん、ここ良いかな?」

「えっ?!」

 山神君から武田君とは当分一緒に食べなくていいって聞いていたけど。


「あの、山神から聞いてはいると思うんだけど、やっぱり俺はあなたと一緒にお昼を食べたい」


「「「え、ええーっ!」」」

 周りの女子が驚いた声を出している。


「どういう事?渡辺さんが武田君にくっ付こうとしていたんじゃないの?」

「違うみたいだわね」

「これはまたトラブルな予感」



 俺は、周りの声を余所に

「渡辺さん、学食行かないでここで食べよう」

「えっ、でも」


 私は武田君の取巻きの方を見ると嫉妬とも妬みともとれる顔をしている。でも私がここで一人で学食に行くのは悪手だ。仕方なしに

「いいよ」

「本当、ありがとう。じゃあ食べようか」



 私は、武田君と他愛無い話をしながらチラチラ取巻き連中を見るとやはりさっきと同じ表情でいる。

「渡辺さん、俺もうみんなの前ではっきり言うから」

「えっ?!」


 その後、武田君は黙って食べていた。二人が食べ終わると、丁度山神君や松本君が戻って来た。それを見た武田君が山神君に

「山神、俺皆の前で言うから」

「えっ、何の事?」



「渡辺さん、好きです。俺と付き合って下さい」

 

「きゃーっ、こ、公開告白よ」

「武田君、やるーっ」

「武田の奴、思い切ったな。凄いぜ」

「ああ、薄々気付いてはいたけど。でもなんで皆の前なんだ?」

「あれだよあれ」

「あーっ、そういう事か」

「修羅場になるかな?」

「分からん」



 うわっ、武田の奴とうとう強行手段に出たよ。背水の陣か?そこまでして渡辺さんと付き合いたいのか。あっ、取巻きの女の子の一人が武田に近寄って行く。


「信之君、どういう事?」

「どういう事って?」

「私が告白しているのに返事をくれないまま渡辺さんに告白するなんて酷いよ」


 なんか武田から聞いている話とちょっと違う気もするが?


「俺はそんな事聞いていないし、君と付き合う気は無いよ」


 あっ、女の子が渡辺さんを睨みつけた。

「渡辺さん、あんたの所為よ。あんたが武田君に変な色目使うから、武田君が誤解しているのよ」

「私は何も…」

「いい加減にしろ、渡辺さんは何も悪くない。俺の一方的な思いだ」


 バシッ!


 あっ、女の子が武田の頬を叩いた。


「信之君、最低だよ」


 あーぁ、女の子が涙を目に浮かべながら廊下に出て行ったよ。他の取巻きも追いかけて行った。これは不味いぞ。武田これどう収集するんだ。



「あの、武田君。私あなたとは付き合う気ないから。言ったでしょ。好きな人がいるって」

「誰だよその人は?」

「言えないわ」


 武田が、じっと渡辺さんを見ている。



「うわーっ、渡辺さん、武田君の告白断ったよ」

「でも渡辺さんが好きな人って?」

「さあ?」



 あっ、武田も出て行った。この状態だと変に声掛けるより黙ったままのが良いのかな。俺は、何も言わずに自分の席に着くといきなり渡辺さんが俺の背中を叩いて来た。


「いたっ、痛いよ」

 俺が振り返ると目に涙を溜めた渡辺さんが俺をじっと見た後、廊下に出て行ってしまった。



「ねえ、もしかして渡辺さんが好きな人って」

「多分間違いないね」

「でも山神君、上坂先輩と付き合っているし」

「だから渡辺さん言えなかったんじゃないの」




 予鈴が鳴る直前に武田も、武田に告白した子も帰って来たけど、渡辺さんは帰ってこなかった。


「柚希、ちょっといいか」

午後一番目の授業が終わると亮が俺に声を掛けて来た。廊下に一緒に出ると


「柚希、取敢えず保健室に行け。多分渡辺さんが行けるとしたらそこだ」

「でも俺は…」

「良いから行け」



 亮に言われて保健室の前に来た。そっと戸を開けると保健の先生が

「山神君、何か用?」

「あの、渡辺さんいますか?」

「体調が悪いからってベッドで横になっているわ。私はちょっと出て来るわね」


 俺は先生が保健室から出るのを見てから、そっと仕舞っているカーテンの隙間から中を見た。渡辺さんが座っていた。

「山神君!」


 私、渡辺静香。武田君から皆の前で告白された。もう少し彼が静かにしていれば、状況は変わったかもしれないのに。


 その後、取巻きの子が武田君に告白して返事待ちという事も分かった。挙句、その子から訳の分からない事を言われて、その後武田君が、その子を怒って。


 私は山神君が好き。彼は上坂先輩が好きだけど、まだチャンスはあると思っている。私の気持ちを知っている彼なら、あの状況なら何か声を掛けてくれると思っていた。


 それなのに山神君が何も言わずに自分の席に座ったので思わず彼の背中を叩いてしまった。

 言ったのは痛いだけ。もっと別の言葉を待っていたのに。居たたまれなくなってここに来た。



「あの渡辺さん、大丈夫?」


 うわっ、いきなり抱き着かれた。俺の背中に手を回して泣いている。

「山神君、好きだよ。大好きだよ」

「…………」

 返事のしようがないよ渡辺さん。



 予鈴が鳴って保健の先生が戻って来た。

「渡辺さん、教室に戻ろう」


 彼女が首を横に振っている。

「行けないよ」

「でも…」


「二人共取り込み中悪いけど、山神君もう教室に戻りなさい。渡辺さんはもう少しここに居ても良いわ」



 保健の先生にそう言われて仕方なく一人で教室に戻った。授業の先生はもう来ていて、注意されてしまった。渡辺さん大丈夫かな。



 私、渡辺静香。結局午後の授業は出なかった。放課後になり少し時間の経ったところで教室に戻りバッグを取って教室を出た。

 



 取巻き連中の会話です。

「ねえ、このままじゃ済ませないわよね」

「当たり前でしょ」

「でもどうするの?」

「私に考えがあるわ。信之君があいつに振り向かない様にすればいいのよ」


―――――


 どういう事?


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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