第8話 中喜多祭 初日


 俺山神柚希、中喜多祭が始まった。ぎりぎりまで具材の調達とか班内の役割とかでもめた所も有ったが、何とか開始に間に合った。


 揉めた理由は焼きそばを作った事が一人もいない班が有ったことだ。人参は切った事ない、生肉なんか触った事が無い、もやしはどうするのとか言い始めた。


 一班七人、女子が三人か四人いるが、何と全滅の班が有った。仕方なく男子を含め調理をした事が複数いる班とメンバトレードして事なきを得たが少し驚いた。どれほどのお育ちかと思ってしまう。


 開始の午前九時に生徒会長からの挨拶があり開始された。初日である土曜日午前中は大体生徒だけだからあまり出足は良くない。


 俺は、片付け班だから午後四時半位までは何もする事がない。亮と詩織は四班だから最後の担当だ。それまで詩織は友人と回るらしい。


 俺が一度出店の方を見て上手く開始出来た事を確認すると教室に戻った。皆一年だから色々と回っているんだろう。


一人しかいない静かな教室、本を読むには最適だ。バッグから小説を取出して読もうとしたところへ梨音が入って来た。


「柚希」

 俺はチラッと彼女を見ると


「何?」


「私と学校見て回れない?まだ学校の事よく分からないし」

「他の人と回れば良いだろう。俺に声を掛けないでくれ」

「ごめんなさい。柚希本当にあなただけなの。新しい彼氏なんて嘘。どうしても自分の心を割り切らせたくて、信じてお願い」


「…どう信じればいいんだ。信じる根拠が無いよ。あれほど連絡を取ろうとしても連絡先はブロックされるし、家に行っても会ってもくれなかった。

そして何も言わないままにお前は渡米した。新しい彼氏とな。これだけの事を全て嘘だと言われて信じられる人間がいるか」


「ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 俺の席の傍に立って思い切り頭を下げて謝っている。


 俺はまだこの時は、梨音は新しく出来た彼氏と向こうで上手く行かなくて帰って来たのだ位にしか思っていなかった。そして何も知らない俺ならもう一度元鞘に戻れるだろうと考えていると思っていた。



「柚希ここに居たのか。探したぞ」

 教室に入って来たのは亮だ。


「亮どうした?」

「一緒に回ろうぜ。上坂先輩の所も行ってみようよ」

 上坂先輩の所はちょっと引っ掛かったが、

「ああ、いいぜ。行こう」


 バッグに本を仕舞い直ぐに亮の所へ行った。



 どうすれば信じてくれるの柚希…。



「早速2Aに行こうぜ。あそこは喫茶しているらしいから、もしかしたら上坂先輩が客対応しているかもしれない」

「そ、そうだな」

「柚希の事情は分かるが、校内じゃ何もしないんだろう。良いじゃないか」

「あ、ああそうだな」


 思い切り嫌なんだけど。



 私、神崎梨音。柚希が松本君と出て行ってしまった。まだ全然信用されていない。でも前より少しだけ話をしてくれている。まだ大丈夫。少しずつ一つ一つ誤解を解いて行けば。

 最初は新しい彼氏は嘘だったという事を証明すれば。でもどうやって?




 二年生は二階に教室がある。中央の階段を登り右に曲がってすぐだ。登り切ったところで

「うわっ、凄い待ち行列だな。皆か上坂先輩目当てかな?」

「さあ、どうだろ。せっかく来たんだとにかく並ぼうぜ」

「そうだな」


 俺は出来れば彼女が居ない事を望みたいが。

やっと俺達の番になった。受付を済ませて中に入ると


「おおう」

 亮が唸っている。そう先輩達は、な、なんとメイド服に身を包み。俺達を待っていたのだ。


「お二人ですか。どうぞこちらに」

 ふんわりボブカットの可愛い先輩が応対してくれた。胸がチラッと見え、それだけでも強烈なのにウサギ耳に可愛いし、足は網タイツと強烈な格好だ。亮が口を開けてフリーズしている。


「お客様、ご注文は?」

「亮、現世に戻れ」

 彼は頭を左右にブルブルと揺らすと目をハートにしながら

「お勧めお願いします」

 メニューも見ないで言っている。だめだこいつ。


「俺はモンブランと紅茶をお願いします」

「賜りました。少しお待ちください」


「柚希見たか。俺始めて見た。凄いなあ。俺もあんな彼女欲しい」

 だから目がハートだったのか。


「あはは、そうだな」

「柚希、余裕だな。まあお前は上坂先輩が…モガモガ」

 俺は急いでこいつの口を塞ぐと


「ばか、こんな所でなんて事を言うんだ」

「いやでも…」

 今度は目が点になった。俺の後ろを見ている。



 いきなり俺の肩に手が置かれた。

「あら、柚希来てくれたの嬉しいわ」


 直ぐに振り向くとそこにはメイド服…ではなく制服を着た上坂先輩が立っていた。

「上坂先輩。名前は禁止ですよ」

「ふふっ、いいじゃない。ねえ、今日午後から一緒に回れない?」

「駄目です。忙しいんです」

「柚希お前午後四時半まで…モガモガ」

 また亮の口を塞いで


「上坂先輩。お誘いありがとうございます。でも忙しいので」

「そう、分かったわ。残念ね」


 上坂先輩は少し残念そうな顔をすると急に俺の耳元に小声で

「柚希明後日学祭の代休よ。開けといてね」

「…分かりました」

 約束している休日は会うと。しかしまさかこんな所で言われるとは。


「じゃあねえ柚希。楽しいんでね」


 胸が恋心でドキドキなら良いが、どれだけの生徒に今の会話聞かれたかと思うとぞっとして周りを見たが無反応だ良かった。まだ胸がドキドキしている。


 

2Aで少しお腹に入れた後、どうせなので同じ階にある二年生の教室内の展示も見て回った。お化け屋敷や鉄道模型の実演展示、執事喫茶も有ったがこちらは遠慮しておいた。


結局学祭初日の今日は、亮と一緒に回り、昼をクラスの焼きそばと別クラスのたこ焼き店でお腹を満たした。そして亮は午後三時前に自分の班になるからとクラスの出店に行った。梨音も同じ班だ教室にはいない。


俺は教室に戻って本を読みながら時間を潰し、午後四時半頃に行くと梨音が売り子で客対応している。まだ結構並んでいた。


 亮の傍に行くと

「流石神崎さんだな。見た目だけ取ればこの学校でも一、二を争う容姿だからな。彼女が売り子になった途端にこの行列が出来た。大したものだ」

 そんな事を言っている。まあそうだろうな。だが俺はこの女を信用出来ない。


 午後五時十分前に学祭一日目の終了連絡が生徒会長から放送されると流石に人は引いて行った。



 片付けをしながら最後の班のリーダ、確か武田信之(たけだのぶゆき)という名前の男子が

「山神、今日だけで予定していた具材の三分の二が売れたよ。でも明日は外部の人間も来るから今日より出るぞ、どうする?」

「そうだな。明日余っても仕方ないが、午前中に終わってもしょうがない。三分の一だけ発注しておいてくれないか」

「分かった。スーパーと肉屋に言っておく」

「悪いな」

「山神お前結構リーダ務まるぜ。頼りにしている」

 そう言って武田はスマホを取出して連絡を始めた。


 帰りは、片付けで少し遅くなったが、亮とは駅まで一緒に帰った。後ろには梨音がいるけど。


―――――


 柚希中々大変そうです。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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