第44話 生徒会は大変らしい


 翌日、俺は早速詩織に駅に行きながら相談してみた。

「詩織はカラオケとか行った事あるか?」

「あるわよ。クラスの子達と偶にだけど行く。なんでこんな事聞くの?」

「実は…」

 俺は武田君が渡辺さんと話せる状況を作りたがっていると説明した。もちろんお昼の事も。


「ふーん、武田君がそこまで渡辺さんを思っているとはねえ。お昼は良いかもしれないけど武田君の取巻き女子がどう思うかだよね。渡辺さんへの風当たり強くなりそう。

 それとカラオケも難しいかな。彼が行くなんて言ったら、彼の取巻き女子も行くと言いかねない。そしたら彼は渡辺さんと話すチャンスはほとんどないわ。黙って行ったら行ったで後々面倒だし」


「そうかあ、やっぱり武田が取巻き女子を説得してから出ないと難しいかな」

「まあ、それも無理でしょうねえ。そんな事したら彼の取巻き女子が渡辺さんの所為で武田君と話せなくなったと思って、下手すればいじめにつながるし、そんな事をさせた柚希にとばっちり来るの間違いないわ」


「それはそれで嫌だな。困ったなあ。武田から思い切りお願いされているんだ」

「まあその気持ちは分かるけどね」


 武田君としては渡辺さんが心を許している柚希に頼むのが一番と思うのは当たり前だろう。しかし、これで渡辺さんが柚希から離れるチャンスになるかもしれない。何とかしてあげたいけど。


 駅に着き電車に乗ると途中で亮が乗って来た。流石に電車の中では話せないので

「亮、学校に着いたらちょっと相談がある」

「ああいいぞ」


 なんだろう。柚希から相談なんて。でもいいチャンスか。神崎さんと渡辺さんの事言うきっかけになる。




 教室に入って直ぐに亮を誘って廊下に出た。そして小さめの声で詩織に話した事を言うと

「まあ、設楽さんが言っているのが正しいな。でも一つだけ手が無いわけではない。柚希、お前は気付いていないかも知れないが、渡辺さんは思い切りお前に好意を寄せている。だけどきっぱりと彼女にチャンスはない事を言えば、武田の方に目を向けるかもしれない」


「渡辺さんが俺に好意を持っていると言うのか?」

「柚希、お前は変な所で鈍いが間違いない。もしお前が本当に上坂先輩一筋というなら、はっきりと彼女に言うのは、彼女に取っても良い事だと思う。神崎さんも同じだ」


「そうなのか。梨音は分かるが渡辺さんが俺の事をそう思っているとは。でもそんな事言われた覚え無いし」

「柚希が渡辺さんにはっきり聞いてみればいい」

「いやいや、そんな事出来ないよ」

「柚希…」


 そこで予鈴が鳴ってしまった。

「亮また後で」

「ああ」


 担任の祥子先生が入って来ると今週の水曜日ある模試の事と他の連絡事項だけ伝えて教室を出て行った。直ぐに一限目の担当の先生が入って来た。




 午前中の授業が終わり、昼休みになると瞳さんが、お弁当を持ってやって来た。クラスの人達は慣れてしまったのか一度だけちらりと見るだけになった。興味を示さなくなった様だ。

「柚希、行こうか」

「はい」


 渡辺さんと梨音がじっと俺達を見ていたが無視をして二人で学食に行った。


 学食に二人で入って行くといつもの視線を感じた。瞳さんへは憧れの、俺には妬み嫉妬の視線だ。


 少し端の方で空いている四人座りのテーブルに着くと

「柚希、この辺で食べようか」

「はい」

「私達を見る目が大分減ったわね」

「そうですか」

 俺には全く減った様には見えないけど。


「さっ、食べましょうか」

 

 俺のお弁当箱は瞳さんのそれより一・五倍位ある。その中に美味しそうなおかずと白いご飯がぎっしりと入っている。

「頂きます」


「どう、今日の出汁巻卵気合入れたんだ」

「はい、とっても美味しいです」

「ふふっ、嬉しいわ。野菜もきちんと食べてね」

「瞳が作ってくれたお弁当です。残す訳が有りません」

 なんか視線が痛いけど。



 周りからの視線を無視して食べ終わると

「ここで二人の話聞かれるのは嫌ね。生徒会室いいかも」

「食べ終わった後という事ですか。でもそんなの良いのかな」

「今日放課後行った時、聞いてみましょう」

「そうですね」



 その後、俺達はあまり生徒のいない所で話をしたが、やはり武田と渡辺さんの事になった。ただ、亮から言われた事は言わなかったけど。




 放課後になり、瞳さんを待って二人で生徒会室に行った。梨音と渡辺さんがやはり俺達をじっと見ている。なんでだろう?


 生徒会室は一人だとちょっと分からなかったところだ。一応ドアをノックしてからドアを開けて

「失礼しまーす」

「失礼します」


 中に入るとコの字に並べられた長机の一番奥に姉ちゃんが座っていた。長机の周りには資料とノートパソコンを開いて一生懸命何かやっている人が何人かいた。


 その横にはソファとローテーブルもある。更に奥には簡単な給湯セットと茶棚もあった。結構広いんだ。


「柚希、上坂さんよく来てくれたわね。その辺の椅子に座って」

「姉ちゃん、生徒会って…」

「柚希ここでは生徒会長よ」

「あっ、はい」

 何人かの人が声を出さずに笑っている。一番目の心象悪くなったかな。


「みんな紹介するわ。今度庶務をやってくれる事になった山神柚希と上坂瞳さん」

「名前の通り柚希は私の弟よ。皆宜しくね」


 その後、副会長、会計、書記さんを紹介してくれた。

「柚希、早速だけど上坂さんと一緒に校舎裏の花壇に水あげて。園芸部の生徒が卒業して春から誰もいないのよ。入って来るまでお願いね。今の時期は週一回でいいから」

「分かった。瞳行こうか」

「うん」


 確かに庶務と言っても雑用係だな。でも瞳さんと二人でやれるから良いかもしれない。公然と二人でいる事が出来る。


 校舎裏の花壇に行くと脇に立っている小屋の中からリール型のホースとジョーロを出して早速水をあげた。


 水は冷たかったけど、誰もいないので好きな事を話せる。二人なので簡単に終わらせて生徒会室に行くと役員の人が資料を見ながらパソコンに色々打ち込んでいる。結構忙しいんだ。


「生徒会長、終わったよ」

「ご苦労様、今日はもう良いわ。明日から毎日放課後は顔を出してね。色々お願いしたい事が有るから」

「分かった。あの、生徒会長」

「何柚希?」

「ここって昼休み使っていいの?」

「言ったでしょ。ここでご飯食べても良いって」

「ご飯食べ終わった後、来ても良いのかな?」

「…ふーん、そう言う事。良いわよイチャイチャしなければ」

 瞳さんが顔を赤くしている。


「分かった。じゃあ帰るね」

「お疲れ様」


 駅に向かいながら

「何か毎日やらないといけなそうだね。姉ちゃん簡単な事だからと言っていたけど安請け合いしちゃったかな?」

「でも良いんじゃない。放課後は公然と柚希と毎日居れるし、毎日一緒に帰れる」

「あっ、梨音に言わないと」

 ふふっ、気が付いた様ね。生徒会に参加すれば彼女と柚希が一緒に帰る事は出来なくなる。そして私は毎日柚希と帰れる。私にとってとても素敵な事。山神さんにお礼を言いたい位だわ。


―――――


 ふむ、そう言う事か。柚希のお姉ちゃんそこまで考えての事なのかな?


次回をお楽しみに

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