第60話 冬休みが明けて
正月が明けてから瞳と俺で真浄寺先輩に会った。お礼を言う為だ。
「瞳、良かったな。山神と元に戻れて」
「はい、誠司さんのお陰です」
「真浄寺先輩、本当にありがとうございました。もし先輩が動いてくれなければ、今この時が無いと思うと言葉に変えられない位嬉しいです」
「瞳、山神。その言葉忘れるなよ。俺はお前達が元通りになる事だけを考えて動いた。ただ同じ事はもうするなよ。どっちもな」
「「分かっています」」
「そうか、それなら良いが」
瞳さんの家の最寄り駅の近くで会って話をした。その後は用事が有るらしく俺達を残して直ぐに席を立った。
「柚希、まだ午後一時。この後、どうしようか?」
「瞳の思うままでいいよ」
彼女が急に下を向いた。
「じゃあ、家に来ない。午後五時まで家族いないんだ」
「いいですよ」
俺の気持ちはもう少し整理が必要だし告白は改めてする事にしているけど、今は彼女の気持ちを優先しよう。今はそれでいい。
瞳さんの家に着いた。彼女の部屋に行くと入ってから直ぐに俺の首に腕を回して来た。
「あれ以来全然してなかった。だから今日は一杯して」
…………。
ふふっ、嬉しい。久しぶりのこの感覚。柚希と元に戻れて良かった。
午後五時少し前に二人で家を出てもう一度駅前の喫茶店に行った。
「瞳、学校の事だけど。去年までの誤解を解かないといけない。だからまず毎日一緒に登下校しよう。登校の時は亮と詩織も一緒だけどいいかな?」
「えっ、本当!嬉しい。松本君と幼馴染さんは全然構わない」
「それとお昼のお弁当作ってくれるかな。それを学食で一緒に食べよう。こうすれば俺と瞳が元に戻った事を他の人に教える事が出来る」
「それって毎日でもいいの?」
「ああ、出来れば。大変だったら前と同じでも良いけど」
「ううん、絶対に毎日作る」
「そうか、嬉しいよ」
そして冬休みも明けた月曜日。いつも様に玄関を出ると詩織も同じように玄関を出て来た。
「詩織おはよう」
「おはよう柚希」
吐く息が白い。
「詩織、突然だけど俺、瞳とまた付き合う事にする」
「えっ?!いきなりどうしたの?」
「実は…」
俺は年末に瞳さんの家で有った事を簡単に話した。
「それはまた凄い事だったわね。でも真浄寺先輩がそこまでするなんて、よっぽど上坂先輩が大事だったのね」
「うん、二人でお礼にも行った」
「まあ、良かったじゃない。でも学校の事はどうするの?」
「そうだ、今日から一緒に登校する事にした。もちろん詩織と亮も一緒だけど。後、お弁当も復活。それに姉ちゃんが誤解解くの協力してくれるって言っていたし」
「そうかあ、柚希のお姉さんが動くなら解決は早いかもね」
「後、…梨音がアメリカに帰った」
「えーっ!!」
「理由は聞かないで」
「うん、いいけど。柚希大丈夫?」
「うん、立ち直るの少し時間かかったけど。今は大丈夫」
本当はまだ引き摺っている。
「そうかぁ」
話している内に駅に着いた。途中亮が乗って来たけど電車の中だから話すのは止めた。途中梨音が乗ってこない事に俺の顔を見たけど後で説明すると言っておいた。
学校の最寄り駅に着くと改札に瞳が待っていた。
「柚希おはよう。松本君、設楽さんもおはよう」
「おはよう瞳」
「「おはようございます上坂先輩」」
学校に行きながら詩織に話した事を亮にも話した。流石に驚いていたけど。
学校について瞳とは下駄箱で別れた。教室に入るまでは大変だろうけど後は姉ちゃんが上手くやってくれる事を祈るしかない。
俺達も教室に入ると渡辺さんが不思議そうな顔をした。
「山神君、おはよう。神崎さんは?」
「渡辺さん、それは後で」
頭に疑問符を一杯立てながら不思議そうな顔をしている。武田をチラッと見るといつもの取巻きに囲まれて話していた。渡辺さんの事大丈夫かな?
