第46話 模試の後で

 本話から毎日更新になります。


―――――

 

 今日は、模試の日だ。と言っても一年生は、英語、数学、国語だけだ。午前中二教科午後一教科で終わる。


 瞳さんによると二年生は一年生より教科数、科目数共に多い。更に文系と理系で選択科目が異なる上、時間配分も違うので終わる時間も違うらしい。


 俺もそろそろ文系志望か理系志望か決めないといけない。でも自分ではどっちがどうなのか全然分からない。そもそも今時、どっちに進もうが大学出たら関係ない様に思える。


 技術特化や文学特化は別としても文系出身の技術者だっているし、理系出身の有名な作家だっている。将来何になりたいかなんてこの歳で決めろと言われてもな。




 午前中の模試が終わった。今日は、普段なら瞳さんがお弁当を作ってくれる日だが、模試のお陰でそれは無し。だから亮と一緒に学食に行く事にした。

この話をすると梨音が、


「じゃあ、私も一緒に行っていい?」

「いいよ」

「山神君私も良いかな?」

渡辺さんも言って来た。断る理由もないので四人で行く事になった。



 席を決めると俺と亮は食券を買いに行って受取カウンタに並んだ。久々に学食の定食を頼んだ。


 蕎麦、うどん、ラーメン、カレー、日替わり定食や唐揚げ丼その他諸々有ってメニューは豊富だが、日替わり定食が鶏もも唐揚げだったのでこれを頼んだ。これに白いご飯、お味噌汁、箸休めが付いている。中々のボリュームだ。二年、三年がいない為早く受け取る事が出来た。



 俺達がいない間に梨音と渡辺さんが座っているテーブルの周りは一年生男子で一杯になっている。亮と二人で顔を合わせて苦笑いしながら席に着いた。


「神崎さんと渡辺さんが一緒だと凄い視線だな」

「亮、俺も同じ思いだよ」

 確かに凄い視線だ。俺と亮への視線は梨音と渡辺さんへの視線とは違うけど。


 食べ始めると少しして二年生と三年生も学食に入って来た。



「柚希」

 声の方を振り返ると瞳さんだ。じっと梨音と渡辺さんの顔を見ると


「柚希、私もここで食べていい?」

「もちろんだよ。皆も良いだろう」

「俺は良いよ」

「「私達も」」



 少しすると二、三年生も俺達の周りで食べ始めた。


「おい、山神の奴、今日は神崎さんも一緒だぜ。全くあの野郎の所ばかり」

「でもよう、神崎さんは山神と同じクラスだから仕方ねえんじゃないか」

「そんな事言ってもこれで上坂さん、女神会長、神崎さん。この学校のトップスリーが、あの野郎の傍に居る事になる。全くハーレム気取りやがって」


「おい、誰がハーレム気取ってるんだって?」

「あっ、真浄寺さん。いやその…」

「山神に手出したら、お前ら明日からこの学校にこれねえぞ」

「「ひっ!」」

 その声に周りの男子も目線を自分の昼飯に戻して食べている。



 静かになったは良いが、ますます目立ってしまった。真浄寺先輩はこちらをチラッとだけ見るとそのまま俺達の方には来ないで別の離れたテーブルの方に友人達と行った。


「柚希、気にしない。さっ、食べよ。私のお弁当のおかずも食べなさい」

「でも、それじゃ瞳が足らなくなるだろう」

「ふふっ、いいのよ」



 亮が食事が終わると

「柚希、俺先に教室に戻っているから」

「ああ」


 それから少しして梨音と渡辺さんも先に戻ってしまった。


「柚希、悪い事したかな?」

「そんな事無いですけど」

「そんな事あるって顔に書いて有るわ。でも私は柚希優先よ」

「瞳、そう思ってくれると嬉しいよ」



 そんな話をしている内に、午後のテストの時間が近づいた。

「じゃあ、俺戻りますから」

「待って私も戻るわ。今日は一緒に帰れないわね」

「はい、残念ですけど仕方ないです」


 教室に戻って直ぐに午後のテストが始まった。




 テストが終わった。今日は姉ちゃんから生徒会室には来なくて良いと言われている。する事も無いが、取敢えず帰ろうとすると梨音が

「柚希、一緒に帰っても良いかな」

「別に構わないけど」


 昨日、梨音に一緒に帰る事は出来ないと言いながら翌日にまさかの一緒の下校。なんか自分でおかしいなと思っていると渡辺さんが


「私も一緒でいい?」

「ああ、別に良いけど」


 渡辺さん、せっかく私が柚希と二人だけになる少ないチャンスを邪魔してくるなんて。


 神崎さん、あなたと山神君を二人だけにする訳には行かないわ。


 なんか二人とも睨み合っている様な気がするんだが。

「どうしたの二人共?」

「「別に。何でもない!」」




 俺、武田信之。山神の方をちらりと見ると渡辺さんと神崎さんが睨み合っている。どういう事なんだ。本当は今日、渡辺さんと一緒に帰るチャンスだと思っていたんだけどな。止めておくか。



