第55話 従妹思い
俺、山神柚希。後ろからいきなり声を掛けられた。振り向くと真浄寺先輩だ。
「真浄寺先輩」
「山神、悪いが少し時間有るか」
「有りますけど」
まだ、午後六時前だ。一時間位まだ大丈夫だ。
「駅前の喫茶店で良いか?」
「はい」
俺達は駅前にあるちょっと洒落た喫茶店に入った。山神は紅茶を俺はブレンドを頼むと
「実は、瞳の事なんだが」
「…………」
今更何を言うつもりだ。
「今回の件、瞳が悪い事は本人から聞いて十分に分かっている。だがなあいつの心情も分かってやってくれ」
「父親に言われて俺の知らない所でデートして昼間からラブホに入る様な人のどんな心情を分かれと言うのですか?」
「山神、お前の言っている事は一理ある。確かにお前に色々他の女性の事は言っておきながら自分はお前に知らせずに他の男とデートしたというのは本当に良くない事だと俺も思う。しかしラブホには入っていないと本人は言っている」
「ホテル街に談笑しながら手を繋いで歩いて行っているんですよ。嘘つくにももう少し上手い嘘をついて欲しいですよ」
「山神、瞳がラブホに入っていないという事を信じて貰えないのか?」
「それ以前にホテル街に談笑しながら手を繋いで行ったという時点でアウトでしょう。入った入らないはもう事後報告ですよ」
「…………」
確かに山神の言う通りだ。俺も彼女がそうしたらその時点で駄目だろう。だがしかし…。
「山神、それを許して貰う事は出来ないのか?」
「出来ません」
「どうしてもか」
「従兄として真浄寺先輩の気持ちは分かります。上坂先輩が俺の彼女になった時、嫌がらせやいじめがあると覚悟していました。
でも全くなかった。それは先輩が裏から各運動部の部長に話を通していたからだというのは彼女から聞いていました。その点については本当に嬉しく思います。ですが…」
「頼む山神。この通りだ」
この辺じゃあ、逆らう事なんて絶対できないと言われている真浄寺先輩がテーブルに置いてあるコーヒーを横に退かして、頭をテーブルに着けて頼んでいる。
「そこまで言うなら、上坂先輩と一緒にいた男を連れて来てラブホに入っていない。手を繋いだのは強引に自分がやったと俺の前で言わせて下さい。そうすれば俺も考え直す気持ちになれます」
「山神……」
こいつそこまで言うのか。だがそれでこいつが瞳と復縁出来るなら瞳の気持ちが平穏に戻るならやる価値はある。
「山神、連れて来てそれを言わせる。その代わり瞳と復縁してくれるか?」
「上坂先輩次第です。もう俺と復縁したくないと思っているかもしれません。俺もきつい事を言いましたから」
「そんな事は無いと思うが」
短い話だったが、取敢えず山神の要求は実現しないといけない。その為にはあのくそ父親を説得しないといけないが、相手は重要な取引先の社長の長男と聞いている。出来るかな。
俺は、山神と別れた後、直ぐに瞳に電話した。彼女は直ぐに出た。
『誠司さん何?』
『瞳か、今山神と話をしていた』
『えっ?!どうして?』
『大切な従妹が悲しい思いをしているのが嫌でな。ところでお前の父親はいるか?』
『いません。お父さんが帰宅するのはいつも午後九時を過ぎます。日曜ならいる可能性もありますが』
『そうか。分かった。ところで瞳、おまえはまだ山神が好きか。復縁したいと思っているか?』
『絶対にしたいです。彼を愛しています。その為だったら今の事も我慢出来ます』
『分かった。出来るかまだ分からないがやってみる』
『ありがとう』
『礼は上手く行った後でいい』
もう今週末がクリスマス。この時期では柚希は他の子と…。もう間に合わないかもしれない。でも今は誠司さんに任せるしかない。
俺は、悪いと思ったが午後九時過ぎに瞳の家に電話した。
『誠司です。ご主人いますか?』
『あら誠司君久しぶりね。ちょっと待ってね。さっき帰って来たばかりだから』
少しの後、彼女の父親が電話に出た。
『誠司君久しぶりだね。私に何か用かね?』
『今度の日曜日空いていますか?』
『日曜日?午後三時以降なら空いているが何の用事だね?』
『瞳の事です。出来れば会って話したいのですが』
『…分かった。家に来るか。外で会うのか?』
『そちらに伺います』
『そうか待っている』
誠司君が瞳の事で話が有るとは。多分例の件だろう。あれは面倒な事になった。瞳の言い分を信じて相手にクレームを言った所、私の息子がそんな事する訳が無い。言い掛かりもいい加減にしろ言われている。
我が社にとっては重要な取引先だ。切られる訳には行かない。だがしかし…。
俺、真浄寺誠司。週末の日曜日、瞳の家に行って彼女の父親と対面した。そこで山神と約束した事を話した。
「誠司君、気持ちは嬉しいが、従兄とはいえ、我が家の事に口は出さないで欲しいな」
「しかし、瞳の事を考えればあまりにも一方的すぎる。彼女の気持ちは汲んであげないのですか?」
「私も瞳には悪い事をしたと思っている。妻からも瞳の元気の無さは聞いている。だからと言って重要な取引先の社長にその事を言うのは無理だよ」
「あなたは娘より会社の方が大事だというのですか。自分の失態で娘が学校で酷い目に遇っているというのに」
「酷い目に遇っている。それはどういう事だね?」
俺は今瞳が学校で置かれている立場を話した。
「そんな事学校が処理すべきことだろう。私が学校に言ってやる」
「失礼ですが現実が見えていないようですね。そんな事すれば益々陰湿ないじめにあいますよ。それに学校側でどれだけ対応するか分かりません。それでもいいんですか?」
少しの間沈黙が続いた。
「分かった。大切な一人娘がそのような状況に置かれるのは私としても心苦しい。転校させよう」
いきなり瞳がリビングに入って来た。
「ふざけないでお父さん。もしそんな事をするなら私はこの家から出て行きます」
「瞳」
「あなた、それは私も賛成できません」
「…参ったな。そこまで皆から反対されるとは。分かった。少し考えさせてくれ」
「時間は無いですよ」
それから一週間が経った。もう冬休みに入っている。家で本を読んでいた俺は、瞳の父親から電話を貰った。
『誠司君か、相手の子が瞳と瞳の彼に会ってくれるそうだ』
『そうですか。ありがとうございます。いつ会えますか?』
『明日の午後一時に我が家に来る』
『分かりました。午後一時に伺います』
それから俺は直ぐに山神に電話した。
『山神、真浄寺だ。明日の午後一時に上坂の家に来てくれ俺も行く。この前、お前と約束した事を果たす』
『えっ!』
いきなり掛かって来た真浄寺先輩からの電話に驚いた。まさか本当に実現するとは。しかし、今更どうするんだ?
―――――
おっと、凄い事になって来ました。ところで渡辺さんと梨音とのクリスマス。次話ですね。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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