第49話 私は裏切ってなんかいない


 私、上坂瞳。教室から飛び出した後、保健室に行って体調が悪いからと休ませてもらう事にした。


 午後の授業が始まる予鈴がなったので仕方なく教室に戻ると今日の朝まで仲の良かった子も含めて皆私を蔑む視線を送って来た。

 

 静かに自分の席に座り、授業を聞く事にしたけど、その間も周りから私を軽蔑する言葉ばかりが飛び交う。


 我慢に我慢を重ねて何とか放課後まで耐えた私は、最後の授業が終わると急いで教室を飛び出して家に帰った。



 なんで、どうしてこうなったの。

 最初はお父さんの強い頼みで相手の男の人と東京で会った。初めて会った日はお父さんと一緒だったけど、次の週は二人で会いたいと言って来た。


 断るとお父さんを通して再度言って来た。仕方なくもう一度東京に行った。相手は大学生。色々な事を知っている。

 話が上手いのはその所為だと思っていたが聞いている内に私も楽しくなった。でも心の中では柚希に申し訳ない気持ちで一杯だった。本当は彼と会っていたい。


 そして一昨日の土曜日、今度は相手の人がこちらに来ると言って来た。来なくていい、私が東京に行くと言ったが、私が住んでいる所も見たいという事で来てしまった。


 特に見るものもない街なのでデパートのある街で映画館にでも行こうという事になった。駅を降りて歩いている内に手を繋がれて歩いていると何故かホテル街の方に向っていく。


 途中引き返そうとしたが、彼がいる事は聞いている。君も知っているんだろう。だから一度位俺としても分からないよ。優しくしてあげるから。


 その言葉は流石に私の心の中にある大切なものを侮辱された気がした。繋いでいた手を思い切り離して、私はそのまま逃げた。その人も追いかけて来たけど思い切り逃げた。


 多分そこを柚希にスマホで撮られたのだと思う。でも柚希も山神さんも私があの人とラブホに入ったと勘違いしている。そしてクラスの皆も。

 どうすればいいの。




「瞳居るか」


いきなりお父さんが入って来た。


「何?いきなり入って来て」

「瞳、お前相手の人と歩いている途中でいきなり逃げたらしいな。相手の人が怒って来たぞ」

「そんな事を言って来たの。あの人は私をいきなりラブホに連れ込もうとしたのよ。だから私は逃げたの」

「なんだと。それは本当か!」

「私はもう二度とあの人には会わない。絶対に会わない。でももう遅いのよ!」

「瞳」

「出て行って!お父さんの所為よ。お父さんなんか大嫌い!」


 私は傍に有ったクッションを思い切りお父さんのお腹にぶつけた。驚いた顔をしたけどそのまま部屋を出て行った。




 俺、山神柚希。放課後は生徒会室に行った。瞳さんは来ていない。当たり前か。

「柚希、今日から来年度の各部活の予算編成を手伝って貰うから。副会長の指示で動いてね」

「分かった。副会長宜しくお願いします」

「副会長なんて言わないで。真紀子って呼んで」

「西富さん、弟に変な事言わない」

「はーい」


 自分の事を真紀子と言った西富副会長は、髪の毛はショートボブ。目鼻立ちがくっきりして可愛い顔をしている。

「あの何から手伝えば」

「じゃあ、そこの山になっている資料を持って来て」


 言われた通りに資料を仕分けしていると西富さんが寄って来た。

「柚希君、私は君を裏切らないわよ」

「えっ!」


「こらぁ、真紀子!柚希に変な事囁くと怒るわよ」

「はーい」


 なんかこの人大変そう。




 翌朝、いつもの様に玄関を出ると詩織が出て来た。

「おはよ柚希。気分はどう?」

「詩織おはよ。皆のお陰で大分良くなったよ」

「そう、良かったわね。でもこれからが大変よ。貴方が上坂先輩と別れた事で神崎さんや渡辺さんだけでなく他の子も色目使って来るわよ」

