第58話 梨音とクリスマス
この話まで少しだけ時間が戻っています。
―――――
昨日は、渡辺さんとクリスマスパーティをした。彼女の気持ちはとても嬉しいけど、だからこそいい加減な気持ちで向き合いたくない。キスはされちゃったけど。
今日は、梨音の部屋だ。多分同じ状況になる事は十分考えられる。でもしない、したくない。こんなふらふらないい加減な気持ちで梨音としたらそれこそ渡辺さんに申し訳ない。
怖いのはそれでも自分自身だ。俺は梨音の体を知っている。だから自分自身に言い聞かせないといけない。梨音と復縁するのも渡辺さんと付き合うのもどちらかとはっきりとさせる事だ。
俺はこんな事になる人間でない事は自分自身が一番知っている。今の状況がおかしいとしっかり理解していないと行けないんだ。
考え事している内に梨音のマンションに着いた。スマホで彼女に電話する。
「梨音、着いたよ」
「分かった。ちょっと待って」
少し待っているとマンションの入口が開いた。そのまま入って行くと二つ目のガラス扉がある。それも開いた。入って行くと梨音が待っていた。
「エレベータは私がいないと上がれないの」
そう言って非タッチ式のカードをエレベータ脇のボードセンサーにかざすとドアが開いた。降りる階はもう表示されている。行先は二十一階最上階だ。いつ見てもセキュリティがしっかりとしている。
エレベータを降りて左に折れるとドアの前で非接触型カードをもう一度ボードセンサーに掲げた。
ガチャ。
そして少ししてからまた
ガチャ。
一回目で開けようとするとセキュリティ会社に通報が行くらしい。
「さっ、入って」
「お邪魔しまーす」
「ふふっ、柚希誰もいない事知っているのに」
「でも言わないと」
「じゃあ、いらっしゃいませ」
「うん」
一度しか来ていないが天井が高くダイニングリビングがとても広い。カーテンが開いている窓は、街並みそしてその向こうの山脈までも一気に見渡せる。
「今日は天気が良いから景色がいいわ」
「そうだね」
「料理はもう用意してある。時間が決まっていたから。後は温野菜を温めるだけ」
渡辺さんの所も凄かったけど梨音の用意してくれた料理も凄かった。鳥はホールだ。
「柚希、ダウンは入口のコートハンガーにかけておいて。手を洗ったらパーティ始めようか」
俺はダウンをコートハンガーにかけてから洗面所に行くと自動的に明りが点灯した。人感センサーだ。
「二つある寝室以外は全部これと同じ。これの方が消し忘れないから」
「…………」
なんか生活水準が違う感じがする。
手を洗いダイニングに行くと前来た時は良く見ていなかったけど、ダイニング側にあるテーブルとは別にリビング側にもローテーブルとソファがある。ローボードの上に有るテレビと横に付いているスピーカー。ローボードの中にはデッキ以外に高そうなプリアンプ、パワーアンプそれにCDデッキが入っていた。
「凄いなこれ」
「うん、一人で居る間寂しいから買ったの。後でなにか聞いてみようか」
「うん」
梨音が冷蔵庫から冷えた瓶を持って来た。
「シャンパン替わりのアップルタイザーよ」
昨日と同じだ。それをフロートグラスに注ぐと
「「メリークリスマス」」
少し飲んでからバッグの中からプレゼントを出した。
「梨音、これクリスマスプレゼント」
「ほんと!嬉しいな。直ぐに開けていい?」
「もちろんだよ」
中を開けると可愛い刺繍の入った水色のハンカチが入っていた。
「素敵。大切に使うね。じゃあ、私からも」
梨音のプレゼントは袋の中に入っていた。開けて見るとマフラーだ。
「凄い、これ手編みだよね。とても嬉しいよ」
「うん、毎日少しずつ編んだんだ。渡せてよかった」
もし、あのままだったら、このパーティも開けなかった。そう思うと嬉しくて堪らない。
「柚希。食べよ。暖かい内がいいわ」
「ああ、食べよう」
梨音は昔から料理上手だ。そして俺の好みの味も知っている。本当に美味しい。
「梨音、めちゃくちゃ美味しいよ。ありがとう」