「武田、模試も終わったし、カラオケ行かないか?」

「ああ、そうするか」

 本当は渡辺さんも誘えれば良いんだが。なんとか山神が上手くやってくれないかな。



 武田君が取巻きの女子と男子と一緒に教室を出て行った。彼の頼み事中々実現できないな。なんかいい方法無いものか。


 しかし、亮からはあんな事言われているし。本当の事とは思えないけど絶対だって言われている。

 出来れば渡辺さんに聞かないままに武田が彼女と仲良くなってくれればいいんだが。



 駅まで行くと渡辺さんが

「山神君、時間あるかな。もし良かったらファミレスに寄って行かない?」

「渡辺さん、誘ってくれて嬉しいけど、止めておくよ」

「そう」

 渡辺さんが寂しそうな顔をしたけど仕方ない。


「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」


 あーぁ。山神君、神崎さんと一緒に帰って行ってしまった。なんとかこの気持ち伝えたい。言わないと彼への気持ちがどんどん膨らんで来る。前はこんな事無かったのに。傍に居ると堪らない。


 彼は私の前の席に座っている。彼の背中を毎日見ていると時々抱きしめたくなる時がある。授業中だから絶対に出来ないけど。


 この気持ちどうすればいいんだろう。そうだ明日は確か神崎さんがお弁当を持って来る日。ならば時間があるはず。明日話してみよう。



 俺と梨音で電車に乗ると

「柚希、偶には二人で話せないかな?」

「今二人だけど」

「それって意地悪だよね。私は電車を降りてどこかで二人で静かに話せないかなと言ったの」

 意味は分かっているけど、それは出来いよ梨音。


「梨音、俺は瞳と付き合っている。他の女の子と二人だけで話すのは出来ない」

「でも…」


 そこで言葉が終わったままに梨音のマンションのある駅に着いてしまった。

「梨音降りないのか?」

「…………」


 梨音が俺の制服の袖を引っ張っている。

「駄目だ」

「でも…」


 発車のベルがなりドアが閉まってしまった。

「梨音…」

「お願い。今日だけでいいの」

「駄目だ。次で降りて帰れ」

「やだ」


 二人でいれるチャンスは少ない。今日は上坂先輩が一緒に帰れない日。今日を逃したらまたこんなチャンスいつ来るか分からない。


「梨音、俺は瞳と付き合っている。お前と二人になる事は出来ない」

 この前の事もある。絶対に梨音と二人でいる事は出来ない。


 梨音が黙ってしまった。このまま行けば俺の降りる駅になる。彼女を無視して降りても付いてくるだろう。どうしたものか。




 やがて俺の降りる駅に着いた。無言のまま降りると梨音も降りた。改札を出させる訳には行かない。出れば後が見えてくる。電車がホームから出て乗降客も少なくなった所で


「梨音、諦めろ。俺はお前と二人きりになる事は出来ない」

「柚希、お願い。私は柚希と話をしたいだけ」

「それが出来ないと言っている。俺は家に帰る。お前も戻れ」

「……じゃあ、じゃあ。私の降りる駅まで送って。それだけでいい。このまま一人で戻るのは寂しい」

「…………」


 仕方なしに改札を出ずに反対側に入線して来た電車に二人で乗り、梨音の駅まで一緒に乗った。

 降り際に梨音が泣きそうな顔になったがどうする事も出来ない。もしここで彼女の我儘に応えたら俺は瞳を裏切る事になる。



 私は、ホームに立ちながら柚希が戻って行く電車を見つめていた。それはまるで彼が私の心の中から過ぎ去る様に思えた。


 もう駄目なのだろうか……。


―――――


 柚希の判断は正しいと思いますが梨音が寂しすぎます。どうしたら良いのですかね。

 さて、ここまでがほぼ第一章になります。次話からは第二章新しい展開の始まりです。


次回をお楽しみに

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