第23話 渡辺さんの相談事
俺、山神柚希。上坂先輩と付き合う事がどれだけ大変かを思い知らされている毎日だが、それとは別に進路を決めなくてはならない。進路と言っても理系か文系かだ。私立か国公立かは、まだ先の話。
それによって受ける授業の選択科目が変わるからだ。これといってなりたい職業や行きたい業界なんて高校一年の俺にはピンとこない。だけど理系か文系かと言われれば何となく理系かなという感じ。
当然ながらこの話題は俺だけの事ではない。一年生全員の悩みだ。いや悩んでいるのは俺だけかな?姉ちゃんは文系に進んでいる。
今日も家を出ると詩織が玄関で待っていた。
「おはよう詩織」
「おはよう柚希、ねえ理系か文系か決めた。来週選択科目説明会が有ってその後進路公演会でしょ。そろそろ決めないとね」
「そうなんだよなぁ。詩織はどうするの?」
「うーん、全然決まっていない。でも文系かな。柚希は?」
「俺は理系にしようかと思っている」
「じゃあ、理系にしようかな」
なんだそれは?
駅に着き、二駅目に亮が乗って来た。詩織が進路の話題を振ると
「俺か、俺はーっ、決まってない。勉強が簡単な方がいいな」
「どっちも同じでしょ」
二人共俺と同じで良かった。俺だけ取り残されるのは嫌だからな。
途中で乗った梨音と一緒にみんなで進路の話題をしながら学校まで来て教室に入ると渡辺さんが困った表情で俺を見た。
自分の席まで行ってからスクールバッグを置くと
「山神君、おはよう。ちょっと相談が有るんだけど。お昼お弁当食べたら話聞いてくれないかな?」
「いいけど話の内容って何?」
「小林先輩の事」
「…分かった」
小林先輩は、はっきり言って絡みたくない人だ。あまりいい予感がしないけど仕方ない。今日は、水曜日。瞳さんと一緒に昼食を食べる日だ。
午前中の授業が終わり昼休みになると
「柚希、お昼食べよ」
昼休みのチャイムが鳴ってから二分と経っていないのに瞳さんがランチバッグを持ってやって来た。
最近は校舎裏の花壇が定着している。いつもの様にそこに行くと珍しく先客が有った。仕方なしに屋上へ行こうとしたが、瞳さんが
「ねえ、柚希学食使おうよ。屋上は風もあるから」
「えっ!」
おい、とんでもない事を言ったぞ。あそこで食べるのは全校生徒に公開するようなものだ。今まで以上に視線を集めてしまう。
「なんで驚くの?もう構わないでしょ。皆には知られているし」
「そうなんですけど。じゃあ教室にしましょう」
「…それじゃあ二人だけで食べられないわ。やっぱり屋上にしましょう」
少し遅れたが屋上に行って食べ始めると
「柚希、もう進路決めの時期だね。ねえ理系にしない?」
私は理系を選んでいる。お父様の会社の事もあり、理系を選んだ。柚希が理系にすれば、勉強や会話で共通点が多くなる。
「理系ですか。まだ悩んでいます。俺自身、どっちが向いているか全然分かっていないので」
「中学の時はどっちが得意だったの?」
「うーん、同じ位です。特にどっちが好きという事も無いです」
「じゃあ、理系にしましょう。私も理系だから。ねっ♡」
「考えさせて下さい。説明会聞いてからにしたいと思います」
「そう、でも理系にしてね」
そう言われてもなぁ。あっそうだ。
「瞳さん、俺昼食食べたら渡辺さんから相談あるって言われているんです。だから食べ終わったら急いで教室に戻りたいんですけど」
「えっ、もっと話したいんだけど」
「今日はごめんなさい。下校の時にしましょう」
何の話だろう。まさか告白なんて無いよね。私が柚希の彼女であることは十分に分かっているはずだから。でも心配。
「分かったけど、話って何?」
「話せるかは聞いてからにしたいです。渡辺さん自身の問題なので。もう行きますね。じゃあ放課後の下駄箱で」
あーぁ、柚希行っちゃった。彼女とお昼食べているのに他の女の子の所行くなんて。もっと私に向く様にさせないと。それに渡辺さんは要注意ね。彼女背が高くて女の私から見てもかっこいいし。
俺は、屋上から急いで教室に戻ると渡辺さんが昼食を終わらせ、本も読まずに外を見ていた。
「渡辺さん、遅れてごめん」
「ううん、こちらこそごめんね。それより外に行こう」
