第18話 公園散歩と気持ちの変化


 俺、山神柚希。瞳さんから日曜日会いたいという事で指定された公園のある駅の改札にいる。約束の時間は午前十時。まだ二十分ある。

 今日も良く晴れている。九月も終りの時期だが、陽が出るととても暖かい。ポロシャツにチノパン、それに紺のスニーカだ。ポケット代わりにウィンドブレーカを着ているが必要なさそうだ。

 

 スマホを弄りながら待っていると改札に瞳さんが現れた。クリーム系のブラウスに濃い赤茶のパンツ、手にはショッキングレッドのバッグを持っている。長い髪の毛はそのまま背中に流して輝いている。


 はっきりって本当に綺麗だ。俺を見つけると軽く手を振りながら近づいて来た。

「柚希待った?」

「さっき来た所です」

「ふふっ、優しいのね」

「…………」

 瞳さん何言っているのだろう?


 公園までは歩いて五分位だ。瞳さんの隣を歩いている。俺と身長がほとんど変わらないのでちょっと横目で見ると顔がほぼ同じ位置にある。あっ、こっちを見た。


「どうしたの?」

「いえ、身長が同じ位だなと思って」

「今更だけど私の身長は春の身体測定の時、百六十八センチあった。もう伸びないと思うけど。柚希はどの位?」

「俺は百七十センチです」

「じゃあ、もう少し伸びそうだね。男子は高校に入ってからも伸びるっていうから」

「それは女子も同じでしょ?」

「どうなんだろ。私自身はもう伸びないと思うけどね」



 他愛無い会話をしながら歩いていると公園の入口に着いた。

「ここの公園は良く来るんですか?」

「そんな事ない。久しぶりよ。でもここは広くていいから」

「そうですね。俺も久しぶりです」


 自然の岩を模した階段とスロープが有る所を俺が先に降りる。少し降りると


「きゃっ」

「えっ?」


 ぶにゅっ。


 うぉ、瞳さんが倒れ込んで来た。何とか足で踏ん張って咄嗟に彼女の体を支えたが、瞳さんの胸が俺の顔に思い切り当たって来た。


 こ、これって。でも柔らかくていい匂い。


 私、上坂瞳。先に柚希が歩いている。階段差で丁度彼の頭の上が見える位だ。ここは景色がいい。景色を見ながら階段を降りようとして


「きゃっ」


 足が上手く段差を捉えなくて前を歩いている柚希に体が傾いてしまった。彼が咄嗟に私の体を抱きしめる様に支えてくれたが、私は段差の所為で柚希のあたまの後ろを持つような姿勢になってしまった。そして胸は彼の顔に。


 なんだろう。胸押し付けてしまったのに何か気持ちいい。そのまま彼の頭を押さえてしまった。


「ひ、瞳さん。離れて、離れて」

「あっ!」


「ふーっ」

 ふふっ、彼の顔が真っ赤だ。


「ご、ごめんなさい。…でも柚希顔真っ赤だよ」

「瞳さんもです」


 二人共つい下を向いてしまうと、横を通る人たちがクスクス笑っているのが聞こえた。

「ひ、瞳さん。行きましょうか」

「え、ええ」



無事に?階段と坂のスロープを降りると池一面に陽に映し出された木々の彩り陽彩が映っている。

「綺麗ね」

「はい」



 それを見ながら並んで歩いていると瞳さんの柔らかい手が俺の手に触れた。繋ごうとしているのか。チラッと横目で見ても彼女は池一面の彩りを見ているだけだ。


 俺もそっと彼女の手に触れると優しく繋いで来た。そのまま軽く手を繋ぎながら百メートルほど行くと東屋の座敷側が開いていて上がり縁に木製のベンチがある。


 何も言わずに瞳さんが座ったので、俺も横に座って池の景色を見た。瞳さん、俺なんかとなんで公園で散歩なんかしたかったんだろう。

 こんな綺麗な人と一緒にいれるなんて。でもお礼の気持ちで一緒に居てくれるんだろうな。




 隣で池を見ている柚希がいる。髪の毛は短くて目は大きくないけどはっきりと開いていて二重瞼で少し切れ長。鼻はそれなりに高くしっかりとしている。唇は厚くもなく薄くもない。輪郭は角張る所が無くすっきりとしている。


 顔に特徴が無いのは、それぞれのパーツが一通り整っているから目立たないだけなんだ。なんだろう、胸が少しドキドキしている。さっきの階段の事だけじゃない。


 こういうのって…。私柚希に惹かれているのかな?助けてくれた時からそうだったのかな。でも柚希はどうなんだろう。私の事どう思っているんだろう。この前ただの友達としてなら付き合ってくれているって言ったけど。


