第9話 中喜多祭 二日目


 二日目は朝から生徒の親や他校の生徒等が来場して来た。午前九時に始まった学祭は午前十時半頃になるとグラウンドや校舎の中も人で溢れていた。


 体育館では、昨日に続いて軽音部や演劇部の発表が行われている。友人同士のユニットもあるようだ。


 まあ、俺はあまり興味がない。昨日は亮と二年生の階とグラウンドに出ている出店を見て回ったので、今日は片付けまで昼食以外は教室でのんびりしようと思っている。


 今日も朝から教室には俺以外いない。バッグから本を取出して読もうとすると梨音が入って来た。

 でも話しかけてこない。静かに本を読んでいる。助かる、話しかけられなければ、俺の斜め後ろに座っているから気にならない。


 三十分程読んでいると


「あ、いたいた」

 声の主は渡辺さんの様だ。


「ねえ、山神君、私と一緒に学祭回ろう」

「えっ、いいけど。渡辺さんなら他の友達もいるんじゃない?」

「私そんなに友達いないんだ。だから、いいでしょ」


 チラッと梨音の方に目をやると驚いた顔をしている。でもこいつといるよりましか。

「良いですよ。俺で良ければ」

「ふふっ、ありがとう。じゃあ行こうか」



 私、渡辺静香。前にも言ったけど、あまり友達がいない。全然いない訳じゃないけど学祭を一緒に回ってくれる程仲のいい友達はいない。


 だからもしかして山神君が暇そうにしていたらと思って彼を探した。出店の所に行って来なかったと聞くと、教室にいるから何か有ったら呼んでくれという事だった。

 これはラッキーと思い教室に来ると彼と神崎さんの二人がいた。


 でも二人共本を読んでいる。この二人は過去何か有ったみたいだけど、この状況なら誘っても問題なさそう。そう思って彼に声を掛けたらOKしてくれた。


彼を知るにはいいチャンスだ。早速私は声を掛けた。


「山神君、昨日は何処か回ったの?」

「ああ、亮と一緒に二年生の階とグラウンドの出店を見て回った」

「じゃあ、三年生の階と体育館は行っていないんだ。そこから行こうか」

「そうだね。そうしようか」



 俺、山神柚希。渡辺さんが俺に何故声を掛けたのかは知らないが、丁度良い。あのまま梨音と一緒に本を読んでいるよりましだ。


 三年生の階に行くと次作PCの教室や、宇宙の展望とか、周辺の野鳥の観察とか、やはりレベルの高い展示が多かった。


 渡辺さんと見て回ったが、彼女は宇宙の展望とか野鳥の観察の展示に興味を持っているらしく結構真剣に説明を聞いたりしていた。


 三年生の階を見て終わった所でもう十一時半になっている。

「山神君、十二時過ぎると出店混むから早めに取ろうか?」


 どうも彼女は午後も一緒に居るつもりの様だ。


「良いですよ」


 俺達はグラウンドでテント行って出ている出店に行くと俺達のクラスの焼きそばと他の出店から唐揚げとトン汁を買った。唐揚げは俺だけだけど。



飲食スペースに行って買った物をテーブルに置いて食べ始めると

「ねえ、山神君。君はなんでこの高校に入ったの?」

「えっ、いきなりの質問だね。まあいいけど。頭の中身がこの高校のレベルだったいう事と校則がきつくない所かな。あと姉ちゃんがいるから」

「えっ、山神君のお姉さんもこの高校に?」

「うん、2A。生徒会副会長している。俺と違って頭滅茶滅茶良いよ。本当なら進学校に行くのが良いんだろうけど、遠いから通学が大変だって理由でここに決めたらしい」

「ふうん。そうか」


「ところで渡辺さんは、何でこの高校に?」

「山神君とそんなに理由は違わない。頭がこの高校のレベルなのとこの辺では一番まともな陸上部があるからかな」

「そうなんだ。陸上はずっと?」

「うん、中学一年から。その所為か知らないけど身長も高一で百七十五センチよ。もう伸びないで欲しいよ」


「でも、渡辺さん、綺麗だし、スタイル良いし。とても素敵じゃないか」

「なんかすごく嬉しい事をサラって言ってくれるのね。山神君って、たらし?」

「まさか、この容姿でたらしは出来ないよ」

「こりゃあ結構無自覚かも」

「はは、渡辺さんも嬉しい事言ってくれるね」


 渡辺さんは割り箸を焼きそばの入れ物の上に置くと俺の顔をじっと見て

「ねえ山神君、私と友達になってくれない。さっきも言ったけど友達少ないというかいないんだ」

「渡辺さん程の人がいないとは信じられないけど、俺で良かったら友達になろうか」

「わあ、やったあ。じゃあ早速連絡先交換しよ」


 交換が終わると

「ねえ、夜とかメールしちゃ駄目?」

「なんで駄目なの。全然構わないけど」

「ほんと!嬉しい」

 ふふっ、初めて異性の友達が出来た。この子思い切り真面目そうだし、嘘つけなさそうだから。もっと知りたいな。


 渡辺さんと昼食を摂りながら話していると何ともう午後一時になっていた。

「わあ、随分話しちゃったね。ねえ体育館行ってみない。午後の部始まるんじゃないかな」

「いいよ」




 飲食スペースの傍にある分別ごみのボックスに食べ終わった容器を捨てると二人で体育館に向かった。


 歩いていると

「渡辺さん」

「あっ、小林先輩こんにちわ」

 小林先輩という人が俺の方をチラッと見ると


「彼は?」

「山神君、同じクラスの友達です」

「そうか友達か。今からどこか行くの?」

「はい、体育館に」

「そうか、じゃまして悪かったな山神君。それじゃあまた」


 ちょっと怖い目で見られたような?



