第56話 責任取れるのか


 俺、西芝徹(にししばとおる)。俺は城智大学経済学部二年生。俺の親父は日本では有名な西芝電機の社長だ。

 俺は次男。だから長男が継ぐだろう西芝電機に入ってそれなりのポジションで適当に人生を暮らすつもり。次男の特権だ。


 俺はモテる。適当にイケメンだし、身長もそれなりにある。大学も私立では良い所だ。それに俺の背中には会社の看板がある。それを狙ってか女が結構寄って来る。学生は元より社会人までもが。


 だから適当に遊んでいる。まぁこんな事、親は知らない。家では顔だけは真面目にしている。だからこんな俺に取引先の社長の娘にいい子がいると親父に言われた。

大事な部品を提供してくれる会社だから大事にしたい。先々考えて会って見てはどうかと言われた。



 俺にとっては会社がらみでちょっと面倒だと思ったが、まあ興味半分で会って見た。その時は親父も向こうの父親もいたが、大した美人でスタイルも抜群だった。


だからその時は、真面目に色恋なんぞ知らない顔して話した。その日は日帰りだというので、来週は二人で会いたいと言った所、その娘は嫌な顔を見せたが娘の父親が勧めてくれたおかげで会う事が出来た。もちろん東京に来た。


 当然一泊するだろうと思って、昼間は面白可笑しい話をした。その娘も結構笑っていたので気が合いそうだ、これなら夜になればどうにでもなると思っていた。


 そうしたら帰るという、仕方なしに来週も会いたい。今度はそちらに行くと言った。そうすれば泊る事も可能だし、昼間からだって何とかなる。



 俺は行く前に近辺の街をWEBで調べた。近くに映画館やデパートそしてラブホ街まである街が有った。いわゆる東京近郊都市の典型だ。だから映画を見に行こう、でもその前に少し散歩しようという事にしてそれとなくラブホ街に歩いて行った。


 彼氏がいるとは聞いていたので、一回位なら分からないだろうと誘ったが逃げられた。頭に来た俺は親父を通して相手の父親にクレームをつけたが、反対に俺がラブホに連れて行こうとしたと言われたと親父が言って来た。

 

 家では真面目な顔をしている俺はそんな事する訳がないと一蹴した。その後は知らない。俺にとっては一時の女位に思っていたからだ。



 ところがところがだ。俺が遊んでいる女の中に俺の子を妊娠したと言って来た女がいた。社会人だ。いつも避妊しているが、その女とした時は生理終わったから大丈夫と言われ、そのまましてしまったがそれは嘘だった。


 俺は知らないと突っぱねたが、その女、俺の親父に弁護士を通して言って来た。DNA鑑定までしたと。


 それを知った父親は怒り、普段静かな父親が俺を殴り飛ばし、俺の口から女関係を話させた。まあ適当に言ってやったけど。


 その時だ。俺の親父にあの娘の父親から連絡が入った。俺に相手の娘とその彼氏に謝れと言って来た。


 何を言っているんだと俺は突っぱねたが、正義感の強い親父は、謝りに行け。私もついて行くという事になった。多分俺が逃げない様にする為だろう。いや会社の為か。



 そして今俺は上坂家の客間にいる。俺の前にはこの前会った娘とその彼氏、それに娘の父親と俺の親父だ。


「上坂さん、今回はうちの愚息が愚かな事をして大分迷惑を掛けたと聞いている。今日は愚息を連れて謝りに来た。徹、謝りなさい」


 くそ面白くもねえ。俺の前にはまるで特徴もねえモブ男がいる。これなら俺のがよっぽどいい。


「瞳さん、そんな男より俺の方がよっぽどいい。俺と付き合わないか?」


 全員が目を丸くしている。俺が素直に謝るとでも思ったのか。相手の男が俺と同じ位なら謝ってもいいと思っていたが背も俺より低いし顔も駄目だ。何が良いんだ。



「徹、何を言っている謝りに来たのだぞ」

「だけどお父さん、こんな奴なら俺の方がよっぽど瞳さんと…」


 途中で俺の頬が思い切り痛くなった。そう親父が俺の頬を殴ったからだ。

「情けない。分もわきまえない事を言い追って。この前の事と言い、今日限りお前は勘当だ!」

「えっ?!ちょっと待ってよお父さん。俺の言っている事正しいだろう」


 また俺の頬が痛くなった。

「この馬鹿者!お前が今すべきは謝罪だ!」


 親父が凄い目で俺を睨んでいる。仕方ねえか。勘当は不味いな。遊べなくなる。仕方なく


「瞳さん、済みませんでした。貴方があまりにも魅力的なのでついラブホに…」


 また俺の頬が痛みを感じた。


「上坂さん、本当に申し訳ない。このバカ息子は、反省する気が無いらしい。私が代わりに謝る。バカ息子が瞳さんを強引にホテルに連れ込もうとした事、本当に申し訳ない。この通りだ」


