第61話 このままでは済ませない
私、渡辺静香。昨日、神崎さんがアメリカに帰ったと山神君から聞いて驚いたけど、何となく彼女の気持ちも分かる。
日本で一人暮らしをしながら山神君の心を自分に戻そうとして上手く行かない日々に疲れたんだろう。
でも上坂先輩と山神君が不仲になってからは、彼の気持ちが彼女へ移るチャンスも有った筈。それを考えるともっと早くから向こうの両親と話をしていたんだろうな。
でもそれを聞いた後は、私だけが彼にアプローチできると思っていた。ところが、お昼休み、まさかの事が起きた。そう上坂先輩が山神君のお弁当を持ってやって来たのだ。
冬休みに何が有ったのか知らないが、彼と上坂先輩がよりを戻すきっかけが有ったんだろう。
でもそれでは困る。クリスマスの時、山神君を落とし切れなかったけど、時間の問題だと思っていた。上坂先輩がいないのだから。だけど復縁してしまった。
このまま座して見ている気はない。何とかしないと。でもどうすれば。
今日も目の前で山神君が座っている。こんなに彼が近くにいるのに。手を伸ばせば彼の背中に届くほどに。
昼休みになった。直ぐに上坂先輩が嬉しそうな顔して彼を学食に連れて行った。神崎さんが居なくなり山神君が上坂先輩と一緒にお昼を摂る事で、松本君は他のクラスメイトと学食に行く。偶に購買で買って来る事も有るけど。
だからお昼は私一人で食べている。山神君が居て、松本君が居て、神崎さんが居て、皆でお昼を食べている時の方が楽しかった。そういう意味では神崎さんが両親の所に戻った事は私にも大きく影響している。
偶にチラチラと武田君が見て来るけど、私はあの子には興味を湧かない。周りにいる取巻きの中がお似合いの人だ。その中から出て来てからだよ武田君。
あっ、山神君が戻って来た。もうすぐ午後の授業が始まるけど構わない。
「山神君、今日一緒に帰れないかな?」
「うーん、生徒会の仕事があるし、帰りは瞳と一緒だから今日は駄目かな」
「じゃあ、明日とか明後日とか」
「何か用事?」
「うん、用事がある。でも内容はここじゃあ話せない」
「分かった。返事は明日で良いかな?」
「うん」
山神君と一緒に帰れるかもしれない。用事は無い、何か作らないと。
放課後になり俺は瞳と一緒に生徒会室に向かった。
「柚希とこうして居れる様になって嬉しい。もうあんな事絶対にしないから」
こんな事言われると渡辺さんの事言い辛いな。でも言わないと
「瞳、ちょっと聞いてくれる?」
「何?」
「渡辺さんが明日か明後日、用事が有るから一緒に帰りたいと言っている」
「えっ?渡辺さんが!用事って何?」
「それが学校じゃ言えないって言うんだ」
怪しい、絶対に怪しい。あの子は柚希の事が好き。
「柚希、どうしても渡辺さんと帰らないと駄目なの」
「断り辛くて。クラスメイトだし」
「分かった。柚希絶対変な事なしだよ」
「瞳、俺は瞳しか見ていないから」
そんな話をしている内に生徒会室に着いた。
ドアを開けて中に入ると副会長の西富さんが声を掛けて来た。
「山神君、待っていた。各部活からの申請予算の見直しがまだ終わっていない。もう各部活への提示の時期が迫っているの。早く手伝って」
「分かりました。瞳一緒に」
「あっ、上坂さんはこっちの資料まとめお願い」
「はい」
もう、柚希君から上坂さんが離れたからせっかくのチャンスだと思ったのに。冬休み明けたらちゃっかり元に戻っているんだから。
でも彼女は強敵だな。容姿、頭脳ともに完全に負けている。彼は生徒会長の弟、会長を敵に回すとどうなるか、去年の事を見れば分かる。彼女みたいになりたく無いし、ここは無理しない様にしよ。
翌日、俺は教室に入ると
「おはよ山神君」
「おはよ渡辺さん」
「昨日の件どうかな?」
「うん、今日良いよ。でも生徒会の仕事終わってから」
