第64話 取巻きは黙っていない


 俺、武田信之。中学の頃から背が高い事もありバスケをやっている。勉強の成績は中の上というところ。


 中学の時、担任の先生がもっと上の進学校も目指せると言ってくれたけど、そこまで勉強する気もないので、この中喜多高校に入った。この高校のバスケ部は県大会に出場している常連だ。


 俺が練習をしている時、ふとしたことでグランドを見るとショート髪の背の高い女の子が練習をしていた。とてもしなやかで笑顔がとても可愛い子だった。


 その子が同じクラスだと気付いたのはその後。窓際一番後ろ座っていたから気が付かなかった。


 ちなみに俺は真ん中前から二番目だ。いつも後ろの子に悪いと思い、なるべく前かがみに授業を受けている。



 自分では普通と思っているが、俺は世に言うイケメンらしい。本人はその自覚が無いけど。だからなのか入学した時から色々話しかけられてきた。


 でも俺にはあまり興味がない話が多い。だけどせっかく話しかけてくれるのに無視するのは悪いと思っている内に俺の周りにはいつも同じ女子が数人近寄って来た。そしてその子達を好きだろうと思う男子も。個人的には迷惑だけど仕方ない。


 そんな中、渡辺さんは近くにいる山神や松本それに神崎さんと話している事が多い事が分かった。

 山神は目立たない様にしているが、やれば色々出来る人間、優しくて他の子の悪口も聞いた事がないいい奴だ。その山神にいつも積極的に話しかけるのが渡辺さんだ。


 だから俺は山神に頼んで渡辺さんと二人になれないかと相談に乗って貰った。そして先週やっと四人だけど、二人で話す機会も何度かあった。別れ際に取巻きから離れれば連絡先を交換してくれると言われた。


 でも急にお前らと話はしないという事は出来ない。だからお昼休みだけでも別に食べて貰う事にしようと思う。


 今日も渡辺さんは一人でお弁当を食べている。俺は思い切って取巻きに今日からお昼は別に食べるからと言って、購買から買って来たパンを持って渡辺さんの所に行った。



「渡辺さん、一緒に食べて良いかな」

「えっ?!」


 武田君がパンと缶ジュースを持って私の前に立っている。どういう事?直ぐに彼の座っている席の方を見ると凄くきつい怒りの視線が向けられている。


 どうしよう。でも武田君が側に来ている。

「あの、武田君。無理して来なくても良いよ」

「無理はしていない。俺、渡辺さんとお昼食べたいんだ」

 彼は振返って自分の席の周りにいる子達に目をやると


「いいんだ。お昼だけでも一緒に居たいから」

 私は彼らの視線が嫌で、食べ始めたお弁当を畳むと


「武田君、学食で一緒に食べない?」

「えっ、それはいいけど…」


 私は、取巻きの視線が嫌で彼と一緒に学食に行く事に行く事にした。




「ねえ、なにあの態度」

「ふざけないでよね。先週のゲーセンとファミレスの件といい、信之君が優しいから声を掛けてあげているのに」

「やっぱり分からせる必要があるね」




 私は、武田君と学食に行くと山神君が上坂先輩と楽しそうに食べていた。彼らの周りには生徒が一杯座っている。

 本当は近くで食べたかったけど仕方なしに空いている所、彼らから少し離れた席に座った。武田君も一緒に座ると


「渡辺さん、嬉しいです。やっと一緒にお昼を食べる事が出来ました」

「いいの?貴方の取巻きさん達は?」

「いいんです。お昼位は彼らから離れたいのも本音です。彼らとはあまり会話が合わなくて」

「えっ、どういう事?」


「俺、中学からバスケばかりだったので、流行に疎いんです。ファッションの話やスマホのゲームの話とか、カラオケなんか本音言うと行きたくないんです」

「そうなの。武田君の事全く反対に思っていた。クラスじゃ陽キャのトップで女子を侍らす男の子だと思っていたわ。ちょっと意外」

 うーん、今一つ信じられないけど、私も同じようなものだから本当なのかな?


