第22話 まだ間に合う
俺、山神柚希。昨日の昼休み三年生にいきなり教室に入ってこられたが、偶然が重なって相手を倒す事が出来た。
でもあんな事がこれからも続くと思うと気が滅入って来る。瞳さん、いや学校一の美少女と付き合うという事の大変さを思い切り感じている。
今日も亮と詩織それに梨音と一緒に登校している。梨音が、
「柚希、上坂さんとは何曜日一緒に食べるの?」
「それは…」
「柚希、もう教えてあげなさいよ。昨日あんな事が有ったんだから神崎さんも知る権利有ると思うわ」
そもそも柚希が上坂先輩と正式に恋人同士として付き合う事になった事をしっかりと神崎さんに教えないと彼女は思いを引き摺るだけだ。もちろん最後の判断は柚希だけど。
「分かった。梨音、瞳さんとは月、水、金にお昼を一緒に食べる事にしている。その日は下校も一緒だ」
「じゃあ、私が火曜と木曜柚希のお弁当作って来ても良い?」
「そんな事悪いよ。一緒に昼を食べるのは良いが梨音に作って貰うのは申し訳ない」
「お願い、柚希作らせて」
思いが直に伝わって来る。梨音の気持ちは分かるが、彼女にお弁当を作って貰うのは気が引ける。でも昨日の事もある。
「梨音、お弁当を作ってくれるのは嬉しいよ。でも材料費は払わせてくれ」
「…分かった」
嬉しい。材料費なんて必要ないけど、柚希が週二回も私の作ったお弁当を食べてくれる。また一歩近づいた。
俺達がそんな話をしながら学校に近付くと、いつもと違った視線を感じる。昨日までは男子からの妬みや嫉妬の視線だったが、今日は少しだけそれが和らいだ気がする。俺の気の所為だろうか。でも俺を見ながらのひそひそ話は尽きないようだけど。
三人で教室に入ると特に視線は感じなかった。昨日あんな事が有ったけど、瞳さんと俺が付き合い始めた事は周知された様だ。スクールバックを机の上に置くと
「山神君おはよ」
「おはよ渡辺さん」
「ねえ、今日も一緒に帰ってくれないかな?」
「今日はちょっと」
「そう…」
渡辺さんが残念というより不安そうな顔で俺を見たが、直ぐに視線を手に持っている本に戻した。
山神君と帰れないと不味いな。何とかしないと。
午前中の授業が終わり、みんながお昼の準備を始めると瞳さんが教室の入口から入って来た。
「柚希、お弁当食べよ」
手にはお弁当が入っている手提げ袋を持っている。
「瞳さん、外で食べましょう」
「うん」
流石に教室の中では食べられないので校舎裏の花壇の有るベンチに向かった。
今日は、誰もいない。
「今日は先客がいない様ね。良かった」
瞳さんはベンチにお弁当の入った袋を置くと中から大きなお弁当箱と小さなお弁当箱それに飲み物が入ったボトルを出した。
「食べようか」
「はい」
「柚希、昨日はごめんね。あんな事になってしまって。でも柚希強かったんだ。ちょっと驚いちゃった。柚希に声を掛けた三年生は、偶に声を掛けてくる程度だったからあんな事するとは思わなかったけど」
「瞳さん、昨日は本当にまぐれ、偶然です。あんな事はもうされたくないけど、瞳さんと付き合う以上は、覚悟しないといけないですね」
瞳さんが食べるのは止めて下を向いてしまった。
「柚希に迷惑かな、私と付き合う事って」
「そんな事絶対にない!」
つい大きな声を出してしまった。周りに人がいなくて良かった。
「どんなことが有っても俺は瞳さんの彼氏として立ち向かいます。必要なら空手でも剣道でも覚えます。直ぐに強くはならないけど、瞳さんを守ります」
急に明るい顔をして
「ふふっ、そんな事言ってくれるんだ。嬉しいわ。でも空手も剣道もしなくて良い。会う時間少なくなるし、何となく柚希には似合わないから」
「でも…」
「私が守ってあげる。なるべく一緒に居れば大丈夫でしょ」
「それは…嬉しいですけど、難しいし」
「難しくないよ。一日中は無理だけど。それより今度の土曜日の事だけど…」
お弁当が終わり話をしている内に予鈴が鳴った。