「ふふっ、そう言ってくれると作った甲斐が有ったわ」
昨日は多分渡辺さんの所。でもその分時間が空いたから思い切り柚希の好きな味に出来た。チキンは勿論オーブンで焼いた。柚希の好みの味に。
温スープも野菜の入ったコンソメスープ。パンに少し付けながら食べるととても美味しい。これも柚希の好きな味にした。
口に一杯頬張って食べている。このまま抱き着きたい。でもそれは後から。
「ふーっ、食べた。もう入らない」
「ふふっ、嬉しい。片付けるから少し休んでいて。片付け終わったらビデオ一緒に見ようか」
「俺も一緒に片付けるよ」
「じゃあ、食器をキッチンのシンクに持って行って。私が洗ったら布巾で拭いて、そのテーブルに置いて。柚希、食器棚の位置分からないから」
嬉しい、めちゃくちゃ嬉しい。私が食器を洗って水洗いすると柚希がそれを布巾で拭いてテーブルに置いてくれている。
この時間が欲しかった。絶対に柚希は誰にも渡したくない。でももう遅い。
食器を洗い終わって拭き終わると
「柚希、今、ホットミルクティ作るから。ローボードの横にあるラックから好きなビデオ選んでおいて」
「了解」
俺は、梨音がホットミルクティを作ってくれている間に、ラックの扉を開けて中を見た。女の子らしいビデオやコンサート映像だ。その中にアメリカ海軍航空隊のヒーロー達を描いたビデオが有った。これってもうビデオ化しているんだっけ?
俺はそのビデオを手に取って
「梨音、これってもうビデオ化してたっけ?」
「ああ、それはアメリカの両親に向こうで買って貰って送って貰ったの。それは日本規格じゃないから。一番左側のデッキで再生する」
良く見ると普通のチューナー付きビデオデッキの他に左側に日本じゃ見た事のないメーカーのデッキが置いてあった。
「字幕ないけど面白いよ。見る?」
そうか、梨音は向こうの学校で授業を受けれるレベルの英語力だったという事を忘れていた。
「いや、そこまで英語分からないから別のにする」
結局二人で見たのは、テレビで録画していたゴールデンタイムで放送されている有名な若い男女の恋愛映画だった。
梨音が俺の横にくっ付く様にして座っている。手もいつの間にか恋人繋ぎになっている。録画が終わるとゆっくりと梨音が俺の方に寄りかかって来た。
何も言わずにそうしているだけだ。この位ならいいか。
「柚希、私の部屋に行こう」
「…………」
「ねえ、お願いだから行こう」
「駄目だ。行けばそういう事になる」
「しなければいい。ただここよりいい」
梨音が立って俺の手を引っ張った。動かないでいるとじっと俺の顔を見て
「ここでもいいよ。もう時間がない。最後だから」
「どういう意味だ」
「理由はいい。お願い、これが最後だから」
理由は分からないが悲しいというより悲壮な感じで言って来た。何か理由が有るのか。
「駄目だ梨音。お前が嫌いじゃない。むしろ好きになり始めている位だ。だからきちんと心の整理がついてからにしたい」
「柚希、そんな事いいの。もうどうでもいいの。だからお願い」
「どうしたん利音」
「柚希、本当にお願い」
梨音どうしたんだろう。
「梨音、そんなに言うなら。でもこれっきりだぞ」
「うん」
…………。
嬉しい。この感覚忘れていた。柚希が入って来る。この頭の先から足の指の先まで貫くようなこの感覚高揚感。忘れない絶対に。柚希もっと。
「柚希、ありがとう」
「梨音どうしたんだ」
「何でもない。ねえ柚希明日からアメリカに行く。両親が正月くらいこちらに来て顔を見せてくれって言うの」
「そうか、それは良い事だと思うぞ」
「うん」
柚希が帰って行った。嬉しかったよ。ありがとう柚希。
―――――
えっ、梨音ちゃんどういう事?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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