 おかしいな。こんなこと考えているとますます胸の鼓動が大きくなる。彼に聞こえないかしら。

 やっぱり好きなのかな。告白してみようか。駄目だったら…。でもしないとこの気持ち引き摺るだけだし。だったら…。でも断られたら…。



 あっ、いきなりこっちを見た。


「あの、瞳さん。顔が真っ赤ですけど。熱でもあるんですか?」

「うん、有るみたい」

「えっ!じゃあ直ぐに帰りましょう」

「違う。違うの。そうじゃなくって…」

「…………」

 瞳さんが俺の顔をじっと見ている。



「柚希、私の事友達として付き合うだけだって言ってたよね」

「ええ」

「なんで?なんでそうなの?」

「…だって瞳さんの様な綺麗な人が今こうしているのは、俺が助けた事へのお礼のつもりなんでしょ。だから…」

「違う。違う。違うの」

 先輩の下瞼に涙が溜まって来ている。下を向いてしまった。



「私じゃ、駄目かな?」

「えっ?」


「柚希の彼女になれないかな?」

「え、え、ええーっ!

 いやだって、俺なんかと瞳さんじゃ合わないでしょ」


「誰がそんな事決めるのよ。私と柚希が決める事でしょ!」


 瞳さんが冗談で言っている様には見えない。でも本当に…。


「…本当に俺なんかで良いんですか」

「うん」


 本当に俺なんかで良いのかよ。相手は中喜多高校一の美少女だぞ。相当に覚悟いるぞ。俺にそんな覚悟あるのか。


「ねえ、柚希、私あなたの事が好きみたい。だから付き合って。友達じゃなくて恋人として」

「…本当に俺で良いんですね」

「いいと言っている」


 俺はまだこの人を好きという心で捉えていない。そんな気持ちで付き合う事なんか出来るんだろうか。でも取っても真剣な目で俺を見て来る。


「…分かりました。俺、瞳さんと付き合います。でもまだいきなりなんで心の準備というかなんというか」

「ふふっ、そんなの一緒に居れば出来るよ。ねえお腹空かない?」

「空きましたね。公園の中に簡単な売店があります。テーブルもあるのでそこで良いですか」

「もちろん柚希と一緒だもん」




 俺達は公園の中にある売店に行って、菓子パン、たこ焼き、お好み焼きを買った。ジュースは自販機で売っている。


 二人で空いているテーブルに着くと

「ふふっ、なんか胸の詰まりが降りたみたい。嬉しい、まだドキドキしている」

「そ、そうですか」

「ねえ、私の家族の事はこの前話したでしょ。柚希の家族の事教えて」


「俺の家族ですか。父さんは東京の大学で教授している。週に何回か位しか帰ってこない。母さんは看護師。夜勤もあるから大変みたい。

 姉ちゃんは知っての通り。父さんや母さんの頭のいい所はみんな姉ちゃんに行ったので俺にはカスしか残らなかったみたい。そんな所」


「そんなことないよ。まだ高一だし。勉強きちんとやればすぐに成績なんて伸びるから」

「そう、そのきちんとやるという気力が無いんです。でもいいんですよ、別に何様になるつもりも無いし」



 なるほど柚希は、現状維持を良しとするから顔のパーツも整っているのに輝かないのか。でもやる気出たら一気に目立ちそう。それはそれで困るけど。


「柚希、明日からどうしようか?」

「明日からって?」

「学校でどうするかよ」


「そうですね。今のままで良いんじゃないですか。でもこの事、親友と幼馴染にだけは話していいですか?あいつらには黙っておきたくないので」

「もちろん、私も友達には話すから。それとお昼とか一緒に食べたいな。それに登下校も一緒にしたい。それに柚希の事聞かれたら付き合っていますって言いたい」


「一気にハードル上げますね。ついこの前まで友達としてって言ってたのに」

「柚希は嫌なの?」

「そういう訳じゃないんですけど。登校は今までの仲間がいるし」

「じゃあ、下校は?」

「たまにならいいですよ」

「じゃあ偶に迎えに行く」

「いやいやそれは目立つから、夜連絡しましょう」

「わかったわ」




「柚希、もう少し歩こうか」

「はい」


 俺達は食べた包みや缶を分別箱に捨てると、また公園の中を歩いた。この公園は奥の方まで広く遊歩道がある。


 瞳さんがそっと俺の右手に手を添えて来た。ゆっくりと小さくて柔らかい手を握ると彼女は前を向きながら微笑んだ。

 

―――――


 瞳の告白を受け入れた柚希。明日からどうなりますやら。


次回をお楽しみに

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