第57話 渡辺さんとクリスマス
少しだけ時間が戻ります。
―――――
今日は土曜日、クリスマスイブ。渡辺さんと一緒に過ごす約束をした。実はその後、梨音とも約束をしてしまったけど、彼女とは明日の日曜日に会う事にした。
中学三年生の時、梨音がいきなり新しい彼が出来たと言って俺を振って以来、クリスマスを家族以外の人と過ごすのは初めてだ。
渡辺さんから誘われた後、何処で開くのか聞いたら、ファミレスとかでは出来ないし、カラオケとかじゃ、いやだから私の家で開きましょうという事になった。
少し抵抗は有ったけど、俺の家では出来ないしと思うと選択肢が渡辺さんの所しか残らなかったから仕方ない。
と言う訳で午前九時四十五分、彼女の家の最寄り駅の改札にいる。その駅はなんと学校のある駅の隣駅。俺の家とは反対方向に行った駅だ。
私は時計を見ると午前九時五十分。私の家は駅から五分程住宅街に入った所。だからそろそろ迎えに行こうかな。
家の中は私だけ。両親は仕事。年の離れた兄がいるけどクリスマスイブだけにもう出かけている。
駅まで歩いて行くと、いたいた。山神君がスマホを弄りながら改札の傍に立っている。紺色の厚手のコットンパンツにスニーカー。紺のダウンを着ている。そして肩にはショルダーバッグ。
私は、家から近い事も有るけどタイツとスカートそれに茶色のダウンにスニーカーだ。
「山神君待ったあ」
彼が顔を上げた。
「あっ、渡辺さん。さっき来た所」
「そう、じゃあ行こうか」
彼の隣にススッと立って歩き始めた。ふふっ、嬉しい。二人で並んで歩きながら私の家に行くなんて。なんか期待しちゃうな。だって心の準備は十分にしてあるから。
この辺は駅の周りに商店街があるだけ。交差点を渡ってから直ぐに住宅街に入る。
「山神君。この辺は来た事ある?」
「いや初めてだよ」
もう一つ先の駅が瞳さんの家の最寄り駅で有る事が頭の中に過ったけど意識を消す事にした。
「ここよ。私の家」
渡辺さんの家は駅から五分程歩いたところにある閑静な住宅街の中に有る二階建ての家だった。この辺は全般的に庭がある大きな家が多いけど渡辺さんの家も周りと同じ様に大きかった。
鉄の格子で作られている飾り門を開けて少し先に玄関がある。彼女が玄関を鍵で開けると
「さっ、入って」
「お邪魔しまーす。…あれ?」
「うん、家族はみんな出かけている」
「…………」
良いのかな?
「山神君、ダウンはそこのコートハンガーにかけて」
「分かった」
玄関を上がると少し廊下を歩いてオープンキッチンのダイニングとリビングが有った。
「へーっ、広いんだ」
「うん、LDKだからね。二十一畳ある」
俺の家はダイニングとリビングが別れているから比較できないけど、それにしても広いな。
「山神君。ローテーブルの方に座って待っていて。料理直ぐに用意するから」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう、でもいいわ。一人で出来るから」
俺は仕方なくローテーブルの傍にあるソファに座った。大きなローボードの真ん中に大型テレビが置かれている。ローボードの中はチューナーやデッキが入っている。キッチンの反対側は一面大きな窓ガラスだ。外に庭が見える。凄いな。
渡辺さんがキッチンで何かしているけど、手伝えないから仕方ないか。仕方なくスマホを弄っていると
「山神君、ここにあるお皿持って行ってくれるかな?」
「もちろん」
スマホを弄っているよりいい。
その後、彼女が色々と料理を運んできた。アンチョビやカットレモン、ハムやスライスエッグがのっているクラッカー。大きな皿には周りにクレソンが添えられた鶏もも一匹分のローストチキン。
サラダはトマト、茹でシュリンプ、スライスエッグをルッコラの上にのせている。スープはコーンポタージュだ。
「凄い、これ一人で作ったの?」
「うんと言いたいところだけど、ローストチキンだけはお母さんと一緒に昨日から仕込んだの」
「でも凄いよ」
「これで乾杯ね」
彼女の手にはフロートグラスの中に泡が立っている飲み物がある。
「これは?」
「さすがにシャンパンは飲めないからアップルタイザーよ」
なるほど。
「メリークリスマス」
グラスは決してカチンとかしない。親がそうしているからだけど。グラスを置くと持って来たバッグの中から前に買ったプレゼントを出した。
「渡辺さん、これ気持ちだけどクリスマスプレゼント」
「えーっ、嬉しい。実言うと誘ってから時間も無かったから期待してなかったの。とても嬉しいな。開けていい?」
「もちろんだよ」
本当は少しだけ期待していた。でも実際にこうやって手にするととても嬉しい。開けて見ると女性用の可愛いハンカチだ。
「素敵。大切に使わせてもらうから」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「私も。はい、クリスマスプレゼント」
中を開けると同じようにハンカチだった。色違いだけど何となく似ているのは気の所為か?
