第53話 買物かデートか


 今日は金曜日、いつもの様に俺、亮、詩織そして梨音と登校した。教室に入り渡辺さんと挨拶し終わると


「ねえ、山神君。お昼休み少し話できないかな」

「良いけど。学食でお昼食べ終わった後だよ?」

「うん、それでいい。待っている」

 渡辺さん、柚希に何の話が有るんだろう。あまりいい予感しない。

 


午前中の授業が終わり

「亮、学食行こうぜ」

「おお」



 学食に着くと食券発券機に並んで日替わりのサンプルを見ると大型のアジフライと唐揚げ二個だ。

「柚希、日替わりだな」

「ああ決まりだ」



 食券を買ってカウンタに並んでいると上坂先輩が少しやつれた感じで学食に入って来た。手にはお弁当を一つ持っている。

 一瞬可哀想で声を掛けたくなったが、裏切ったのはあっちだ。それに言い訳も白々しい。どうせまだあの男と毎週土日は会っているんだろう。


「柚希、お前の番だよ」

「あっ、これお願いします」



 二人で食べながら

「なあ、柚希。上坂先輩の件なんだが、小耳にはさんだ事なんだけど…」

「なに?」

「二年生の間じゃ、結構例の話が広まっていて、教室でも廊下でも厳しい立場らしい」

「そうなのか。仕方ないんじゃないか。あんな事したんだ自業自得だよ」

「お前がそう言うなら良いが」

 

 俺、松本亮。中学からの柚希の友人。こいつの性格はよく知っている。親しい人にはとことん真摯に向き合うが、一度裏切られると心の中が真逆になる。まるで親の仇の様に。


 神崎さんの事もそうだ。でも神崎さんは今友人として向き合っている。もっとも彼女は柚希との関係を元に戻そうと努力しているが。


 上坂先輩の事だが、単なる俺の感だが彼女は柚希を裏切っていないんじゃないかな。スマホの映像も確かにラブホ街には歩いて行ったが、入った所を見た訳では無い。最初は俺も鵜呑みにして信じたが、何かが違う感じがする。気の所為だろうか。



「亮、食べ終わった。先に行くな」

「ああ、俺はもう少しここに居る」

 


 俺は教室に戻ると

「渡辺さん、いいよ」

「うん、じゃあ廊下に出よう」


 二人で廊下に出ると渡辺さんが小声で

「ねえ、明日の土曜日空いているかな?」

「空いているけど」

「じゃあ、買い物に付き合ってくれない?」

 困ったな。武田の事もあるし。本当は武田を誘えば良いんだが、どう見ても不味そうだし。


「いいよ」

「じゃあ後で待合せ場所と時間連絡するね」

「分かった」


「それと今日一緒に帰れない?」

「今日の午後は、体育館のイベントだけだろ。早く終わるし良いよ」

「やったぁー!」

 この前の返事の保留もあるし、話した方がいいだろう。



 話が終わり教室に戻ると神崎さんが私をじっと睨んだ後、山神君を見た。何か言いたそうだけど。



 午後のイベントも終わり教室で帰りの準備をしていると武田がこっちにやって来た。

 梨音が

「柚希、帰ろう」

「ごめん、俺…」

 そこに武田が割込んで来た。

「渡辺さん、今日俺と一緒に帰れませんか?」

「えっ?!」


 ありゃ、武田の奴強行突破か?