「えーっ、嘘だろう。顔普通、身長普通、頭普通、運動能力普通の俺がなんでそうなるのか全く分からない」

「柚希は全く疎いのね。まあその内身をもって分かるわ」

「詩織、お願い助けて」

「ふふっ、どうしようかなぁ」



 そんな話をしながら駅に着いて電車に乗ると、途中亮と梨音が乗って来た。

「柚希、大丈夫か?」

「ああ、なんとかな。まだちょっと残っているけど」

「そうか。俺で役に立つことが有れば何でも言ってくれ」

「ありがとう亮」


「柚希、今日は私のお弁当日だよ。もし私で良かったら話し相手になるから」

「ああ、ありがとう梨音」


 はーぁ、神崎さん、ちゃっかり柚希が弱っている所を突いて来たわ。



 教室に着くと

「おはよう山神君、神崎さん、松本君、設楽さん」

「おはよう渡辺さん」


 良かった、昨日は本当に心配したけど、大分戻っているみたい。今日の昼休みあの事言ってみようかな。



 午前中の授業が終わった。今日は大分集中して先生の話を聞く事が出来た。俺って結構立ち直り早い?


「柚希、一緒に食べよ」

「柚希、俺購買に行ってパン買って来る」

「ああ待ってるよ」


 亮が戻って来て四人で食べ始めた。食べている途中で

「ねえ、山神君。食べ終わったらちょっと良いかな」

 また渡辺さんが柚希を誘って来た。


「ねえ、柚希私も話ある」

「神崎さん、私が先に山神君を誘ったんだけど」

「あっ、私は中休みでいいから」

 上手く逃げられた。



 食べ終わると渡辺さんに誘われて、寒いけど校舎裏の花壇の所にやって来た。

「ごめんね寒い所で。ねえ、上坂先輩がお弁当作ってくれた日って空いているんでしょう。私が作ってこようか?」

「どうして?それに悪いよそんな事」

「山神君、はっきり言うね。私あなたが好き。付き合って下さい」

「えーっ!俺なんかのどこが良いの?渡辺さんだったら俺なんかより良い人が一杯いるだろうに」

 武田だって背は高くてイケメン、頭は良いし運動だって俺とは比較にならない位優秀だ。なんで彼じゃ無いの?


「山神君じゃなきゃやなの。理由はこの前も言ったけど、あなたの傍に居るうちに好きになってしまったの。今では堪らなく好き。だから付き合って」

「ちょっ、ちょっと待って。俺まだ瞳の事で心が整理出来ていないんだ。だから今返事する事は出来ない」


「そっか、そうだよね。ちょっと急いじゃったかな。分かった返事は待つから。でも私が山神君を思い切り好きだって事は分かってくれたかな?」

「うん」


「じゃあ、お弁当の件は?」

「それもちょっと待って」


 少し急ぎ過ぎたかも知れないけど私の気持ちはしっかりと知って貰えた。後は山神君の心からあの人を追い出すだけ。そんな事ならいくらだって方法はある。



「寒いから中入ろうか」

「そうしよう」


 いきなりの渡辺さんの告白に驚いたけど今はそんな気分じゃない。



 午後一番の授業が終わると

「柚希ちょっといい?」

「良いよ梨音」



 二人で廊下に出ると

「柚希、上坂先輩が作る予定だったお弁当の日、私が作ってきてあげる」

「梨音、気持ちは嬉しいけど、まだ心の整理が出来ていないんだ。だからその日は購買か学食にするよ」

「そう、分かった。でもいつでも言って。直ぐに作れるから。後…ううん、いいや。じゃあ教室に戻ろ」


 今柚希に土日会えるかなと聞いても断られるだけ。ちょっと様子見よう。でも上坂先輩が消えてくれたおかげで、柚希が私と二人だけで会える足枷が無くなった。今度こそ。


―――――


 瞳の言っている事が本当でもやはり迂闊でしたね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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