「とても嬉しい。大事に使わせてもらうよ」
「ふふ、それは一つ目ね。二つプレゼント用意している。それは後からね」
なんだろう二つ目のプレゼントって。
それから普段の生活の話や趣味の話などをしながら食事をした。渡辺さんの作ってくれた料理はどれも大変美味しかった。
食べ終わると
「食器片付けるからちょっと待って」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう、じゃあお皿とかキッチンのシンクに入れて」
彼が一緒に食器を運んでくれている。何か嬉しいな。
片付け終わると
「山神君、私の部屋に行こうか。少しゲームとか用意しているんだ」
「ほんと?」
俺はゲームという単語に釣られて何気なく二階にある彼女の部屋に連れて行かれた。階段で前を歩く渡辺さんのスカートの中が見えそうで目のやり場に困ったけど。
彼女がドアを開けると女の子特有の匂いが漂って来た。
「さっ、入って」
六畳位だろか。白をベースにした壁。机にベッド、本棚。窓には白い可愛いカーテンが掛かっている。二重カーテンの様だ。
「狭くてごめんね」
「そんなことないよ」
「まずカードゲームからしようか」
「いいよ」
「負けたら罰ゲーム付だよ。負けた方が勝った方の願い事を一つ叶える」
「あのそれって出来る範囲だよね」
「もちろん、命のやり取りは無し」
それはそうだけど…。
「じゃあ、はじめようか」
「ふふっ、勝った。じゃあ願い事。今から私の事を静香って呼ぶ事」
「えっ!それは」
「出来る範囲でしょ。言ってみて」
「し、し、しずかさん」
「駄目。さん無し」
「し、しずか」
「はい、もう一度」
「静香」
「ふふっ、嬉しいな。ずっとだよ」
次は俺が勝った。
「願い事。さっきの名前呼び無しにする事」
「それは無し。ずっと続けるの」
「じゃあ、…困ったな。貸一つという事で」
「ふふっ、また勝った。今度は私にキスをする事」
「えーっ、それは」
「出来る範囲でしょ。口にしなくても良いわよ」
「し、仕方ない」
彼は私のおでこに軽く唇を付けた。
「ふふっ、また勝った。今度はね、私の二つ目のプレゼントを必ず受け取る事」
「二つ目のプレゼント?」
「うん」
この時を私は待っていた。絶対に山神君と…。
「ちょっとだけ、目を瞑って耳を塞いでいて。良いというまで絶対に目を開けては駄目よ」
「分かった」
俺はぐっと強く目を瞑って両手で耳を塞いだ。渡辺さん何する気なのかな。
彼が目を瞑った。いまだ。私は急いで上着とスカートを脱ぐとブラに手を掛けた。そして彼の直ぐ前に座った。
「山神君、ゆっくりと目を開けて」
「えっ!」
俺は目を開けると決して大きくないけど小さくもない綺麗な形をした胸が目の前にあった。
「私の二つ目のプレゼント。受け取って」
渡辺さんが俺に抱き着いて来た。
「わ、渡辺さん。ちょっ、ちょっと」
彼女の体は俺より大きい。そのまま倒された。
「山神君。君に告白してからもう一ヶ月が経つよ。いい返事が出来ない理由は分かる。だから私の体でその理由を消してあげる」
いきなり口付けをして来た。肩を掴んでどかそうとしても動かない。俺の頭をしっかりと両手で押さえられているからだ。
片手が離れたと思ったら俺の右手を彼女の左胸に持って行かれた。
「抱いて。お願い」
彼女の胸は柔らかく丁度俺の腕の中に納まる位だ。でも不味い。顔を思い切り背けると
「渡辺さん、頼むからどいて」
「やだ、それに静香って呼んでくれない」
「分かった静香。お願いだから一度退いて」
彼女がやっと俺の上から離れた。上半身は裸。下はピンク色のパンティだけだ。
「山神君、お願い。私はあなたの事が大好き。君が今私を好きでなくてもいい。これは私からのプレゼント。受け取ってお願いだから」
もう一度抱き着いて来た。今度は俺も彼女の背中に手を回して
「嬉しいよ。そこまで俺の事思ってくれているなんて。だから俺は君を抱けない。俺だって君の事嫌いじゃない。
友達としてとてもいい人だと思っている。好いてくれるなら応えたいと思っている。でもまだ、心の中がその気持ちになれないんだ。待ってお願いだから」
「分かった。じゃあ、じゃあ。これだけはして。君からのキスが欲しい」
「ごめん。出来ない。…うわっ」
彼女が思い切り俺の唇に彼女の唇を合わせて来た。仕方なくそうしているとゆっくりと離れて
「山神君って、ほんと真面目だよね。君を大好きな女の子がここまでしても手を出さないなんて。…だから、だからそんな君が大好き。絶対に君の心の中に在る人を追い出して見せるから」
「…………」
―――――
渡辺さんの強行を何とか防いだ柚希。でも…。どうなるんだろう。
この時点では前話の話は出て来ていません。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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