第39話 伏兵は思いも寄らぬ所から


 俺、山神柚希。いつもの様に玄関を開けるとちょうど隣の家から詩織が出て来た。いつも同じ時刻に登校するのだから一見当たり前だが、良くタイミング合う。まあ小さい頃から一緒なのでそうなってしまうんだろう。


「柚希おはよう」

「おはよう詩織」

「ねえ柚希、今日の昼休み渡辺さんと話をするの?」

「何でそれを知っている?」

「そうりゃ、同じクラスだし分かるわよ、ねえ柚希は彼女の事どう思っているの?」

「渡辺さんの事?普通のクラスメイトだよ。それ以外何もない」


 柚希は、本当に女の子がどう思っているのか分かっていない。というか感じ取れない。渡辺さんは、間違いなく柚希に好意を抱いている。でなければあんなにこの子を頼りにしない。


 武田君が渡辺さんに告白して撃沈したのは、クラスの中でも勘のいい子はみんな知っている。そして撃沈した理由が柚希であることも。


 柚希は、神崎さんの事といい渡辺さんの事といい、本当に優しい。だから皆誤解する。自分にもチャンスがあるんじゃないかと。


 柚希は容姿も頭も運動能力もこれといって目立つ存在ではない。むしろ本人がその様にしている。昔から目立つのが嫌いな子だから。


 だけど、その性格の良さ、人当たりの良さから本人では気が付かないけど、クラス内でも密かな人気がある。もし上坂先輩の事が無かったらもう少し柚希の周りは賑やかになっていたはずだ。


 でも私ではどうする事も出来ない。ただ助言する事しか出来ない。



「柚希、渡辺さん、あなたに対してこれから色々言って来たり迫ったりするかもよ」

「えっ、どうして?」

「それ本気で言っている。彼女があなたの事好きだからに決まっているじゃない」

「まさかぁ。それにそんな事言われても俺は瞳さんがいる」

「柚希、覚えておきなさい。女の子はね、好きになった人に好きな人がいるからって、はいそうですかってあきらめる人だけじゃないの。体の関係だって強引にせまって来るわ。そうすれば上坂先輩と同じになるからって」

「えーっ、でもそんな事言われたって。俺は瞳さん一筋って決めたし」

「私が言う言葉じゃないけど。柚希、芯を持ってないと崩れるわよ」



 色々話している内に駅に着いた。途中、亮と梨音が乗って来たので話を変えた。二年生から区分けされる理系か文系かと話をしている内に学校の最寄り駅に着いた。


 進路の話の続きをしながら学校に着き、下駄箱で履き替えて教室に入るといつもの様に渡辺さんから挨拶された。


「山神君、神崎さん、松本君、設楽さんおはよう。いつも一緒で仲良いね」

「おはよう渡辺さん、まあ通学路が一緒だからね」

「いいなあ、私も山神君と同じ通学路だったら良かったな」

「あははっ、そうだね」


 柚希は、さっき言った事覚えているのかしら。全く!