「あの、駄目ですか?」

「ごめんなさい。私今日、山神君と一緒に帰る予定です」

「あっ、渡辺さん、俺別に良いよ。武田と一緒に帰ったら」

「山神悪いな」

「別にいいさ」


 俺は、武田に目線で頑張れと合図を送った。分かってくれ。


 渡辺さん、武田の顔をじっと見ている。一緒に帰るって言って。


「ごめんなさい。私山神君と帰りたいので」

「「えっ!」」

 俺と武田で驚きの声を上げてしまった。参った。


「なんで、なんで渡辺さんは山神と帰りたいんだ?」

「ちょっと話をしたいから」

「渡辺さん、話なら今度出来るし、今日は武田が誘っているんだから」

 渡辺さん、怒った顔でじーっと俺を見ている。


「山神君、昼間一緒に帰るって約束したでしょ」

「それはそうだけど」

「じゃあ、私は一人で帰る」


 あっ、バッグ持って教室の外に出て行っちゃった。武田が追いかけているけど。



「ねえ、渡辺さんって、山神君の事」

「さあ、まだ分からいけど匂うわね」


 チラッと武田の取巻き女子を見ると面白くなさそうな顔をしている。何も無ければ良いんだけど。


「亮、帰る…。あれいない」

「柚希帰ろう」

「あ、ああ」




 私、上坂瞳。校門を出た所で前を歩く柚希と神崎さんを見つけた。声を掛けたい。でも綾乃が少し冷却時間を置いた方が良いと言っている。でも冷却期間っていつまで置けばいいの?これじゃあ間に合わなくなるよ。


 今日の学食でも柚希を見かけた。声を掛けたかったけど我慢した。苦しいよ柚希。信じてお願いだから。




「ねえ、柚希明日空いている?」

「明日はちょっと用事が有る」

 多分渡辺さんと会うんだろうな。


「そう、じゃあ日曜日は?」

「空いているけど」

「買い物一緒に行って貰えないかな?」

「買い物?良いけど何買うの?」

「色々。私の家のある駅の改札に午前十時で良いかな?」

「分かった」




 俺、山神柚希。家に帰って自分の部屋でゴロゴロしているとスマホが震えた。画面を見ると渡辺さんだ。


『はい』

『山神君?渡辺です』

『さっきは酷いよ。一緒に帰る約束したのに』

『でも武田が…』

『彼は関係ないわ。いいわ明日、今日の分も償って貰う。明日午前九時半にデパートある駅の改札で良いかな。見たい映画あるんだ』

 午前九時半か今の季節ちょっと寒いけど


『分かった。いいよ。ところで武田が追いかけて行ったけど…』

『武田君の事は良いの!明日ね』


 電話を切られてしまった。渡辺さんを追いかけて行った武田どうしたんだろう。上手く行ったのかな?やっぱり明日聞いてみよう。




 翌日午前九時十分にデパートある駅の改札に着いた。ここは右に行けば映画館とプライベイトブランドの入っているビルがあり、その先に公園がある。左に行けば有名なデパートとショッピングセンターだ。それと奥にはラブホ街も。


 スマホを見ながら時間を潰していると改札から渡辺さんが出て来た。身長が百七十五センチあるからネックに白いファーが付いた淡いピンクのコートが見栄えいい。足元はブーツだ。ヒールのお陰で百八十センチには見える。俺よりも十センチ近く高い。何とも言えないな。


「おはよう山神君、待った?」

「おはよ渡辺さん、そうでもないよ」


「午前九時五十分から始まるんだ。早速行こうか」


 映画館が入っているビルまで三分位で着く。エスカレータを上がって館内に入ると結構人がいる。

「うわぁ、朝一番だから空いていると思ったのにな。早くチケット取ろう」


 なんと渡辺さんが見たいのはス〇〇ダンクというバスケット映画だ。武田と来ればぴったりだったのにな。

 席の予約画面を見ると結構入っている。真ん中は綺麗に予約されている。

「仕方ないから後ろ席だね」


 ちょっとだけ早かったせいかゲートはまだ空いていない。少しだけ待ってから中に入った。



 映画が終わり上映室から出ると

「昔やっていたマンガのリニューアル版だけど中々面白かったね」

「うん、良かった」

「ねえ、〇ックでお昼食べてから買い物付き合って」

「了解」


 もう昼近くなので結構混んでいる。渡辺さんに席を取って貰って俺が買う事になった。俺は油淋鶏チキンをセットで、渡辺さんはスイート○○シュリンプをセットで頼んだ。



 席に持って行くと

「ふふっ、嬉しいな。山神君とこうして一緒にデート出来るなんて」

「デ、デート?」

「だって、一緒に映画見てお昼食べて買い物も一緒だよ。デートだよ。それに私山神君の事好きだし」

 俺はどう答えればいいんだ。これは映画を見て買い物をするだけじゃないのか。デートって恋人同士がするもんだろう。


「難しく考えないの。さっ食べよ」

「う、うん」

 いいのかな?