「ごめんね山神君。機嫌悪くした。小林先輩悪い人じゃないと思うんだけど。部活で良く面倒見てくれるし」

「いや何も感じなかったけど」

 本当は何か嫉妬か妬まれた様な?



 体育館に行くと軽音部の演奏が始まる所だった。俺には音楽は全く縁がないがとても耳心地の良い演奏で、クラシックの他、有名なアニメや映画のテーマ曲等も入れて有り、最後まで聞く事が出来た。


「とても上手かったね、聞いて良かったよお。でも結構疲れた。後一時間と少しで四班の当番だから私教室に戻る。山神君は?」

「ああ、俺も教室に戻るよ」


 二人で教室に戻ると梨音が一人で席に座っていた。誰もいない。俺の知った事かと思っているのに、なんで梨音を気にしているんだ俺は!


「神崎さん、昼食は取ったの?」

「あっ、渡辺さん。うん出店の食事を一人で」

「一人で!」

 驚いたのは渡辺さんの方だった。


「教室それ以外出ていないの?」

「だって、誰も知らないし。あまり学校の中も分からないし」

「…………」

 何でだよ。お前ほどの容姿が有れば誰だって一緒に回ってくれるだろうに。


 渡辺さんが俺の顔をじっと見ている。まさか…。



「山神君…。彼女実行員副担当だよね。二人に口出すのは良くなさそうだけど、同じクラスだし、彼女転校生だし。だから…」

「渡辺さん、こいつは俺を…」

「柚希!」

 祈る様な目で俺を見て来やがった。そんな目なんでするんだよ。



「…梨音、行くぞ」

「はい!」

 何で断んないんだよ。でも渡辺さんからあんないい方されたら。まあいい今回だけにしておくか。


「あっ、午後三時までには出店に集合よ、神崎さん」

「はい」



 私、神崎梨音。柚希と渡辺さんがどういう関係か知らないけど彼女のお陰で柚希と一緒に校内を見て回る事が出来る様になった。


 三年生の階を見て回って、体育館のユニットの演奏を聞いたらあっという間に午後三時近くになってしまった。

「柚希、ありがとう。出店の担当時間だからもう行くね」

「ああ、俺も行くよ。気になる事もあるし」



 二人で行くと亮が目を大きくして驚いていたが、昨日俺に声を掛けた武田が

「山神、午後二時までに売り切れてしまったよ。四班の仕事は無くなってしまった。この通り皆で休んでいた所だ」

 やっぱりか。


「じゃあ、五班の人達はまだ来ないだろうから、四班の人片付け手伝ってくれ。流石に俺一人じゃ出来ないから」


「山神、お前一人に任せる奴なんかいないよ。みんな片付けようぜ」

「「おおーっ!」」

 どうも武田はリーダの素養があるらしい。人数が多い分片付けは簡単に終わった。



 俺と梨音で昨日と今日の売り上げ、それから肉屋とスーパーへの支払い金額と生徒会からの割当て分を計算して生徒会室に持って行った。もちろん俺一人でだ。


 生徒会室に行くと姉ちゃんが寄って来た。

「早いわね、もう終わったの?」

「うん、午後二時で完売だ。これ収支報告」

「うわーっ、凄い金額。午後五時までに他のクラスからの報告もあると思うけど、結構いい線行くわよ」

「いい線って?」

「売上No1になるかよ。まあ表彰される訳じゃないけど自慢にはなるわ。午後五時過ぎにもう一度来て」

「分かった」



 再度五時過ぎに行ったけど残念ながら二番だった。一番は姉ちゃんと上坂先輩のいる2Aだ。まあメイド喫茶には敵わないよな。でも祥子先生が大喜びしていたけど。ところで売り上げから経費と生徒会からの割当て分を引いた金額結構あるんだけどどうするんだろう?


 ちなみに後夜祭とか言う奴は火災防止の為禁止されているらしい。まあ山の上に有る学校だから火の粉飛んだら山も校舎も燃えて無くなりそうだけど。


 この日は亮と詩織と一緒に帰った。お疲れ様会は別の日に行うみたいだ。梨音が後ろに付いてくるけど、今日顔色が良いのはさっき一時間近く一緒に回った所為だろうか?


 亮と駅で別れ詩織と一緒に改札を通る。いつものホームで電車を待つと一ドア離れて梨音が立っていた。あいつ。


 電車がホームに入り乗り込み詩織と一緒に吊革に摑まると梨音はドアと座席の区切りのバーの傍でこっちを見ている。


そして降車する時、俺の方を向いてニコッと笑って手をヒラヒラさせながら降りて行った。


はっとした、あの笑顔あの時見た笑顔だ。俺に別れを告げた時の…。

「詩織ごめん」


 ギリギリで電車を降りると梨音を追って改札に向かった。


 彼女が改札を出て通りに出ようとしたところで

「梨音!」


 彼女がこちらを向いた。そして

「柚希?どうしたの?」

「…………」


 改札を出て彼女の足の向くままに歩いた。駅の近くの大きなマンションの前まで来ると俺の顔をじっと見て

「柚希来る?」

 

 俺は何も言わずに頷いた。


―――――


 さて柚希と梨音、これ進展?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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