「だから、出来ればお昼だけでも毎日一緒に食べて貰えませんか。俺を助けると思って」

「毎日?!」

「あの駄目だったら月水金とか」

「どうしようかな。そんな事したら取巻きさん達が私に苛めでもして来そうだし。あの子達クラスの中でも活発でしょ」

 でも、早めに学食に来れば山神君を見ていられる。それに武田君は印象と違うようだし。


「それは、俺が止めます」

「どうやって?」

「うーん、考える」

「ふふっ、武田君って見た目の印象と違うのね。いいわ、じゃあ月水金から始よか」

「やったぁ!ありがとう渡辺さん」

「ちょ、ちょっと、武田君声大きい」


 

 なんか、大きな声を出している奴がいると思ってそっちを向くと、あれっ渡辺さんと武田だ。へーっ、二人で学食でお弁当食べる仲まで行ったのか、やるじゃないか武田。

「どうしたの柚希?」

「瞳、あれ」


 柚希に言われた方を向くと渡辺さんが先週ゲーセンに一緒に行った武田君という子と食べている。

へーっ、柚希の事諦めてくれたのかな、そうなら嬉しいんだけど。




 武田君とこういう風に二人で話をしたのは初めてだけど、結構共通点が有って面白かった。お昼位なら良いかも。山神君も見れるし。



 お昼を食べ終わって武田君と一緒に廊下を歩いた。二人共背が高い所為か、周りの生徒がサッと身を引く様に退いている。来る時はいやいやだったので気が付かなかったけど面白いな。


 そして私が教室に入って自分の席に行くとあれっ、シートが無い。私は椅子に直接座ると汗が嫌なので今の時期は椅子に薄いシート、座布団の薄い奴を敷いている。それが無いのだ。さっき急いで立ったから落したのかなと周りを見てもない。


 どうしたのかと思いながら何気に武田君の方を見ると取巻きの子達が薄ら笑いをしている。


 まさか!直ぐに教室の後ろ端にあるごみバケツの中を覗いてみると派手に汚されたシートが捨てられていた。


 私は頭に来てもう一度取巻きを見ると私を無視するように話をしている。仕方なく、バッグに入れてある非常用のビニール袋にシートを入れると席に着いた。机の中を触ってみたけど何もされていない。


あっ、山神君が帰って来た。

「どうしたの渡辺さん、何か不安そうな顔しているけど」

「ううん、何でもないわ」


 この位で済めばいいんだけど。武田君止めてくれるなんて言ったけど、もうこれだ。やっぱり彼と昼食摂るの止めようかな。



 翌日、昨日の事もあり下駄箱も注意したけど何も無かった。午前中も何も無く授業を終えた。


 今日はお昼を一人で食べる日。学食に行くって手も有るけど心配だから席で一人で食べているとちらちら武田君がこっちを見ている。でもあまり視線を合わせないようにして食べた。



 翌日、武田君と一緒に学食で食べた。帰って来ると新しいシートの上に画びょうが置いてあった。取巻きをチラッと見ると私を見てヘラヘラ笑っている。明らかにあの子達だ。でも証拠が無い。

 武田君は何もしてくれない。所詮口先だけだったんだ。山神君が帰って来た。



「山神君、次の中休みの時ちょっといい?」

「いいけど」

 何だろう渡辺さん。


午後一番目の授業が終わると私は直ぐに山神君を廊下に連れだした。


「山神君、私いじめにあっている」

「えっ?!」

 彼に、武田君と昼食を一緒に摂った時だけ起きている事を話した。


「ねえ、山神君。何とか出来ないかな。武田君の事、信用して一緒に学食で昼食

食べたけど、最初からこれじゃあ。今後益々エスカレートしていく気もするし」

「うーん、武田に直接話してみたら」

「信用できない口先だけの人に話しても意味ないでしょ」

「しかし、俺に言われてもなあ」


 せっかく武田と渡辺さんが上手く行き始めたと思った矢先にこれだもんな。詩織の言った通りだったな。どうしようかな。


―――――


 またまたです。どうする柚希? パ、パ・ク・リ?


次回をお楽しみに 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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