第19話 油断は禁物なんだけど


 俺、山神柚希。翌朝いつもの様に亮、詩織、梨音と一緒に学校の最寄り駅の改札を出た。俺を見る視線は有るものの少しずつだが減っている気がする。


「柚希、昨日はどうしてた」

「亮、詩織。昼休み時間をくれ。話したい事が有る」

「えっ、まあいいけど。話って何?」

「詩織、それは昼休みに」


 梨音が私は仲間外れなのかという顔をしている。でも彼女には関係ない事だ。


 教室に入ってももう俺に変な視線を向ける奴はいなくなった。いつもの朝の挨拶を交わしながら席に着くと


「山神君、おはよう。土曜日はありがとう。助かったわ」

「おはよう、渡辺さん。それは良かった。あのくらいの事ならいつでもいいよ」

「えっ、ほんとう。じゃあ毎日は?」

「流石にそれは」

「なーんだ。まあ冗談だけど」


 ふふっ、山神君の恥ずかしがる顔って結構可愛いな。彼って良く見ると目立たない顔をしているけど、綺麗な顔をしている。


目は大きくないけど切れ長だし、鼻は結構高くて綺麗だ。唇もすっきりしているし、輪郭もどこが張っている訳では無くすっきりしている。


その上髪の毛が短いから爽やかだ。今時前髪でおでこを隠して、あげたらイケメンだろうなんて言っている馬鹿がいるけど山神君の方が全然いい。また誘ってみようかな。


「あれ、柚希。渡辺さんと何か有ったの?」

「設楽さん、土曜日山神君と学校の帰りにファミレスに行っただけ。神崎さんも知っているわ」

「そうなの神崎さん?」

「はい」

 お陰で柚希と二時間も一緒に二人で居れた。渡辺さんに感謝かな。でも私も柚希と一緒に二人でファミレス行きたいな。


 四人で話している内に担任の祥子先生が教室に入って来た。




 午前中の授業も終わり、今日から自分で購買に買い行く事にした。学食はまだ視線が怖い気がする。


 俺と前に座る亮がこっちを向いて食べ始める。右後ろの梨音も一緒に食べるので自然と渡辺さんも入って四人で昼食を摂る様になった。詩織は周りの女の子達と一緒に食事をしている。


 昼食が終わると詩織を見た。昼食はもう終わっている様なので近づいて

「詩織、良いか」

「うん、いいよ」

「設楽さん、山神君と約束?」

「うんちょっと」



 俺は亮と、詩織を連れて校舎裏の花壇の傍にあるベンチに来た。幸い誰もここで食事はしていない。


「柚希話って何?」

「俺、昨日から上坂先輩、いや瞳さんと付き合う事になった。恋人として」

「「えっ!」」


「どういう事。友達として付き合うって言ってからまだ一週間も経っていないんじゃない?」

「うん、瞳さんから告白されて」

「えーっ、柚希からじゃなくて?」

「うん、俺はまだ瞳さんの事、友達と言う目線でしか見れていない。それも話したんだけどそれでもいいからって言われて」


「そうなんだ。良かったな柚希」

「でも松本君、この前の様な訳には行かないわ。友達だってだけであれだけ騒がれたのよ。恋人になりましたなんて知られたら、柚希大変な事になるわよ」


「一応、学校内では前の通りで、偶に下校するだけにしようという事になった。でも聞かれたら付き合っているって話す事になっている」


「うーん、それはまた。まあ二人で決めた事だから俺が何を言える訳でもないけど。心配は二年生や三年生の柚希への攻撃だな。あの人結構もてるし、告白も随分されているみたいだから」


「ああ、もう覚悟するしかない」

「それで済めばいいけど。神崎さんには話さないのか?」

「梨音には関係ない事だ」

「関係ない事では無いと思うけど…」




 予鈴が鳴ったので、俺達は教室に戻ったが、梨音は席にいなかった。トイレでも行っているのかな?