「西芝さん、頭をお上げください。貴方がそこまで頭を下げる必要はありません。瞳、それに山神君。これで良いか?」



 俺、山神柚希。目の前で茶番を見ている様な気分だ。瞳さんの相手の男を見た時は、少し考える事も有ったが、こいつの話を聞いている内に、確かに瞳さんがラブホに連れ込まれそうになったのだと分かった。

こいつと瞳さんは体の関係のない事も。こんな馬鹿男に瞳さんが傾くはずがない。


「瞳さん。俺はいいよ」

「柚希、それは私の言った事を信じてくれるという事?」

「はい」

「なら、お父さん。私もこれで良いです」


「西芝さん。娘達もこう言っています。この事はもう終わりにしましょう」

「そうですか。本当に申し訳ない。我が社の製品に上坂精密機器の電子部品は無くてはならないもの。それを止められたら大変な事になる。これからも宜しくお願いします」


「西芝さん。貴社はうちにとって大切な取引先です。これからも宜しくお願いします」

「ありがとうございます。それではこれで帰らせて頂きます。ところで君は山神という苗字だが、君のお父さんは東京の大学で教授をしているかね?」


「はい、俺の父さんは帝都大で学生に教えながら産学共同で新型素子の研究開発をしていると聞いています」

「やはりな。今日は上坂さんの所に伺って良かった。来なければ上坂精密機器からの電子部品と我が社の新製品の重要部位を失うかも知れなかった。良かった。では帰らせて頂く」



 なんで、この人父さんの事知っているんだ?まあそんな事はいい。用事は終わった様だ。俺も帰るかと思っていたが、



「山神君、もう少し話が出来るかね?」

「良いですけど」

 なんの話が有るんだ。


「まず最初に瞳に誤解させるような行動を取らせて君達の間を悪くさせたのは、私の所為だ。この通りだ謝る」

 瞳の父親が俺に頭を下げて来た。こんなことしなくてもいいのに。


「頭を上げて下さい。瞳さんと俺の事で親が頭を下げて頂く事はありません」

「そうは行かない。君は瞳と付き合っているんだろう。この子は私の大切な一人娘だ。まだ高校二年生だが、将来は優秀な男性を婿養子としてこの上坂精密機器を継いで貰わなくてはいけない。

 君が瞳と今後も付き合うと言うならその覚悟、責任も取って欲しい。もし取れないなら直ぐに瞳と別れてくれ。瞳には相応しい男を探す」


 いつの間にか客間に来ていた瞳のお母さんが

「あなた、何を言っているんですか。そんな考えだから今回の事が起こったのです。今大切なのは瞳の心を平穏に戻す事。それには山神君が必要なんです」

「しかし私は…」

「駄目です。今は会社の事より娘の事が大事です」


 俺が見ているのは、なんか二回目の茶番劇か?


「ごめんね山神君。この人自分も婿養子だから、どうしても会社をしっかりと背負っていかなくてはいけないという気持ちが強くて変な事を口走ってしまったのよ。

 山神君、私からもお願い。瞳の事信じてあげて。そしてもう一度仲良くしてあげて」


 俺に瞳さんと両親から真剣な眼差しでぐっと視線が注がれた。


「柚希…」

「瞳さん。俺は真浄寺先輩と約束しました。俺とあなたに相手の男からラブホに連れ込もうとしたのは自分だと言ってくれたら、俺はあなたを信じると」

「じゃあ、もう一度私の彼になってくれる?」

「…俺は瞳さんに酷い事を言いました。そのおかげであなたは学校の中で酷い目に遇っています。

 だから俺はまだあなたの彼に戻る資格が有りません。それを俺が払拭出来たら、改めて俺から告白します」

「柚希。本当に本当に私ともう一度付き合ってくれるのね?」

「はい」


 瞳さんが俺に抱き着いて来た。気が付けば彼女の両親はもう居なくなっていた。

 

―――――


 さて、一見落着の様に見えますが?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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