「渡辺さん、武田の事なんだけど…」

「またそれ。昨日追いかけて来たけど好きな人がいるからお付き合いは出来ませんってはっきり断った。友達からでも良いからって言われたけど、彼の取巻きの一人になる気は無いって言ったら、下を向いてどこかに行ってしまったの。それだけ」


 武田、ダメージ大きそう。どうしよう。話すか。

「実は武田から、渡辺さんに告白して断られたけど諦めきれないから友達からでもいいから何とか近づきたい。出来れば俺に何とかしてくれって頼まれてて」

「ふーん。言ってあげて。静香は俺の彼女ですって」

「ごふっ!」

 一瞬、マックが喉に詰まりそうになった。


「なーんて言ってくれると嬉しいな」

「冗談はやめて」

「冗談じゃないんだけど」

「…………」



「山神君、返事聞いてないけど、その雰囲気だとまだ聞かない方が良さそうね。いいよって気持ちになるまで待っているから」

「俺、まだそんな気持ちになれないんだ」

「分かっている。だから待っている」

 随分濃い(恋?)話になってしまった。



「さっ、食べ終わったしそろそろ買い物行こうか」

 なんかリードされっぱなしなんだけど。



 さあ、そろそろあの手を使うか。定番だけど彼なら。


 俺が連れて来られたのはショッピングセンターにある女性洋服のショップだ。

「一緒に来て。私に似合う洋服選んで」

「俺全然分からないよ」

「じゃあ、私が選ぶから」

 いきなり手を引かれた。


「ちょ、ちょっと渡辺さん」


 参った。でも少しだけ男性もいる。大丈夫かも。見てればいいし。


「ねえ、これとこれ合わせてみたいから試着室一緒に来て」

「いや俺は」

 また手を引かれた。この子握力が強い。俺よりあるんじゃないか。


 中で衣擦れの音がする。この中で着替えていると思うとちょっと…。渡辺さんが頭だけ出して右と左を見た。そして

「ちょっと確認して欲しいだけど」


 さっとカーテンが開くと

「えっ!」

 俺は首が折れるんじゃないかと思われる位のスピードで首を右に曲げた…のではなく。そのまま見てしまった。なんとスレンダーな体に淡いブルーのブラとパンティ。凄く似合っていて色っぽい。


「ふふふっ、顔が真っ赤よ。これ覚えておいてね」


 そう言うと直ぐにカーテンを閉めた。覚えておいてと言われても。

もう一度開いた。今度は持って来た洋服を着ていた。

「どうかな?」

「…………」


 結局、そこのショップ含め三つ程回って二つの洋服を購入した彼女、今度は

「これが最後だから」


 そう言って連れて来られたのは

「いや、ここは無理絶対に無理。無理無理無理無理無理」

 流石に手を引かれても意地でも入らない。思い切り首を横に振って断った。


「仕方ないなあ、さっき私の下着見たでしょ。だからあれと同じサイズの別の物選んで」

「だめ絶対駄目」

「じゃあ、言う事一つ聞いてくれる?」

 可愛い笑顔で聞いて来た。周りの人が面白そうに俺達を見ている。俺は首を縦に振るしかなかった。



 危機を脱出した俺は渡辺さんのそこでの買い物が終わると


「酷いよ、今のは。俺が入れないと思って遊んでいたんだろ」

「そんな事無いよ。それより来週金曜日が終業式でその次の土曜日がクリスマスイブ。一緒に過ごしたい」

「それは…」

「だってさっき言う事一つ聞いてくれるって言ったよね。あれ嘘なの?」

 嵌められた。


 嵌まってくれた。


「分かった」

「やったぁー!」


―――――


 あーぁ、柚希まんまと渡辺さんの術中にはまりました。よくある手ですね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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