第25話 また賑やかになったどうしたものか


 翌日、俺は学校に行く為に家を出ると詩織が待って居た。直ぐに

「柚希どうしたの?」

「あ、いや昨日渡辺さんとファミレスから出た所で小林先輩に襲われて…」

 駅までの間に詩織には昨日の事を話した。もちろんファミレスで話した事は言わなかったけど。


「それって渡辺さんがファミレスに誘わなかったら柚希が殴られることなかったんでしょ。この事知っているのって私以外にいる?」

「瞳さんには昨日の内に話した」

 瞳さんには、昨日の夜にスマホで話しておいたが相当に怒っていた。ただ小林先輩より渡辺さんの事でだ。どうしたものか。


「そう、上坂先輩きっと渡辺さんが悪いと考えるわ。流れでこうなったにしろ、この事は人に言わない方が良いわね」

「ああ、亮には言うけどそれ以外の人には言わない」

「神崎さんにも?」

「彼女は関係ないと思う」

「柚希がそう思うなら良いけど」

 私が言う事ではないけど、神崎さんなんとか柚希とよりを戻したいと思っている。今回の件、どう影響するんだろう。


 駅から電車に乗って二つ目の駅で亮も乗って来た。

「柚希どうしたんだ?」

「亮後で話すから」

 亮が車両の中を見ると

「確かにな」


 電車の中には同じ学校の生徒も多く居る。何処で漏れるか分からないからこの中では言わない方が良いだろう。


 学校のある駅の一つ前の駅から梨音が乗って来て同じ事を聞いて来たが、ここは簡単に

「昨日、自分の部屋で机にぶつけてしまって」

「そう、気を付けてね」

 柚希は嘘をつく時、偶に耳たぶを触る。何か別の理由がありそうだけど言いたくないなら仕方ない。


 学校について四人で教室に入ると渡辺さんはまだ来ていなかった。俺の顔を見たクラスメイトがどうしたんだと聞いて来たので梨音に言った事を同じ様に話したらみんな笑って済ませてくれた。


やがて予鈴が鳴って祥子先生が入って来ると

「渡辺さんは体調不良の為、本日は欠席します」


 昨日の件を気にしているのか。今日の内に連絡しておこう。それよりも瞳さんだ。昼休みに来た時に口止めしておかないと。


 一限目の後の中休みと二限目の後の中休みを使って亮にはファミレスの件も含めて話しておいた。亮にはきちんと話しておいた方がいいから。



 そして午前中の授業が終わり、昼休みになると例によって直ぐに瞳さんがランチバッグを持ってやって来た。

「柚希、お昼食べよ」

「はい」


 瞳さんが下手に口を開く前に手を取って校舎裏に行った。今日は誰も居なかった。そこで手を離すと


「柚希、今日は積極的ね。手を繋いで連れて来てくれるなんて嬉しいわ。それより顔の傷見せて」

 俺が彼女の顔に向けて正面を見るとじっと俺の顔を見た後、


 チュッ。


 なんと腫れている所にキスをして来た。


「ふふふっ、これで直ぐに治るわ」

 頭がお花畑か?


 瞳さんがランチバックからお弁当を取出しながら

「渡辺さんいなかったわね」

「彼女休みだそうです」

「いたらしっかり言ってあげたのに。柚希をこんな目に合すなんて許せない」

「瞳さんその事なんですけど、これは俺が自分の部屋の机にぶつけた事にして置いてくれませんか。

 流れで俺が小林先輩から殴られてしまいましたが、渡辺さんにはなんの責任もありませんから」

「責任は大いにあるわよ。彼女が柚希に言い寄らなければこんな事にはならなかったでしょ。彼女が小林と一緒に帰っていれば良かったのよ」

 ちょっとこのままだと食事中もこの話になってしまう。


「瞳さん、せっかく作ってくれたお弁当がこの話では美味しくなくなります。食べ終わるまでこの話は止めましょう」

「そ、そうね。そうしましょう」


「どう今日は鶏もも肉の甘辛煮を入れてみたの。それにひじきを合わせた卵焼き」

「良く知っていましたね。俺の好物」

「ふふっ、柚希の好みを色々確かめながら作っているのよ。私の愛情だと思って」

「とても嬉しいです」


「味はどうかな?」

「もぐもぐもぐ(とても美味しいです)」

 本当は、梨音の方が味付け良いけどそんな事は言わない。


「正直に言いなさい」

「えっ、美味しいですよ。ちょっと味付け濃いですけど」

「そういう事きちんと教えて。柚希の胃袋掴みたいんだから」

「分かりました」


 瞳さんが俺の為に少しでも美味しいお弁当を作ろうとしてくれているのはとても嬉しい。でもこちらから注文を付ける様な立場ではない。作って来てくれたお弁当に味付けや好みを言うのが精一杯だ。



 お昼を食べ終わった所で

「柚希、もう渡辺さんとは一緒に帰らないで。またこんな事が有ったら大変だから」

「瞳さん、気持ちは分かります。昨日は偶々二人になってしまいましたが、もうしませんから。でも渡辺さんはクラスメイトです。避ける事もしたくないし、他のクラスメイト同じように接したい。今回の件はあくまで偶然の事故です」

「柚希は優しいのね。でも心配。私の大切な人が危ない目に遇うなんて絶対駄目だから」

「俺も注意します」



「ねえ、柚希。今度私の部屋に遊びに来ない?」

「えっ、瞳さんの部屋にですか!」

「そう私の部屋」

「でも、この前の瞳さんのお母さんの印象だと俺って近寄らない方が良いのかなと思ってしまうんですけど」

「あれは、偶々よ。お母様は優しいからきちんと紹介すれば大丈夫よ」

「そうなんですか」

 でもハードル高そうだな。それに女の子の部屋なんて梨音と詩織位しか知らないぞ。もちろん詩織は、小さい時からだから異性感覚無いから別だけど。


 予鈴が鳴ったので

「じゃあ、柚希放課後は下駄箱でね」

「はい、あと大きな声で俺の名前呼ばないで下さい」

「ふふっ、分かったわ。ゆ・ず・き♡」


 校舎に戻ってから瞳さんと階段で別れ教室に戻ると

「柚希、さっきお姉さんが来たぞ。上坂先輩と昼食中だと言ったら出て行ったけど」

「えっ、姉ちゃんが」


 何か用事だったのかな?




 放課後は瞳さんに言って警察に寄ってから帰った。警察では交番と同じ事を聞かれたけど三十分位で済んだ。

「済みません。警察にまで一緒に行ってくれて」

「いいの。柚希の事は何でも知りたいから」

「…………」

 


 家に帰り自分の部屋に入ると急いで渡辺さんにスマホで連絡した。

『いま、話せますか?』

『いいわよ』


 俺はメッセンジャーから電話に切り替えると

『渡辺さん、体調悪いって聞いたから』

『体調は悪くない。昨日あんな事が有って山神君に合す顔が無くなってしまって』

 やっぱりそれが理由か。


『大丈夫ですよ。顔の腫れは俺が自宅の部屋の机にぶつけたって事にしてありますから。だからクラスの人は誰も知りません。梨音にも言っていないです。知っているのは亮と詩織位なものです』

『えっ、上坂先輩は?』

『事実は知っていますが、口裏を合わせる様に頼んであります』

『そう…。ありがとう山神君。やっぱり私山神君と…』

『駄目です。俺は瞳さんだけです。器用な事は出来ないし、しません。それより明日学校に出て来て下さいね』

『分かった。明日登校する』


―――――


 毎日が賑やかな柚希です。しかしこのままで済むとは思えないですね。

次回をお楽しみに

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面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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