第24話 渡辺さんの相談事その二


 私、渡辺静香。昨日は部活を休んだ。今日はどうしようか考えている。思い切って部活辞めるって考えも有るけど小林先輩の事だけで辞めるのは嫌だ。

 辞めるにしても何か理由が欲しい。でも理由なんて顧問に言えたものではない。どうしようか。


 私が朝から外を見て悩んでいえるといつもの様に山神君、松本君、設楽さん、神崎さんが一緒に教室に入って来た。いつもながら仲が良い。羨ましい位だ。私にはまだ一緒に帰る友達もいないのに。

 


 山神君は、初めて見た時は、特に目立つところもないけど陰キャではない。クラスの人とも良く話す。学祭の時は担当委員として皆を引っ張ってくれたし、いつの間にかイケメン武田君とも仲が良くなっている。


 私はいつの間にか彼の動きを見る様になってしまった。偶々私の前に座っている事もあり、お昼も一緒に食べてくれる。話をしていてもいつも笑顔で明るい。人の悪口とか聞いた事もない。こんな人が私の彼だったらどうだったんだろう。


 いつの間にかそんな事を考えていたら神崎さんが山神君に

「柚希、今日お弁当食べて貰える日だよね。だから一緒に帰れる日だよね?」

 お弁当は一緒に食べるけど、一緒に帰る日では無い筈だが、まあ亮も一緒だから良いか。


「ああ、いいぞ。亮お前も一緒に帰るよな」

「うん?ああいいけど」


 本当は二人で帰りたいのに。


「ねえ、山神君。私も一緒に帰っていいかな?」

「えっ?」


 彼が、松本君と神崎さんを見ている。


「柚希、俺は別に良いけど」

「柚希、私も良いよ」

「じゃあ、決まりだね」

「おい、俺の考えは」

「いいでしょう。ねっ!」


 渡辺さんがまた胸の前で手を合わせて上目使いで見て来た。この人にこれやられると弱いんだよな。


「わかったよ。今日はみんなで帰ろうか」

「うん」



 午前中の授業が終わり、みんなで昼食も食べ終わると梨音が

「柚希、ちょっと良いかな」

「いいけど」


 廊下に出てなるべく人のいない所に来ると

「柚希、昨日の放課後、告白されたの。もちろん断ったけど。ちょっと強引な所も有って。ねえお願いが有る。私が告白される時、近くで見ていて欲しい」

「なんで?」

「もし、変な事されそうになったら助けて」

「えっ、いや俺喧嘩強くないし。この前は偶々だったから」

「それでもいい。柚希が声を掛けてくれたら相手は逃げるかも知れないから」

「いやいやそれは無理だよ。背の大きい体育会系の男子なんて、俺が出て行っても相手にもされないだろうし」

「それでもいいの。ねえお願いだから」

 参ったなあ。無視は出来ないし。


「分かった。でも行ける時だけだぞ。俺の用事が有る時は行けないからな」

「上坂先輩と一緒に帰る時?」

「それも有るけど…、分かったよ。なるべく付いて行く」

「柚希、ありがとう」

 これでまた一歩柚希に近付ける。




 放課後になり、

「山神君ちょっと待っていて。顧問の先生に部活休むって言って来るから」

「ああ」


 渡辺さんが教室から出て行くと

「柚希、渡辺さん何か有ったのか。昨日も部活の事で困っていたみたいだし」

「亮、俺から話す事出来ないから気になるなら直接聞いて。どうせ一緒に帰るんだし」

「そうか。分かった」



 渡辺さんが教室に戻って来たので一緒に帰る事にした。下駄箱で履き替えてから校庭に出ると何故か渡辺さんが俺の横に来てグランドから見えない様に歩いている。

「どしたの?」

「うん、小林先輩から見えない様にする為」

「でも、渡辺さん、俺より背高いし隠れないんじゃ」

「いいの」




 俺、小林幸助。昨日渡辺は顧問に体調悪いから部活を休むと言ったらしいが、今日も来ていない。あいつがいないと部活の楽しみも半減だな。なんとか彼女に出来ないものかな。


 練習前のウォーミングアップをやっていると、あれっ、渡辺が帰って行く。一緒に居るのは、山神の奴じゃないか。あいつ上坂と付き合っている癖に二股掛けているんかよ。


 本当なら、ぶん殴ってやりたいとこだが、空手部主将の真浄寺から山神に手を出すなと言われている。


 理由は分からないが、学校ではあの人には逆らえない。あの人は柔道部や剣道部の主将達とも仲が良い。多分話は付いているんだろう。俺なんかが山神に手を出したらとんでもない事になる。


 しかし面白くねえな。もしかして昨日も今日もあいつと一緒に帰りたいから部活休んだのか。だとしたら…。




 俺、山神柚希。駅までの帰り道、渡辺さんが亮と梨音に小林先輩の事を話している。本人の自由意志だから俺は構わないけど。


「ねえ、山神君、駅前のファミレスに寄らない。もっと話したい事が有って」

「えっ、俺と?」

「うん」

「亮と梨音は?」

「出来れば二人だけで」


 亮は良いんじゃないという顔をしているが梨音が面白くない顔をしている。本音言うと俺も二人だけにはなりたくない。瞳さんという彼女もいるし。

「今日でないと駄目かな?」

「うん、出来れば、なるべく早く話したい」

「分かった。亮、梨音。また明日な」

「おう、じゃあな柚希」

「柚希また明日ね」


 二人が駅の改札に向かった所で俺は渡辺さんと一緒に近くファミレスに入った。ドリンクバーだけ注文して俺はグラスにコークを渡辺さんはオレンジジュースを入れると席に着いた。