やがて予鈴が鳴って担任の祥子先生が入って来ると
「皆さん、おはようございます。始業式が有るので廊下に出て。体育館に行きます」
がたがたと皆が出て行く隙を狙って小声で
「梨音はアメリカに帰った」
「えーっ!!」
「静かに。大きな声出さないで」
「ごめん」
何人かがこっちを見たが、直ぐに向き直した。
始業式も終わり教室に戻ると少しして祥子先生が入って来た。
「皆さんに悲しいお知らせが有ります。神崎梨音さんが退学しアメリカのご両親の元に戻られました」
「「「えーっ!!!」」」
武田が直ぐの俺の方を向いた。どうしてだという顔をしている。
「静かに。去年九月に来てたったの四か月間でしたが、皆さんに宜しく伝えてと言付けされています。冬休み中に戻られたので皆さんに直接お別れを言えない事を申し訳なく思っていますという事でした」
何故か、教室の皆が一斉に俺の方を向いている。皆どうしてだという顔をしている。なんか面倒だな。
一限目の中休み早速、男子や女子が俺の所に集まって来た。
「山神、どういう事なんだ?」
「山神君、教えて。神崎さんなんで帰ったの?」
「いや俺に言われても」
「そんな事言っても神崎さんお前の事好きだったじゃないか。余程の事が無ければ帰らないだろう。何か言われているんだろう?」
「まあ、待て皆。柚希もまだ心の整理がつかないでいるんだ。その質問はもう少し落着いてからにしてくれ」
助かった。亮が皆を説得してくれている。
「でもよう、誰が見ても山神の為にアメリカから戻って来たのに山神が何も知らないでアメリカに戻るって事は無いだろう」
「だから、その質問は待ってくれと言っている」
少し強めに亮が言うと
「絶対だぞ」
その一言で皆自分の席に戻って行った。
「亮、ありがとうな」
「ああ、良いって事」
渡辺さんが側に居る状況で説明なんか出来ないし、する気もない。その内皆忘れるだろう。
昼休みになると
「柚希、お昼食べよう」
「「「えっ?!」」」
瞳さんが入って来てまた驚いている。
「どうして。上坂先輩は山神君を裏切ったんじゃないの?」
「何で今更?」
今度は女子が声を出している。
「瞳、気にしないで。学食行こうか」
「うん」
俺が瞳さんと一緒に学食に行く為に廊下を歩いていると去年の事を知っているのか皆目を丸くして驚いた顔をしている。瞳さんが心配そうな顔をしているけど
「瞳大丈夫だ。これも数日で終わるよ」
「そうだけど」
やはり今までの事が応えていたんだろうな。
学食に入ると目立つように真ん中辺りで二人で座った。
「どういう事だ?」
「上坂は山神を裏切ったんじゃないのか?」
「あの女ビッチだったんじゃないのか」
皆好きな事を言っているが今の発言は聞き捨てならなかった。直ぐに席を立つと
「おい、今の言葉は訂正しろ。瞳はビッチなんかじゃない。それに瞳は俺の彼女だ」
いきなり俺に言われた事で相手の奴が目を丸くして驚いている。そして俺の一言で周りが一斉にざわつき始めた。
言った奴を無視して席に戻るとわざと皆に聞こえる様に
「瞳、一緒にお弁当食べよう」
「うん」
俺達が周りの声を無視して食べていると段々静かになって来た。ここ数日はこうだろうな。食べている途中
「柚希、ありがとう。さっきの嬉しかった。それにかっこ良かったよ」
「そ、そうか」
喧嘩も出来ない俺があの時ばかりは頭に血が上って何も考えずに相手に向って言ったけど、今考えると結構危ない事したな。あいつは引いてくれたけど、相手が悪(ワル)だったらとんでもない事になっていた。
食べ終わって少しすると
「瞳、少し時間があるから生徒会室に行こう」
姉ちゃんがいるはずだから。今日からの生徒会の仕事を瞳さんと一緒にやる事を伝えないといけない。
俺達が生徒会室に行くと姉ちゃんが話してあるのか暖かい目で見られた。
「姉ちゃん、生徒会の仕事の事だけど」
何故か姉ちゃんの右目がピクッとしたけど
「ああ、その事ね。上坂さん、今日から庶務に復帰して貰えるかしら?」
「はい喜んで」
「柚希、これで良いわよね」
「うんありがとう姉ちゃん」
「柚希、ここでは生徒会長」
皆が声を出して笑っている。
放課後、瞳さんと一緒に歩きながら
「柚希、ありがとう。明日から学校に来る気持ちが楽になった」
「教室は?」
「うん、お姉さんのお陰でだいぶ良くなったけど、前々から私を嫌っていた人達はそのまま。でも仕方ないわ」
「そうか、でも良かったな」
「うん」
―――――
瞳さん良かったね。柚希も彼氏の面子躍如です。でもまだ解決していない事は一杯有ります。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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