 午前中の授業が終わり、昼休みになった。今日は梨音がお弁当を作って来る日。いつもの様に亮が俺の方を向いて、梨音と渡辺さんと一緒に四人で昼ご飯を始めた。

「柚希、はいこれ」

「ありがとう、いつも悪いな」

「ふふっ、柚希の喜んだ顔見れるなら毎日でも良いけどね」

「それは駄目。瞳との約束がある」


 あの事早く梨音に言いたいけど、どう切り出せばいいのか。いきなりもういらないは無いし、何かいいきっかけがないものかな。

 この後亮に聞きたいけど今日は渡辺さんと話をする約束だし。渡辺さんには流石に相談できない。


「柚希、ゆっくり食べてね。良く噛まないと胃にも良くないし、午後の授業眠くなる原因だよ」


 少しでも渡辺さんと話す時間を少なくしたい。こうやって言えば柚希がゆっくりと噛んでくれるはず。


「確かに言えるな。今日の午後一番の授業は苦手科目だから気を付けないと」

「でしょう。だからゆっくり噛んで。柚希」

「分かった」



 私、渡辺静香。神崎さんの考え丸見えだわ。私と山神君の話す時間を少なくしようとしている。人としては嫌いじゃないけどこういうのは好きじゃない。


「山神君、良く噛むのは大切だけど、この後私とお話する約束でしょ」

「そうだね。じゃあ、早く良く噛むよ」



 俺、松本亮。柚希見ているとちょっと可哀想だな。神崎さんの気持ちも渡辺さんの気持ちも分かるけど。柚希の優しさと鈍感さというか疎いというか、今度言うしかないか。


 上坂先輩がいるんだからはっきりと言えば良いけど、こいつが言える様な性格でない事は分かるし。どうしたものか。でもこのままでは不味いし。



「梨音、ご馳走様。今日もとても美味しかったよ」

「うん」


「じゃあ、渡辺さん行こうか」

「はい」


 あーぁ、柚希と渡辺さん行っちゃった。渡辺さん、柚希が上坂先輩の事好きだって分かっているのにどういうつもりだろう。




 俺と、渡辺さんが校舎裏のベンチに来ると幸い誰も居なかった。チラッと見ると瞳さんが校舎の陰からこっちを見ている。分かっちゃいますよ瞳さん。わざとやっているのかな。


渡辺さんが校舎側に背を向ける様にして座ると俺も座った。


「渡辺さん、話って何?」

「うーん、ただこうして居る時間が欲しいなって思って」

「えっ?」

「だって、山神君とは、ファミレス以来だし。ごめんね、嫌な思い出かもしれないけど。でもあれ以来、君とは二人でいれるきっかけが全然無かったから。帰りはいつも神崎さんか上坂先輩だし。土日は会ってくれそうに無いし」

「………」

 渡辺さん、何言っているんだろう。意味が分からない。



「私ね、彼っていた事無いの。私を好きになる人はいたけど、ちょっと感性が合わない感じで…。この学校も陸上やりたくて入ったんだけど、小林の所為で今は休部中。

 山神君を初めて見た時は何も感じなかったの。

 でも何度か話している内に

 相談に乗って貰っている内に、

 君を見ていると何となく胸が暖かくなって。

 だからこういう時間が欲しかったの。

 分かってくれるかな」


 これって告白。いや瞳と梨音は俺の事好きだけど、まさか渡辺さんが俺の事なんて。ここは勘違いしてはいけない。胸が暖かくなるって言っているのも友達としての事だろう。


「そうなんだ。俺みたいので良かったらいつでも良いよと言いたいけど、俺、瞳さんの事好きだから。こうして可愛い女の子と二人でいるのは出来ない。亮や梨音と一緒なら別に構わないけど」

「可愛いって言ってくれるんだ。山神君にとって私は可愛い女の子なんだ」


 これならば、チャンスを待てば、私が山神君の彼女になるチャンスはあるかも。この人なら私…。


「そうだ、ねえ渡辺さん。武田から聞いておいてって言われたんだけど。彼の告白振った時、心の中に好きな人がいるって言ったそうだけど誰の事?」


 ここまで言っても山神君分からないんだ。これはもっと積極的に出る必要あるかな。

「私…」



 予鈴が鳴って昼休みが終わってしまった。もう少し時間が有れば良かったのに。


「午後の授業始まるよ。渡辺さん戻ろう」

「うん」



 私、上坂瞳。柚希と渡辺さんの会話を聞いていた。柚希がはっきりと私の事好きだと言ってくれたのは嬉しいけど、渡辺さんの言葉は明らかに告白。


 時間が足らなかったから良かったけど、このままだったら間違いなく渡辺さんは、はっきりと柚希に言っていたかもしれない。


 柚希はこの辺が疎いから私も積極的に出て彼に分からせたけど。渡辺さんだっていつ同じ事をしてくるか分からない。何か手を打たないと。


―――――


 柚希。異性の事となると感性が全然働かないようです。これでは瞳さん気が気ではありませんね。ファイト瞳さん!


次回をお楽しみに

カクヨムコン8に応募中です。応援してくれると嬉しいです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る