「話って何?」

「昨日の話の続き。部活どうしようかと思って。小林先輩の事だけで部活を辞めるのは嫌だけど、これ以上あの人に話しかけられたり体触られたりしたくない」


 俺に相談されても答えなんか出ない。それになんで俺に相談してくるんだ。

「渡辺さん、おれじゃあ力になれないよ。渡辺さんが決める事だし」

「…はっきり言うね。山神君、私と友達なってくれるって言ってくれたよね」

「ああ」

「じゃあ、その先に進めないかな。君が私の彼になって欲しい」

「えっ!」

 

 つい大きな声を出してしまった。周りの人がこっちに顔を向けている。不味い。

「驚くのも仕方ないよね。山神君の付き合っている人ってあの上坂先輩だものね。でも山神君本当にあの人の事好きなの?愛しているの。キスはした?」


 いきなり何を言いだすんだこの人は。

「渡辺さん、どういう意図があるのか知らないけど、君と付き合う事は出来ないよ。俺は瞳さんの事が好きだ。愛しているとまでは言えないけどそれは時間が解決するものだと思っている」

「でも昨日君と上坂先輩が帰るのを偶々後ろで見ていたけど、彼女が腕を絡めて来た時、嫌そうだったから、好きじゃないのかなと思って。本当にあの人の事好きなの?」


「いや、あれは驚いただけで。とにかく君とは付き合う事は出来ない」

「じゃあ、じゃあ私の彼になってくれなくてもいいから友達よりもっと濃い関係になりたい」

「はっ?濃い関係?」

「うん、出来れば休みの日にデートするとか」


「あの渡辺さん、今日の相談事って部活と小林先輩の事じゃなかったっけ?」

「うん、だから君が私の彼になってくれれば、毎日一緒に帰れるし、そうすれば部活辞めても良いかなと思って」


 そういう事。何考えているんだこの人は。めちゃくちゃな理屈じゃないか。


「渡辺さん、気持ちは嬉しいけど、何でおれの事好きなるのか全然分からないし、部活を辞める理由を俺にするのは止めて欲しい。もう時間も遅いし帰ろう」

「山神君、お願い。私の彼になってくれたら私を全部あげるから」

「いやいや、もう何言っているのか分からないよ。一度冷静になってもう一度考えて」


 流石に付き合いきれなくて伝票を持ってレジに行くと渡辺さんも付いて来た。当たり前か。


 二人でファミレスを出た所で

「山神貴様、上坂と付き合っているんじゃねえのかよ。こんな時間まで渡辺と一緒に居るなんて」

「えっ!」


 いきなり殴られた。倒れるほどじゃなかったけど結構痛い。

「小林先輩何するんですか。止めて下さい」

「じゃますんな渡辺、俺はこいつを許せねえ」


 もう一度殴られそうになった所で流石に避けたけど小林先輩が俺の制服を掴んでもう一度殴ろうとしたところで

「止めなさい」


 いきなり警察官が止めに入った。そう言えば交番は駅の傍に有る。小林先輩は警察官に取り押さえられて動けないでいる。

もう一人の警察官が

「君大丈夫か?」

「はい、大した事ないです」

「悪いがそこの交番まで来てくれないか」


 それから俺は事情を聞かれた。幸い渡辺さんも一緒に証言してくれたので助かったけど。小林先輩は傷害の現行犯でパトカーの乗せられて行ってしまった。


「明日、もう一度警察署の方に来てくれないか」

「明日は学校があるんで放課後なら」

「それでいいから」



 取敢えず俺達は交番から放免されると

「山神君、ごめんなさい。私の為にこんな目に遇わせてしまって。本当にごめんなさい」

「いいよ、渡辺さんが悪いんじゃないよ。あいつが悪いんだ。俺もう帰るから」

「ごめんなさい」



 俺は、頬を殴られたが血が出るほどでは無かったけど少し腫れているみたいだ。交番で応急処置をしてくれたけど、病院には行きなさいと言われた。


 こんな格好で家に帰ると玄関で姉ちゃんに偶々会ってしまった。

「柚希どうしたの?」

「実は…」

 仕方なく事の次第を話すと


「何ですって。あの2Cの馬鹿男が柚希を殴った。許さない。今どこにいるのあいつは?」

「あの人は今警察署だと思う。傷害の現行犯で捕まったから」

「分かったわ。明日学校に行ったら陸上の顧問に責任を問質してやる」

「姉ちゃん、あんまり目立つことしないでよ」

「大丈夫。柚希には迷惑掛けないから。後渡辺って子も柚希から遠ざけないと」

「止めて、それやり過ぎ。渡辺さんが悪いんじゃないから」


 玄関で話していると母さんまで来て大変だったけど、何とか自分の部屋に戻れた。明日が大変だ。一応瞳さんには先に話しておくか。


―――――


 柚希災難だったね。


次回をお楽しみに

カクヨムコン8に応募中です。★★★頂けるととても嬉しいです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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