「じゃあ戻ろうか。今日も下駄箱で待っているね。皆にしっかり覚えて貰わないと。二人が付き合っているって」
瞳さんは強いな。俺はまだ気持ちがぶれている。本当にこの人を愛する事が出来るのか、この人と離れればあんな事は無くなる。でも周りからの嫌がらせが怖いから逃げた最低な男として俺の心に残る。
そんな事は嫌だ。どうしたら瞳さんを心の底から好きになれるのか。
午後の授業は頭に残らないままに時間が過ぎて行った。放課後になり
「柚希、また明日な」
「亮、悪いな」
「まあ上手くやれよ」
「柚希、今日は上坂さんと一緒に帰るの?」
「ああ、朝言った通りだ」
「そう…」
仕方ない。一人で帰ろうかな。
私、渡辺静香。今日は部活後、陸上部の小林先輩から一緒に帰ろうと誘われている。この前は用事が有ると言って断れたが、今日はどうするか。一緒に帰るなんて絶対嫌だし、でも理由がないと。
山神君は、今日は上坂先輩と一緒の下校だから部活終わるまで待って貰う事が出来ない。なんとか理由を作らないと。
横に座っている神崎さんがまだ帰らなそうにいる。そうだ、
「神崎さん、今日一緒に帰らない。部活終わるまで待って貰う事になるけど」
「えっ?何か用事でもあります?」
「うん、実は…」
神崎さんに小林先輩の事を話した。
「そういう事なら図書室で待っています。閉室になったら下駄箱に行けばいいですか?でも私で役に立ちます?」
「うん、もの凄く役に立つ。無理言ってごめんね。じゃあ私部活行くから」
急いでマンションに帰る必要も無いし、図書室に行こうかな。教室にはまだ生徒が残っているけど、図書室で復習でもしてよ。
教室を出ようとした所で
「神崎さん」
「えっ?」
教室の出入り口を出た所で知らない男子が立っていた。
「ちょっと良いかな。話したい事が有るんだけど」
「済みません。急ぐので」
「分かりました。明日の放課後は大丈夫?」
「いえ、明日も用事が有ります」
明日は柚希と一緒に帰るんだ。ところで誰なのこの人?
「そうですか。それではまたにします。じゃあ」
名前も言わずに去って行ってしまった。徽章から同じ一年生だという事は分かったけど。
図書室で今日の復習をしながら窓からグラウンドを見ると渡辺さんが練習をしている。そばで男の人が声を掛けている。なんか嫌そうだけど。
窓から時々渡辺さんを見ながら復習をしていると予鈴がなった。さて、下駄箱に行きますか。
立ち上がりテーブルから離れようとしたところで
「あのこれ読んで下さい」
男の子が私に白い封筒を差し出した。
「何ですかこれ?」
「お願いです。読んで下さい」
テーブルの上に封筒を置いたまま図書室を出て行ってしまった。参ったな。置いておいても仕方ないので、それを鞄に仕舞い下駄箱に行くと渡辺さんが待っていた。男の人も一緒だ。彼女は私を見るなり
「あっ、神崎さん。待たしちゃってごめんね。さっ行こうか」
「えっ、良いんですか」
「うん」
俺、小林幸助。なんだ今日用事あると言ったのはクラスの女子か。またあの山神の野郎だったら文句言ってやろうと思ったが、女子じゃあしょうがない。
しかし、渡辺と何とか付き合えないだろうか。まあいい、まだチャンスは一杯ある。
私、渡辺静香。助かったわ。小林先輩、練習中からしつこく一緒に帰ろうと誘って来たけど、用事あるからと断っていたら、本当かどうか下駄箱までついて行くと言い出して付いて来たけど、相手が神崎さんだと分かると諦めたみたい。
しかしこれからどうしようかな。部活止める訳には行かないけどあの人しつっこいし。山神君が私の彼にでもなってくれたらいいのに。
―――――
柚希の周りがまた騒がしくなってきました。それに梨音の周りも。
次回をお楽しみに
カクヨムコン8に応募中です。★★★頂けるととても嬉しいです。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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