第45話 梨音の心配事


 俺、山神柚希。昨日初めて生徒会室に行って姉ちゃんいや生徒会長の指示で花壇の水やりをした。そして色々有るから毎日放課後は生徒会室に顔を出して欲しいと言われている。


 今日は、梨音がお昼を作ってくれる予定だが、昼休みに放課後はもう一緒に帰れないと言わなくてはいけない。それに告白される時の付き添いも出来ない。

 彼女にはっきりと気持ちを整理して貰うきっかけになるかもしれない。



 いつもの様に詩織と一緒に駅に向かっている。

「柚希、どうだった生徒会の仕事は?」

「ああ、昨日は校舎裏の花壇の水やりだった。園芸部の部員が入って来るまでやってくれって言われた」


「生徒会って学校全体や地域コミュニティとの関係もあるらしいから柚希の立場は忙しくなりそうね」

「そうなんだ。放課後は毎日生徒会室に顔を出してくれと言われた」

「それって…」

「その通りなんだ。もう梨音とは一緒に帰れない。それを今日はっきり彼女に言おうと思って」

「そう、仕方ないけど彼女の為でもあるわね」


「でも友達としては接していくつもり」

「お弁当はどうするの?」

「それは…どうしようか?」

「柚希、覚悟決めなさい。彼女にはっきりと言った方が彼女の為。お弁当を続けて入れば、まだチャンスが有ると思い込むの。ここは冷たいようだけどしっかりと断るべきよ」

「詩織の言う事は良く分かるんだけど…」


 全く柚希は優柔不断とまでは行かないけどこの優しさが、彼女の心を引き摺らせているという事を早く分かって欲しい。


 駅に着き途中亮と梨音が乗って来た。彼女の顔を見ると言わなくてはいけないという心が凪いでしまう。




 皆で教室に入るといつもの様に渡辺さんが挨拶をして来た。武田の方をチラッと見ると取巻きの子達と話をしていた。なんか複雑な気持ちだ。


「おはよう山神君、松本君、神崎さん」

「おはよう渡辺さん」

「ねえ、山神君。話が有るんだけど昼休み良いかな?」

「ごめん昼休みはちょっと用事が有る」

「そう…」

 なんだろう渡辺さんの話って?


 周りをみると明日は模試だが、一年生という事もありみんなまだのんびりしている様だ。




 午前中の授業が終わり昼休みになるといつもの様に亮が俺の方を向いて梨音と渡辺さんと一緒に四人で食べる。

「柚希、はいお弁当」

「ありがとう梨音」

「ふふっ、どういたしまして」

 柚希が喜んでくれる。嬉しい。これを続けられるだけでもいい。


 梨音のお弁当はいつも本当に美味しい。最近特にそれを感じる。気の所為だろうか。やがて食べ終わると

「梨音話が有るんだ」

「えっ、何?」

「廊下でいいか?」


 そうか、神崎さんと話す予定が有ったから私の事断ったんだ。でも山神君、神崎さんになんの話が有るんだろう?



 梨音を廊下に連れ出すと小声で

「梨音、昨日から生徒会の庶務をやる事になった。生徒会長の姉ちゃんからは、毎日放課後は顔を出す様に言われている。だから放課後、梨音と一緒に帰れない」

「えっ!そんなぁ。じゃあ私も一緒に庶務になれないかな?」

「ごめん、もう瞳が一緒に入っている。三人は要らないと思う」

「…………」

 どうして、なんで急にそんな事になったの。それに柚希の相手が上坂先輩なんて。このままじゃ柚希との接点が少なくなるばかり。


「私が呼び出された時の付き添いも駄目?」

「ああ、悪いけど」

「じゃあ、じゃあ、お弁当は良いよね。良いよね。お願い柚希。お願いだから」

 俺の弱い所だとは分かっている。でもこれだけ懇願されて断れるほど俺はドライじゃない。


「ああ、いいよ。楽しみにしている」

「柚希、ありがとう」

 少し梨音の下瞼に涙が浮かんでいる。さっとハンカチを出すとそれを使って梨音が涙を拭いた。


「柚希、洗って返すね」

「いや、良いよその位。それにまだ使うから」

「じゃあこれ使って」

 梨音がポケットから彼女のハンカチを出して来た。


「でも」

「必要なんでしょ。使って!」

「分かった」

 良かった。これでまだ柚希と繋がりを持てる。でも何とかしないとお弁当も無くなってしまいそう。何か考えないと。



 私、渡辺静香。予鈴が鳴る前に山神君と神崎さんが戻って来た。神崎さんの目がちょっとだけ泣いた様子が有る。多分神崎さんにとっては良くない話。それは私にとって都合の良い話。


 私も早く山神君に気持ちを伝えた方が、色々進展するかもしれない。明日は無理だから明後日もう一度声を掛けてみよ。



 放課後になり、柚希は上坂先輩と一緒に生徒会室に行ってしまった。仕方なしに一人で帰る事にした。

 下駄箱で履き替えて校庭に出て坂道に差し掛かったところで


「神崎さん」

 後ろからの声に振り向くと前田君だった。今話したくない。


「神崎さん一人ですか」

「…………」

 何も言わないでいると


「あの駅まで一緒に良いですか?」

「私急いでいるので」

「えっ?」


 あーぁ、神崎さん走っていちゃった。話位してくれてもいいのに。なんで俺こんなに嫌われているんだ。


 渡辺さんに言われて前髪も切ったし、クラスの事からはさっぱりして良いと言われているんだけどな。おかしな事したっけ?まだ声掛けただけなんだけど。




 こんな時柚希が一緒に居ればあの人から声を掛けられることも無いのに。今日も下駄箱の中に手紙が入っていたけど、柚希と一緒に帰る日だからって無視したら柚希はもう一緒に帰れないと言って来た。


 どうすればもっと柚希に近付けるのかな。生徒会長の柚希のお姉さんは過去の事で私を恨んでいるし生徒会に入る事なんて出来ない。

 柚希が一緒に居てくれないなら下駄箱の手紙は全部無視するしかない。この前の事も有る。


―――――


 梨音、厳しい立場に追い込まれましたね。


次回をお楽しみに

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