私、神崎梨音。柚希と渡辺さんが教室を出て行った。渡辺さんは朝、柚希に小林先輩の事で相談が有ると言っていたからそうなんだろうけど、ちょっと複雑な感じ。何となく渡辺さん柚希に近付こうとしている気がする。
校舎内では昼休みの為生徒が廊下や階段にも一杯いる。仕方なく俺達は校舎近くのグラウンドに来ると
「渡辺さん、話しって?」
「小林先輩がしつこくて、部活の時でも練習中に色々話しかけて来ては、一緒に帰ろうとか休みの日に会えないかと言って来る。
多分私に好意を寄せているんだろうけど、私はあの先輩が苦手で。私を見る時、ちょっと嫌らしい目付きだし、練習の時も必要も無いのにボディタッチとかしてくる。
だからもう部活止めようと思っている。でも陸上好きだから決めきれなくて、どうしよか山神君」
「うーん、俺に言われてもなぁ。部活の他の人はどう思っているのかな?」
「まだ一年だし、こんな相談するような人はいない。みんな見て見ぬ振りしている。小林先輩は地区大会でも結果残しているし、もの言える人が少ないの。部長は無視している」
「顧問の先生には相談した?」
「言い辛いわ。まさか練習中にボディタッチしてくるからとか厭らしい目で見られているとか言っても、みんな私の主観だし相手にしてくれ無さそう」
困ったな。俺に相談されても何も解決出来そうに無いんだけど。いい解決方法が全然見えないままに話していると予鈴が鳴った。
「山神君、今日は上坂先輩と一緒に下校するんだよね。神崎さんが一緒に帰れればいいんだけど、いつも図書館で待っているのも悪いし、今日は放課後用事が有るって言っていたから」
「渡辺さん、とにかく教室に戻ろう。午後の授業が始まってしまう」
「うん」
俺達は急いで下駄箱で履き替えて教室に戻るとまだ先生は来ていなかった。
放課後になり、
「亮、悪い先帰るな」
「おう、また明日な」
本当は亮とかと一緒に帰りたいんだけど瞳さんとの約束もある。急いで下駄箱に行くと
「柚希―っ!」
まただよ。
「瞳さん、大きな声を出さなくても聞こえますから」
「えーっ、良いじゃない。私の心が大きな声を出してるの。さっ、帰ろ」
下駄箱で履き替えて校舎から出ると直ぐに手を繋いで来た。同じ時間に帰る生徒達の視線を思い切り受ける。これは中々慣れない。
「ふふっ、柚希周りの視線なんて気にしない」
「そう言われても」
「そんな事言うと腕を組んじゃうぞ。こうやって」
うわっ、いきなり瞳さんが俺の左腕に自分の右腕を絡ませてきた。なんか柔らかい物が当たっている。
「や、止めて下さい」
手を抜こうとしたけど両手でがっしりと掴まれている為、抜けない。
「どう、気持ちいいでしょ」
この人わざと胸当てて来ているのか。周りから凄い視線だ。
「瞳さん分かりました。視線なれますから手つなぎだけにしましょう」
「えーっ、良いじゃない。こっちのが柚希を一杯感じるし」
「駄目です。まだ学校の中じゃ無いですか」
「じゃあ、校門出てからね」
何とか手つなぎだけに戻してくれたが、俺のメンタル壊れそうだ。でも先輩の胸感じるのこれで三回目だな。柔らかいし気持ちいいのも事実だけど、なんか受入れきれない。
私、渡辺静香。今日は顧問の先生に体調が悪いと言って部活を休んだ。今日部活に出ても小林先輩を避ける理由が見つけられない。
あの先輩と一緒に下校するなんて絶対に嫌だ。だから休んだ。それは良いんだけど…。目の前を山神君と上坂先輩が手を繋ぎながら歩いている。
急に上坂先輩の方から腕を絡ませたりイチャイチャしているけど、山神君はあまり嬉しくないようだ。見ていると一方的に上坂先輩が山神君に絡んでいる感じがする。
彼はまだ上坂先輩の事まだそんなに好きじゃないのかな。それなら私にもチャンス有るかも。
―――――
渡辺さんの悩み。良くありますよね。
次回をお楽しみに
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面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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