 それから数日は何も無く平穏だった。瞳さんとは毎日スマホで話をしている。今度の土曜日、学校が終わったら会う事になっている。


 そして土曜日、待ち合わせ場所は公園の有る駅だ。学校付近では目立つから避ける事にした。授業が終わって直ぐに教室を出た。

「亮、また来週な」

「おう」


 急いで駅に行くとホームに丁度瞳さんの姿が有った。だけど近付かない。周りに同じ学校の生徒が一杯いる。電車がホームに入ってくる前に瞳さんが俺に気付いた。



 公園のある駅は瞳さんの家のある方向と同じだ。そのまま一つドアを隔てて立っていると学校のある駅から四つ目、公園の有る駅で降りた。



 周りに同じ学校の生徒が何人かいるが、瞳さんはそれを気にしないで俺に近付くと


「柚希一緒だったね」

「瞳さん、まだ同じ高校の生徒がいますよ」

「良いじゃない、そんな事。それよりお腹空いた。この前と同じ所でいいよ」

「でもあそこはこの時間同じ学校の生徒がいるし」

「柚希、もういいでしょ。一緒に食べよ」


 瞳さん、開き直っている感じがするが、俺はまだそこまでの気持ちにはなっていない。


「瞳さん、じゃあ駅からちょっと歩いて通りを一つ隔てた所に喫茶店がありますからそこで食べません?」

 本当は俺の財布にダメージが大きいけど仕方ない。


「いいわよ。でも〇ックのが安いでしょ」

「いえでも、そっちにしましょう」



 二人してちょっとだけ歩いて喫茶店のドアを開くと


 カラーン。


 ちょっとクラッシックな内装だ。でも同じ学校の生徒はいなく落着いている。マスターが俺達をチラッと見て

「お好きな所にお座りください」


 俺達は少し奥まった所の四人席に座るとマスターが水の入ったグラスとメニューを持って来て、直ぐにカウンターに戻った。


「落ち着いていていい所ね」

「はい俺もそう思います。瞳さん何にします?」


「うーん、ボンゴレスパとオレンジジュースかな」

「じゃあ俺はオムライスとアイスコーヒー」


 二人の注文をマスターに伝えると


「柚希、学校ではどうだった?」

「別に静かでした」

「私も。お昼一緒に食べれないのは残念だけど。ねえ来週から下校一緒に出来ない?同じ学校にいるのに全然会えないのはつまらないよ」


「そう言われても…」

「柚希は私の事嫌いなの?」

「そんな事ある訳ないじゃないですか」

「じゃあ、なんで学校で会えないの?」

「それは…」


 瞳さんが俺に好意を寄せてくれているのは嬉しいし、毎日スマホで話していれば心も自然とこの人の方に向く。

 今は、助けた人というより純粋に好きだという気持ちが段々俺の心の中を占めて来た。でも本当の覚悟は出来ていない。俺が瞳さんの彼氏になるという覚悟が。


 じっと瞳さんが俺を見つめている。

「柚希がじりじりしていると来週から毎日教室に行くよ」

「いやそれは流石に」

「じゃあ、私の彼としてきちんとして」


 覚悟決めるしかないか。でもなあ。


「返事出来ないの?」

「そんなことないです。でもちょっとだけ時間下さい。今日の夜まで。その時、学校でどうするか言いますから」

「分かった」


 柚希が躊躇している気持ちは分かる。私が告白して強引に恋人同士になったけど、彼の心の中ではまだ私は友達。だから判断できない。心を決めきれない。

 でも今言ってくれた。今日の夜には教えてくれるって。でも、まさか恋人解消って言わないよね。


「どうしたんですか。急に寂しそうな顔になって」

「柚希の所為だから」

「俺の所為?」



 俺達は喫茶店でゆっくりと食事をしてから、また公園に散歩に行った。今度はしっかりと二人で手を繋いで。


 夕方になって、

「柚希、明日も会ってくれるよね」

「いいですよ」

「じゃあ、明日は映画見に行こうか」

「はい」




 俺は家に戻ると急いで亮に電話した。

「亮、相談がある。実は瞳さんが学校でも会いたいと言って来た」

「ついにそう来たか。いずれはそうなるだろうなとは思ったけど。でもちょっと早いな。上坂先輩、よっぽど柚希の事が好きなんだな」

「それは嬉しいけど、どうやって会えばいいんだ。昼はみんなと一緒だし」

「週に何回か先輩と一緒に食べればいいじゃないか、俺は別に構わないぞ。親友の恋路を邪魔するつもり無いし」


「簡単に言ってくれるな。それをしたとたん、俺は学校で一番の嫌われ者になりそうだが」

「一番かどうかは知らないが、相当に周りから接触を受けるだろうな。特に二、三年生から」

「いやだよそんなの」

「じゃあ、先輩と別れたら?」

「それも嫌だ」

「じゃあ、覚悟を決めろ」

「…分かったよ」




 夕食も取って自室で休んでいるとスマホが震えた。瞳さんからだ。


「柚希、連絡遅いから私から掛けた」

 まだ、駅で別れてから三時間も経っていないんですけど。


「瞳さん、お昼一緒に食べましょう。でも週二日だけですよ。あと下校は昼食が一緒だった日」


「やだ!」

「えっ?!なんで?」

「お昼週二日はやだ。せめて週三日にして」

 そこかよ。


「いいですよ。じゃあ週三日にしましょう。何曜日いいですか?」

「月、水、金がいい。間一日だけなら我慢出来るから、それに金曜日は土日のデートの約束出来るし」

 うわっ、ほぼべったりじゃん。仕方ないか。


「そうですね。良いですよそれで」

「やったぁ!そうだ明日はデパートのある駅で午前十時で良いよね」

「はい」


 それから少しというか一時間位話して電話を切った。明日も会うのか、やっぱり嬉しいな。


―――――


 なんか柚希と瞳順調の様ですが。


次回をお楽しみに

カクヨムコン8に応募中です。★★★頂けるととても嬉しいです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

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