第51話 いくつもの事実の中で


 俺、山神柚希。学校のある駅前で瞳さんいや上坂先輩と別れて俺は電車に乗った。頭の中は、思い出したくもない事で一杯だ。自分で言った事、彼女に言われた事、考えない様にしないと大声で叫びたくなる。


 電車の中では、景色だけを見て考えない様にしていた。そして降りる駅に着くととにかく早く家に向かった。

 家に着くと自分の部屋に急いで入って制服を脱いでベッドに突っ込んだ。




 なんで彼女は俺を裏切ったんだ。俺が喜多神社で助けた女の子が上坂先輩だと分かったのは九月。それから彼女が積極的に近寄って来た。体の関係を持った時、彼女は初めてだった。

 多分ここまでは、俺だけだと思っても間違いないだろう。そしてその後もとても焼き餅焼きで梨音や渡辺さんと俺が二人で話す事も思い切り嫌がった。


 じゃあ、何処からなんだ。あの人が俺を裏切ったのは。あの男と本当に三週間前に初めて会ったのか。

 でもそんな感じじゃなかった。だとしたらこれまでもが全て嘘。いやそんなはずはない。もうどう考えても分からなかった。




 梨音の時もそうだ。あれだけ仲が良かったのに新しい彼氏が出来たと言っていきなり振られた。そして半年後渡米し、それから半年してまた現れて、俺の事を好きだ。あれは演技だったと言った。


 話を聞いても彼氏がいる気配は無かった。言葉巧みに肝心な所を消して辻褄が合う様に話しているんだろうと思った。


 どうせ向こうで彼氏に振られて自分都合で帰国して俺に近寄って来た。その疑惑は消えないが、九月からこの十二月頭までの事を考えるとどちらが本当の梨音なのか分からない。なぜあそこまで俺を避けたんだ。


 分からない。分からない。分からない。分からない。なにもかも分からない。




 私、上坂瞳。柚希に説明すれば分かってくれると思った。でもいくら説明しても信じて貰えなかった。嘘じゃないのに。


 どうすれば元に戻れるんだろう。全く分からない。綾乃に相談して見るか。こんな事彼女にしか話せない。



『綾乃、私』

『あら久しぶりね瞳。どうしたの?』

『綾乃、どうしよう…』

 私はここ三週間位で起こった事を彼女に話した。


『それは大変な事になったわね』

『そんな他人毎みたいに言わないでよ。どうすれば元に戻れると思う?』


『まず、失敗なのは東京に行く前に彼に事情をしっかりと話さなかった事ね。それから会った後の報告も。これだけでも今の様な状況は避けられたはず。なんでしなかったの』

『自分でも分からない。ただ柚希に分からない様にしなきゃと思って』


『それって瞳が彼に言った事と真反対だよね。彼と他の女の子が話している事は隠れてでも聞くけど、自分の事は隠す。それは彼怒るわ』

『綾乃、私本当に柚希の事が好きなの。あの子しかいない。だから何とか元に戻りたい。どうすればいい?』

『まあ、ほとぼりが冷めるまで彼とは会わない事ね』

『そんなあ、そんな事出来ない。息苦しくて死んじゃう』


『でも今彼に近付けば近づくほど嫌われるわよ。冷たいようだけど、当面離れる事ね』

『もし、そんな事して柚希が他の子と付き合い始めたら元に戻れなくなる』

『その時はその時よ。諦めるか奪い取るしかないわ。とにかく今は冷却期間が必要ね』


 綾乃と話したけど、そんな事出来ない。でも言っているのも分かる。一番不安なのは神崎さんと渡辺さん。今の状況を利用しようとしてくる。


 彼女達は私が柚希を裏切ったと信じている。だからもう復縁は無いだろうと。特に神崎さんは柚希の元カノ。彼と一番近い位置にいる。もしこれを機に彼が気を緩めればなし崩しに前と同じに戻ってしまうかもしれない。


