第62話 柚希の考え武田の思い
俺は、渡辺さんと別れて電車に乗りながら考えた。このままじゃ不味い。渡辺さんは俺の事を好きだと言っているが俺は瞳だけだ。
だけど今のままでは、取り返しのつかない事にもなりかねない。それは武田にしても同じだ。
あまりしたくない事だが、あれしかないかな、瞳さんに相談するか。
家に帰って自分の部屋に戻ってから直ぐに瞳さんに電話した。
『瞳、俺』
『柚希、早かったわね。ファミレスにでも寄って来るのかと思った』
『駅までの道で話したけどそれだけ。ところで相談なんだけど俺と一緒にカラオケに行ってくれない。武田と渡辺さんも一緒だけど』
『どういう事?』
俺は、武田の事を瞳さんに話した。そして渡辺さんが俺と一緒だったら武田と会ってくれるという事も。
俺が武田と話してカラオケに渡辺さんを誘う事にする。但し武田の取巻きは連れて行かない。
俺と武田と渡辺さんでは、目的がずれるから瞳さんも一緒に行って、俺と瞳さん、武田と渡辺さんペアで話して、二人が雰囲気が良くなった所で俺達が帰るという事も。
上手く行くかは分からないが渡辺さんが武田と二人でいる事に抵抗がなくなる事が目的だ。そうすれば後は武田の努力だ。
それと武田には取巻きから離れて貰う事も約束させないといけない。取巻きが渡辺さんを苛めない事も。
『そうね。上手く行くか分からないけどやってみる価値はあるわね。何時にするの?』
『今度の土曜か来週の土曜』
『分かったわ。行く曜日が決まったら教えてね』
『うん』
俺は、次の日、一限目が終わった中休み、渡辺さんと廊下に出て、俺の考えを話した。
「うーん、山神君と二人だけならなあ」
「でも昨日俺が一緒なら武田と会ってくれると言ったじゃないか」
「それはそうだけど。それに武田君の取巻き外せるの?一緒に行くとか言わない?」
「それは大丈夫。部活に行く振りをして図書室で待合せる。渡辺さんも一緒だよ。今度の土曜か来週の土曜」
「それならいいわ。曜日はどっちでもいい」
そして二限目の中休み、今度は武田を廊下に呼びだして、俺の考えを伝えた。
「本当か山神、恩に着る」
「約束したからな。ところで今週か来週かどっちがいい?」
「昨日、練習さぼったからな。出来れば来週が良いんだが」
「分かった」
今週にでも会いたいと言うのかと思ったら武田はバスケ優先なんだ。まあ当たり前か。
そして昼休み。瞳さんが俺を迎えに来た。渡辺さんが微妙な顔をして瞳さんを見ている。
「柚希、学食行こう」
「はい」
あーっ、山神君が上坂先輩と学食に行っちゃった。また一人だ。仕方ない。一人で食べるか。
食事を一人で食べる事程、つまらない事はない。周りが何人かのグループで食べているから余計だ。
俺、山神柚希。一緒にお弁当と言っても瞳さんの作ってくれたお弁当だけど、それを食べながら
「瞳、カラオケは来週の土曜日に決まった」
「えっ、意外だわ。今週行くのかと思っていたのに」
「俺もそう思ったけど、武田本人の都合がそうだから仕方ない」
「じゃあ、今週の土日も会えるね」
「もちろんだよ」
俺達の会話に聞耳を立てている男子諸君が段々悲しそうな顔をしてくる。ごめんね諦めて。
お昼が終わって教室に戻ると渡辺さんが俺をじっと見ている。なんだろう?
「ねえ、山神君。お願いがあるの」
「なに?」
「私カラオケって行った事無くって。だから一緒に練習してくれない」
「えっ?!…それは無理。俺も行った事無い」
ここで予鈴が鳴ってすぐに先生が入って来た。
午後の授業が始まった。何とか山神君と二人きりになりたい。カラオケの練習を理由に誘ったけど、彼も初めてらしい。それでは仕方ない。
私は、中学から陸上をやって来た。毎日練習でも楽しかった。この高校に入っても陸上に力を注いでいたから、テレビの歌謡番組とか見た事ない。
トレンドにも疎い。私が他の女子達と群れないのは、一緒に居ても会話が合わないというか私が分からないから。
今陸上は小林の件が有って一応休部中になっている。その間にも少しはトレンドに目を向けていれば少なくても今よりは良かっただろうけど、普段目を向けていない物には中々目が行かない。どうしようかな?
午後一番の授業が終わった所で山神君を廊下に呼びだした。
「ねえ、山神君。カラオケの件だけど。やっぱり行かない」
「えっ、なんで?」
「だって、本当に歌とか知らないの。行っても恥をかくだけだし」
「うーん、武田に教えて貰えれば。あいつ結構行っているみたいだし」
「それは嫌だ。山神君が教えてくれるなら良いけど」
「俺は無理だよ。そもそも俺自身知らないし。瞳が知っているみたいだから頼るつもり。ちょっと待って考えるから」
これは困ったぞ。渡辺さんが行かないと言い出した。理由は歌を知らないという理由だ。どうしようか。明日亮と詩織に相談してみるか。
翌朝、いつもの様に詩織と駅に向かいながら渡辺さんの事を話した。
「渡辺さんってそんな感じだったんだ。もう少し流行に興味持っているのかと思ったんだけどな。困ったものね。私もカラオケはたまに行く程度だから、人に教えるなんて出来ないし。松本君に聞いてみたら」
電車に乗り途中で亮が乗って来た。俺は詩織に言った事と同じ事を話すと
「困ったなあ。俺もカラオケ興味無いからなあ。ゲーセン位ならまだいいんだけど」
困ったぞ。どうすればいいんだ。
「なあ、二人共何とかならないか?」
「柚希、ハマった感あるな。カラオケ案は良かったけど、その前に渡辺さんに聞く必要が有ったな。どうしてもカラオケじゃないと駄目なのか?」
「目的は渡辺さんが普段武田と二人で話せる様になることだからな。カラオケが一番だと思ったんだけど」
「柚希、思い切ってゲーセンとかに変えたら。結構いいかもよ。二人だけでやる遊びも多いし」
「考えるかぁ」
教室に入り自分の机にスクールバッグを置きながら気軽に聞いてみた。
「渡辺さん、ゲーセンとか行った事ある?」
「そんな所、女の子一人では行かないわよ」
「そうだよねえ」
「でも山神君は行った事あるんでしょ。教えて」
「いや行った事あると言っても、クレーンゲームやエアホッケー位だし」
瞳には負けたけど。
「じゃあ、ゲーセンなら行く?」
「うん、カラオケよりいい」
はぁ、作戦変更とするかあ。
仕方なく、一限目終わった中休み、武田に作戦変更を話した。
「俺もカラオケよりゲーセンの方が良いな。シューティングとか好きだし」
「そうか、じゃあ変更だ」
昼休みになり瞳さんにも話したら
「良かった、カラオケ私も苦手だし。ゲーセンなら柚希と行った事あるから初めてじゃないし」
カラオケって人気あるんじゃないのかな?
そして翌週土曜日の午後になった。
―――――
カラオケからゲーセンに代わった作戦。上手く行くかな?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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