第17話 少しずつ戻る日常

この話の最後に大切なお願いがございます。


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 俺、山神柚希。先輩達から呼び出された翌朝、顔を洗って学生服に着替えた後、ダイニングに行くと姉ちゃんと母さんが朝食を摂っていた。

「母さん、姉ちゃんおはよう」

「「柚希おはよう」」


「柚希、クラスネットと校内ネットにアップされている動画だけど、生徒会権限で削除してあげる」

「ほんと。嬉しいけど、削除する前に誰がアップしたかアカウント記録しておいて」

「分かった。そこまで出来るか分からないけど聞いてみる。でもアカウント知っても今はどうにも出来ないでしょ」

「うん、実は今度の日曜日上坂先輩と会う事になっている。その時の動画もアップされて同じアカウントなら本人に理由を確かめられる。確かに一度なら誤魔化されるけど、これなら理由を聞く十分な証拠なる」


「随分積極的な行動ね。柚希らしくないわ。相手が上坂さんだから?」

「そういう訳じゃない。この噂を早く消して静かになりたいだけだ」

「そう、分かったわ」



 その日の金曜日と翌日の土曜日。学校の最寄り駅を降りてからの視線は、少しだけど少なくなった感じがした。


 亮、詩織、梨音と一緒に下駄箱で履き替えてから教室に入るともう俺に対するクラスの視線は無かった。やっぱり武田のお陰だな。あれで一応皆納得してくれたらしい。

 席に着くと後ろに座る渡辺さんが

「山神君、おはよう。ねえお願いが有るんだけど」

「なに?」

「今日、部活午後三時までなんだ。その後会えないかな?山神君には悪いけどどこかで待っていてくれると嬉しい」

「何か用事あるの?」

「ちょっと。ここでは言い辛い」

「そういう事なら良いよ。図書室で待っているから来て」

「ふふっ、ありがとう。山神君やっぱり優しいな」

「…………」



 私、神崎梨音。隣に座る渡辺さんが柚希を誘った。何が有るか分からないけど気になる。それに私も少しでも一緒に居たい。だから


「柚希、それだったら、渡辺さんが来るまで図書室に一緒に居ていいかな?」

「いても良いけど話せないぞ」

「うん、それでもいい」


 やっぱり、神崎さんは少しずつ山神君に近付こうとしている。




 放課後になり、亮は朝の話を聞いているのか

「柚希、じゃあ今日は先帰るな」

「おう、また来週な」

「おう、ばいばい」


 詩織は周りの女の子達とどこかに行くみたいで笑いながら教室を出て行った。仕方なしに俺は購買に行って菓子パンとジュースを買って教室に戻ると

「柚希、私も一緒に食べていい?」

「いいけど」

「じゃあ、私も買って来る」

「ああ、待っている」


 梨音が嬉しそうな顔をして教室を出て行った。この学校は購買と言ってもコンビニ業者が入っている。だから土曜日も部活が終わる時間までは開いている。もちろん大きくは無いが文房具なども売っているので助かる。



 梨音が戻って来ると俺の前の席に座って

「食べようか」

「おう」


「ふふっ、嬉しいなこうやって柚希と二人で食べれるなんて。ねえ柚希、上坂先輩とはあの後も会っているの?」

「気になるのか?」

「うん」


 聞いている意図は何となく理解できる。でも事実だけ言えば良いだけだ。こいつとよりが戻るなんて思わないから。


「いや、会ってはいない。普段は会わない」

「じゃあ、休みの日は会うの?」

「約束だからな」

「そうかあ」


「それより梨音、友達とか出来たか。あまり他の人と話すところ見ていないから」

「心配してくれるの?」

「ちょっとだけな。知らない仲じゃ無いし。細かい事はともかく俺に会いに帰国したって事は事実だからな」

「柚希、どうしたら信用してくれるの?」

「…梨音、この話は止めよう。お互いが面白くなくなるだけだ。それよりさっきの話。友達は?」


 やっぱり柚希は優しい。私は彼のこの優しさも彼を愛している理由の一つ。だからいずれは…。


「どうした梨音?」

「何でもない。少しずつだけど話せる友達も出来たよ。今度お昼一緒に食べようって誘われている」

「良かったじゃないか」

「うん」



 結局教室で梨音と一緒に話をした。彼女はアメリカでの生活の事を話してくれた。どこまで本当か分からないがそこには新しい彼氏の影は見えなかった。でも分からない俺の心の中は彼女への疑いで固まっている。


