第26話 事の余韻


 俺、山神柚希。渡辺さんとの電話が終わり、風呂に入って寝ようと思っている所に


コンコン。


「柚希入るわよ」


 ドアを開けて姉ちゃんが俺の部屋に入って来た。


「何?」

「柚希、明日担任の先生から呼び出しが有るわ。あなたと渡辺さん。内容は小林の件よ。昨日の内に警察から学校に連絡が有って、その確認も含めて聞かれるわ。

 もちろん、あなたは被害者だから何も無いけど。小林は退学ね。でもその所為であなたが小林に殴られた事が学校内に広まる。上坂には伝えて有るけど尾ひれはひれがつくのは覚悟しておきなさい」


「分かった」


 そう言うといきなり姉ちゃんは椅子に座っている俺に近付いていきなり抱きしめて来た。お姉ちゃんのお腹が当たっている。お風呂上りなのかいい匂いがする。

「ごめんね。私がもっと力が有れば、噂を消す事も出来るんだけど。来年は私が生徒会長になる。だから柚希をもっと守ってあげれるわ」


 俺をぎゅうと手で絞めて来た。ちょっと苦しい。


「じゃあ、明日はそういう事だから」

 姉ちゃんが部屋から出て行った。今日教室に来たのはそういう事だったのかな?



 翌日、学校に行きながら亮と詩織には姉ちゃんから言われた事を話した。

「そう、せっかく柚希の顔の腫れを机にぶつけた事にしたのにバレちゃうね」

「まあ、クラスの皆は柚希が渡辺さんを守ろうとしたことは理解出来るからいいけど、渡辺さんがちょっと気になるね。昨日休んでいるし」

「ああ、昨日渡辺さんに電話して今日は登校してってお願いしたけど。教室に入ったら直ぐに伝えておいた方がいいかな」

「そうだな。でも時間有るか。祥子先生朝一で言うんじゃないか」

「…………」



 俺達が教室に入って行くと渡辺さんは席に座っていた。良かった。俺が自分の席に近付くと

「山神君、おはよう」

「おはよう渡辺さん」

「昨日は電話ありがとうね」

「ううん、いいよ」


 挨拶をしている内に祥子先生が教室に入って来た。まだ予鈴もなっていない。いつもより早い。

「山神君、渡辺さん。一緒に来てくれる。他の人は自習をしているように」

「えっ?」

 渡辺さんが驚いた顔をしている。他の生徒も一様に驚いた顔だ。


「渡辺さん行こう」


 俺達が祥子先生の後に付いて行くと職員室ではなく校長室に入らされた。そこには校長先生、教頭先生、各学年主任と祥子先生だ。早速校長が口を開いた。

「朝早く二人共悪いね。そこのソファに座りなさい」


 俺達がソファに座ると校長先生が話始めた。内容は俺が小林先輩に殴られた経緯だ。もちろん何故二人でファミレスにいたかも聞かれた。


 渡辺さんは、素直に小林先輩から受けたボディタッチや下校の誘われも全て話した。校長先生が

「二人共ありがとう。良く話してくれた。もう教室に帰っていいよ。教頭先生は陸上の顧問を呼んできてくれないか」



 俺達は先生達から解放されたが、話はまだ続く様だ。廊下を歩きながら

「渡辺さん、ごめん。警察から学校に連絡が有ったみたいだ。昨日姉ちゃんが教えてくれた」

「そう…」

「でも渡辺さんは何も悪い事していないから堂々としていればいいよ」

「山神君、私やっぱり陸上辞める。こんな事になってちょっといずらい」

「辞める事はないよ。渡辺さんはむしろ被害者なんだから」

「そうだけど…」



 教室に入る前に二人で目線を合わせてからドアを開いた。当然皆の視線が俺達に集まった。


 何も聞いてこないけどじっと見られている。席が後ろで良かった。俺と渡辺さんは何も言わずに席に座り次の授業の教科書を取り出そうとしたところで

「山神、何か有ったのか?」

 クラスメイトに聞かれた。


「まあ、ちょっとな。今は詳しくは言えないんだ。ごめん」

 多分学校から小林先輩の処分が出た所で、もう一度話題になるだろう。


 中休みになるとゴシップ好きそうな女子が渡辺さんに近付いて来たが、詩織が上手く止めてくれた。



 昼休になると梨音がランチバックから俺の大きな弁当箱と梨音の小さな弁当箱を出した。

「はい、柚希の分」

「悪いな梨音」

「ううん、嬉しいよ柚希が食べてくれるから」

 

 私、渡辺静香、山神君は上坂先輩という彼女がいながらも神崎さんのお弁当も食べている。この事は上坂先輩も了解の上らしい。だったら私のお弁当も食べてくれても…。無理かな。


「しかし柚希。羨ましいな。月、水、金が上坂先輩のお弁当、火、木が神崎さんのお弁当か」

「そうだな。嬉しい限りだよ」

「ねえ、山神君。私の作ったお弁当も食べてくれない?」

「「「えっ?」」」


 俺、亮、梨音で同時に驚いた。


「いやでも悪いし。今二人に作って貰っているから」

「そう。でも…」

「気持は嬉しく受けとっておくから」


 山神君に惹かれている自分が分かる。告白は断られたけど、こうして傍に入れる。今は我慢するしかないのかな。


 俺達が昼食を丁度食べ終わったところで瞳さんが教室に入って来た。

「柚希、ちょっといい」

「えっ、はい」

 また、みんなから視線を集めてしまった。今日はみんなから視線を集める日の様だ。



 人の少ない階段の下に連れて行かれると

「柚希、校長室に呼ばれたんだって。お姉さんから聞いた」

「うん、俺と渡辺さんで。でも聞かれただけで、校長先生からも特に注意も何も言われなかったよ。むしろ呼び出して悪かったという雰囲気だった」

「そう、それなら良いんだけど。ねえ、今日は私と一緒に帰ろう」

「済みません。俺も瞳さんと一緒に帰るのは嬉しいですけど、今日は亮達と一緒に帰りたいんです」

「…そう、分かったわ。今週末は我が家に来てね」

「はいそれは大丈夫です」

「じゃあ、戻りましょうか」

「はい」


 柚希をもっと私に向かせないと。


―――――


 瞳さん頑張れ!


次回をお楽しみに

カクヨムコン8に応募中です。★★★頂けるととても嬉しいです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

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