 神崎さんとそうならなかったとしても渡辺さんは過去を引き摺ってはいない。柚希がもし神崎さんと比較したら渡辺さんを選択する可能性は十分ある。


 どちらにしろ、そうなれば、もし私の身の潔白が証明されても柚希の性格からして私と元に戻る事はしなくなるだろう。どうすれば、どうすればいいの。




 上坂先輩が俺の近くに現れなくなって二週間が過ぎた。学期末考査も終わった。後二週間で冬休みが来る。そしてクリスマスだ。何も無ければ彼女とクリスマスを楽しめたのに。

 何考えているんだ。俺を裏切って他の男に走った女なんかに未練が有るのかよ。全く俺って奴は。忘れよう。




 今日は梨音と一緒に帰る日だ。授業が終わると

「柚希帰ろう」

「ああ」


 私、渡辺静香。最近、山神君と神崎さんの距離が詰まって来ている。ここ最近特にそうだ。山神君は私とも話してくれる。

 

 告白してから三週間以上経ったけど、まだ返事も貰っていない。何か遠慮している気がする。遠慮なんかしなくてもいいのに。もうすぐクリスマス。このチャンスを生かしたい。明日は神崎さんとは一緒に帰らない日。


「山神君、明日時間あるかな?」

「明日、有るけど」

「じゃあ、放課後どうかな?」

「生徒会の用事が終わった後なら」

「うんそれでいい」



「柚希、早く帰ろう」

「ああ」

 神崎さん何よ、その言い方、頭に来る。まあいいわ。明日がある。



 俺達は校庭から門までの坂道を降りながら


「柚希、もうすぐ冬休みだね。その後はクリスマス。一緒にやらない?」

「ああ、そうか。何も考えていなかった。うーん、やるのは良いけどなあ」

「まだ上坂先輩の事気にしているの?」

「うん?そんな事全くないよ」

 嘘だけど。


「じゃあ、二人でしようよ」

「うーん、やっても良いけどちょっと待って」


 なんとか、柚希と二人でクリスマスをすれば…。必ず元に戻れる。



 俺、真浄寺誠司。大学は推薦が決まっている。空手部の部長の席も可愛い後輩に譲り気が抜けている所だ。従妹の瞳に変な噂が出たが、あの二人に限って間違いはないだろうと思っている。


 今は、部活の仲間と別れて家に戻る為に校庭から門のある坂道に差し掛かったところ。

 この坂ももうすぐお別れだな。


 なに!山神の奴が楽しそうに同じクラスの神崎とかいう子と一緒に歩いている。瞳じゃないのか。気が付かれない様に後ろに付くとクリスマスの事なんか話している。


 あっ、女の子の方から手を繋ごうとしている。どういう事だ?



「おい、山神」

 いきなり後ろから声を掛けられて振り向いた。


「あっ、真浄寺先輩」

「何だその手は。それに瞳はどうした。俺は言ったよな。瞳を裏切るような事が有ったらただじゃ済まないと」

「ああ、その事ですか。上坂先輩は、俺を捨てて他の男に乗り換えました。まあ体よく振られたってところです」

「何だと、あいつがそんな事する訳ないだろう。いい加減な事言うと許さねえぞ」


「そんな事言うなら、これ見て下さいよ」

 俺は山神が出したスマホに映っている瞳と知らない男が談笑しながら手を繋ぎホテル街に歩いて行く録画を見た。そしてそこに至るまでの事情も聴いた。


 信じられない。あの瞳がこんな事するなんて。


「真浄寺先輩。もう三週間前の話です。俺も忘れたいんで。先輩の好意は嬉しかったですけどもう話しかけないで下さい。じゃあ急ぎますので」


 山神が神崎という女性生徒と一緒に門に向ってしまった。とても信じられる事ではないが、スマホの映像が偽造だという証拠も無いし、あいつがそれをする理由もない。本人に確認するしかないか。


―――――


 従兄の真浄寺誠司。瞳の力になれますかね?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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