 梨音は本当に綺麗だ。目の前にある少し切れ長の大きな目、スッとした形の良い鼻、可愛い唇、髪は腰近くまで有るけど綺麗に切りそろえられている。そしてしっかりと胸も出ている。


 上坂先輩と比べても決してひけを取らない。俺の知っている限りでは校内で一、二を争う美人だ。俺の姉ちゃんも綺麗だけど。


 

 二人で図書室へ移動して今日受けた授業の復習をしていると渡辺さんが入って来た。

「山神君、お待たせ。行こうか」

「ああ、じゃあな梨音、気を付けて帰れよ」

「うん」


 柚希が私を心配してくれている。嬉しい。初めて登校した日を考えれば随分進んだ。もう少しだ。二人が図書室を出て行くのを見届けてから私も図書室を出た。



「山神君悪かったわね。私が部活終わるまで待って貰って。ねえファミレスに寄らない。私が払うから」

「時間有るから寄るのは構わないけど、割り勘で良いよ。ファミレスに行ったら俺を誘った理由教えて貰える」

「うん、いいよ」




 俺、小林幸助陸上部の二年生だ。昨日後輩の渡辺に今日一緒に帰らないかと誘ったが、用事が有るからと断られた。


 用事が有るなら仕方ないと思ったが、今渡辺が男と一緒に校門を出て行く。隣にいるのは、学祭の時に一緒にいた山神とかいう一年生だ。あいつは確か2Aの上坂と一緒の動画を校内ネットに流されていた。


 上坂は綺麗だが、あんな気取った女が誰と仲よくしようが知ったこっちゃない。だけど俺の好きな渡辺と一緒に帰って行くのは面白くない。二股なんか掛けやがってどういうつもりだ。





 俺達はファミレスに入るとドリンクバーだけ頼んだ。彼女はホットココア、俺はホットコーヒーを持って席に着くと

「山神君ごめんね。実は今日小林先輩に一緒に帰ろうって誘われて…。あの人部活では色々教えてくれるんだけど、ちょっとボディタッチとか多くて好きになれないの。だから今日は用事が有るって断った。でもこのまま家に帰ってもなんか嫌だし、それで山神君を誘って話でもしようかなと思って」


 俺は学祭の時に会った小林という人を思い出してから

「そういう事か。別に構わないけど…」


 本当は構うよ。小林って人から逆恨みでもされなきゃいいんだけど。


「ねえ、山神君明日は何か用事ある?」

「うんちょっと」

「そっかあ、一緒に買い物付き合って貰おうかと思ったんだけどな」

「ごめん」


「次の日曜日は?」

「特に用事無いけど」

「じゃあ、付き合って貰えるかな?」

「いいけど。俺なんかで良いの。渡辺さん綺麗だしカッコいいし、モテると思っているんだけど」

 実際渡辺さんは綺麗だ。身長は俺よりあるし、腰まである艶やかな長い髪の毛、目が大きくぱっちりしている。彼氏位いるんじゃないのか?


「綺麗って言ってくれてありがとう。でも残念ながら決まった人はいないよ。恋人は欲しいけどね」


 山神君はサラッと褒めてくれる。これといって特徴ない彼だけど一緒にいて気を使わない感じが良い。


「ところで山神君は部活入らないの?」

「無理。球技駄目。運動能力低いし。文科系も性に合わない」

「そっかあ、残念だな。何か入れば一緒に帰れるのにね」

「終わる時間が違うから無理じゃないか」

「どっちかが待合せれば良いんじゃない」

「…………」


 渡辺さん何言っているのか分からなくなって来た。どういうつもりで言っているんだろう。

「あはは、ごめんなさい。なんかおかしなこと言ってしまったわね」

 私、何言っているんだろう?



 俺達はそれから一時間位ファミレスで話してから駅で別れた。


―――――


 柚希、モテ期?


次回をお楽しみに

(下記内容近況ノートにも記載しております)

いつも私の作品を読んで頂いている読者の皆様、大変ありがとうございます。


12/1から応募が開始されたカクヨムコン8に本作品を応募しました。


このカクヨムコン8は読者の皆様の★★★で決まります。作品をフォローして頂いている読者様、フォロー頂いてなくても読んで頂いている読者様、ぜひぜひお星様★★★を頂けるととても嬉しく思います。



宜しくお願い致します。


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