第38話 悩む柚希


 俺、山神柚希。初めて瞳さんと学食で一緒に食べた。ここで改めて瞳さんの人気が分かった。

 俺達の座っているテーブルの周りには男子生徒が一杯座っている。皆瞳さんをあこがれの目で見て、俺には嫉妬、妬みの視線しかない。


 瞳さんの作ってくれたお弁当は美味しいが、気が散って仕方ない。


「柚希、これも慣れようね。君が私の彼とはっきりとみんなが分かるまで」

「分かったよ瞳」


「「「ええーっ!そ、そんなぁーっ!」」」


 何人かの男子生徒が学食のプレートに顔を突っ込んだ。口の中の物を目の前の人に噴き出している子もいる。ごめん皆後で顔良く拭いてね。


「ねえ、聞いた。上坂さん相手の子を彼と言ったわよ」

「うん、聞いた。それに瞳って上坂さんの事名前呼びした事も」

「これって確定だよね」

「だよねーっ。周りの男子可哀想」

「ははっ、仕方ないね」



 食事はしたものの、流石にそこで二人の話を聞かせる気にはならず

「瞳、話は別の所でしようか」

「分かったわ」

 まあ初日はこんなものかな。


 また何人かの男子がプレートに顔を突っ込んでいる。ごめんね。


 仕方なく、俺達は学食を出てから一度校舎の外に出た。大分寒いが我慢出来ない程じゃない。風が当たらない日当たりの良い所で

「瞳、お願いがある」

「なあに?」


 俺は、武田と渡辺さんの事を説明した。そして渡辺さんと話をする事も。


「それってどういう意味?渡辺って子、柚希が好きだって言うの?」

「いや、そんな事は無いと思うんだけど、とにかく武田と話す代わりに俺とも話したいと言って来た」

「意味分かんない。嫌よそんな事。柚希と二人で話せる女の子は彼女である私だけよ。絶対駄目。もう昨日みたいな気持ちになりたくない」

「だから、最初にこうやって話して…」

「だめ、どんな理由が有っても駄目」


 これは困ったぞ、もしかしたら今頃、武田と渡辺さん話をしているかも知れないし。どうしようか。


どうする柚希? 


うん?どこかで聞いたような?


 まあ、そんな事はどうでもいい。とにかく納得して貰わないと。


「瞳、昨日も言ったけど、俺は瞳だけだ。だから信じてくれ」

「信じるよ。思い切り信じているよ。でもそれとこれは違うわ。自分の好きな人が、他の女の子と二人で会って話すなんて絶対に嫌だ」


 どうしたものか。

「じゃあ、どんな話をしたとか、全部瞳に話せばいい?」

「駄目、肝心な所を都合よく誤魔化す事も出来る。柚希がその気が付かなくても渡辺さんがその意思で言っている可能性もある」

「じゃあ、スマホで全部録音するから」

「それでも駄目、とにかく柚希が私の知らない所で他の女の子と会っている事が嫌なの。会わないで。どうしても会うなら私も一緒」

 

 はぁどうすればいいんだ。


予鈴が鳴った。今日は、予鈴の日みたいだ。


「瞳、今日の帰りまた話そう」

「分かった」


 二人で、校舎の中に戻り、俺は急いで教室に行くと何故か武田は机に顔をうつ伏している。どうしたんだ。


 渡辺さんは、梨音と話をしている。こっちは良いとしても…。


「山神君、武田君と話したわよ。約束守ってね」

「えっ、あっ、うん」


 渡辺さんは笑いながら

「なにその言い方。いつ出来るの?」

「まあ、明日かな。お昼食べ終わったら」

「良いわよ」


 柚希と渡辺さん、何の約束したんだろう。それに明日は私のお弁当食べてくれる日。出来ればゆっくりと一緒に食べたいのに。



 午後の最初の授業が終わった時、武田がまたやって来た。

「山神ちょっといいか」

「ああ」


二人で廊下に出ると

「山神、渡辺さんと話が出来た。礼を言う。でもな…。彼女今付き合っている人はいないけど、心の中に好きな人がいると言っていた。誰だと聞いても答えてくれない。頼む彼女の心の中にいる好きな人ってのを聞いてくれ」

「えっー。いやそんな事言われても。俺が聞いても話してくれないだろう。それに聞いてどうするんだ」

「とにかく俺が一発KOされた理由の相手を知りたいんだ」

「そうか、まあそう言うなら。でも俺にも教えてくれなかったら諦めてくれ」

「分かった。それは仕方ない」


 また、予鈴が鳴った。何故か今日は教室外でよく予鈴を聞く日だ。


 午後のもう一つの授業も終わり

「亮、また明日」

「おお、柚希また明日な」


 俺は急いで下駄箱に行くとあれっ瞳さんがいない。仕方なく履き替えて待っていると先に教室を出た俺が下駄箱にいる事に不思議そうな顔をしたクラスメイトが先に帰って行った。亮も詩織も梨音もだ。


そしてみんなが帰ってから五分位して

「柚希ごめん。待たせちゃって」

「いえ、大丈夫です」

 特に不安そうな顔とかしていないから何か有ったにしても不都合な事ではない様だ。


 直ぐに手を繋いで来た。

「ふふ、じゃあ帰ろう」

「はい」


 視線は感じるものの校庭にいる生徒も部活生だけなので、いつもよりは少なかった。

「柚希は遅くなった理由聞かないの?」

「何で、ですか。瞳が遅くなったからって、何も気にしないですよ。来ないなら気になりますけど」


 本当は、二年生の男子から昼の学食の事聞かれていたんだけど、はっきり言ってあげたら諦めてくれた。やっぱり話しておいた方がいいよね。


「実は、同じ学年の男子から今日の学食の事聞かれたの。だからはっきり柚希は私の彼です。大好きな人ですって言ったらさっといなくなったわ」

「そうですか。話してくれてありがとうございます」

「ねえ、その敬語何とかならないの。名前呼びしてくれているのに言葉は敬語っておかしいよ」

「分かっているんですけど。瞳の事、やっぱり二年生先輩と思っている気持ちが有って。すみません」

「謝る事は無いけど。じゃあ今度の土曜にそれをなくす努力しようね」

 うーん、俺が瞳さんを先輩と思わない様にさせる努力。いったい何なんだろう?


 頭に疑問を思い切り感じていると何故か俺の手を握っている瞳さんの手に力が入った。チラッと横顔を見ると顔が赤くなっている。どうしたのかな?


「瞳、どうしたの?」

「何でもないわ。それより柚希、昼間の話だけど渡辺さんと何時何処で話すの」

「はい、明日の昼休みになりそうです。多分裏庭のベンチ辺りで」

「そう、じゃあそれ陰で見ていてもいい」

「構いませんけど。寒いですよ」

「柚希達も寒いんじゃない」

「そうですけど」

「じゃあ、同じね」


 まあ聞かれても大した事無いだろうからいいか。多分。


―――――


 柚希、まだ自覚が足らないようです。


次回をお楽しみに

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