「えっ、ほんと!じゃあ、図書室で待っている。午後五時半位に下駄箱に行けばいいかな?」
「うん」
こんなに早く、山神君と二人きりになれるなんて。
俺、武田信之。渡辺さんと山神が帰りの約束をしている。俺じゃあ駄目なのになんで山神だったら良いんだ。
あいつは上坂先輩とよりを戻しているから渡辺さんがいくら攻めても駄目だろうに。午後五時半に下駄箱か。部活早めに切り上げて声掛けてみようか。
俺は、バスケ部の部長に声を掛けて早めに上がらせてもらう事にした。午後五時半になり、部室で急いで着替えてから下駄箱に行った。渡辺さんが一人で立っている。まだ山神は来ていない様だ。
「渡辺さん」
「あっ、武田君」
「あのちょっと話できます」
「待合せているんで少しなら」
「渡辺さん、もう二回も断られちゃったけど、友達からで良いんです。俺と付き合って下さい。お願いします」
「前にも言いましたけど武田君とは付き合う気は無いの。クラスメイトというだけじゃ駄目なの。それにあなたには取り巻きが一杯いるじゃない。私はあの中に入りたくない」
「あれは、ただのクラスメイトだ。誰とも付き合っていない」
「でも皆で遊んだりするんでしょ」
「あの一つ聞きたいんだけど、もし俺があの子達と離れたら付き合ってくれる?」
「駄目よ。あの子達に恨まれたくない。とにかくそう言う訳だからあなたとは付き合えない」
「…………」
俺、山神柚希。生徒会室から瞳と一緒に出て下駄箱に向かった。瞳はそのまま帰るという事になっている。下駄箱に着くと武田と渡辺さんが話をしている。今近付くの不味いかな。ちょっと様子を見ているか。武田がんばれ。
「じゃあ、なんで山神とは一緒に帰るんだ」
「彼は私の大切な友達よ。だから一緒に帰るの」
なんか不味い話になっているなあ。このまま出て行くのは不味いな。どうしよう。あっ、渡辺さんがこっちを見た。
「あっ、山神君、待っていたよ。早く行こう」
「えっ、でも武田が渡辺さんと話が有るみたいだし、今日は止めておこうよ」
「武田君は、ここで偶々会っただけ。さっ、早く行こう」
「武田…」
「いいよ、山神。またにする」
武田が肩を落として帰って行く。渡辺さんは絶対武田と合っていると思うんだけどな。
俺は渡辺さんと一緒に歩きながら
「俺、渡辺さんと武田って似合うと思うけどな」
「今更何を言っているの。私は山神君だけよ。絶対に上坂先輩にだって負けないから」
「いやそんな事言われても、俺、瞳と別れる気更々無いし」
「分からないじゃない」
「あのそんな事より用事って何?」
あっ、考えていなかった。まあいいか。
「武田君のしつこいアプローチをどうやって止めるかって相談。ねっ、これ学校じゃ話せないでしょ」
「いやいやいや、俺に言われてもどうにもならないよ」
「そんな事言わないで何とかして」
「なんで俺にそんな事言って来るの?」
「山神君しか言う人いない」
「…………」
俺は、益々武田に頑張って欲しくなった。どうしたものか。こんな事話していても埒があかないぞ。
俺達は駅に着くまでその話をしていたが、答えなんか出ない話だ。改札まで来たところで
「渡辺さん、とにかく一度武田と二人で話をして見たら。あいつ結構いい奴だし。話、合うと思うんだけど」
「嫌、どうしてもって言うんなら山神君が一緒ならいいよ」
それじゃあ、意味ないよ渡辺さん。これじゃあどうにもならない。取敢えず家に帰るか。
「渡辺さん、じゃあこれで。また明日」
「えっ、ちょっと待って山神君」
彼が改札に入っちゃった。仕方ないか。次を考えよう。
―――――
渡辺さん、困ったものです。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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