第7話 中喜多祭は目の前です


 生徒会の中喜多祭実行委員の集まりに参加した。立場上梨音も一緒だ。はっきり言って嫌でしょうがない。

 側にいるだけでも嫌なのにこの女と一緒にこれから学祭が終わるまでやって行かなければならないなんて最悪だ。


 生徒会室に入ると案の定、姉ちゃんが俺の側に来て

「神崎さん、あなたはこのミーティングに出席する必要ないわ。柚希が居れば十分よ。会議内容は後で聞いて。もう始まるから出て行って」


 梨音が泣きそうな顔で生徒会室を出て行った。良く見れば各クラスともほとんどが一人で参加だ。むしろ俺達がおかしかったのか。


 一時間近いミーティングの後、教室にバッグを取りに戻ると…、梨音が待っていた。他に誰もいない。

 目には涙を溜めている。泣いてはいないけど今にも泣きだしそうな顔だ。


「まだいたのか、先に帰れば良かったのに」

「…一緒に帰りたい」

「勝手にしろ、俺は帰る」


 俺が教室を出ると梨音も急いでバッグを持って立ち上がった。本当は生徒会で話した事を伝えないといけないのだろうが、こんな顔じゃ聞く事も出来ないだろう。明日で良い。



 下駄箱で履き替えて勝手に校舎を出ると運動部の部活はまだやっていた。陽もまだ長い時期だ。


 陸上部も練習をしている。何気に渡辺さんを探してしまった。スタートの練習をしているんだろうか。走り終わった先からスタートラインに歩いてくる所だ。


 こう言っては何だが、本当にスタイルが良い、あれで胸がもう少しあればモデルが出来そうだ。

 あっ、こっちに手を振っている。周りを見ても俺しかいない。じゃあと思って俺も手を振るとピョンピョン跳ねていた。面白い人だ。


 そのまま坂を下って校門の方へ歩いて行くと後ろで梨音の靴音も聞こえる。ウザくなって来た。

 俺が走り始めると

「柚希待って」


 えっ、梨音の声じゃない。振り向くと梨音と並ぶようにして上坂先輩がいた。


「上坂先輩」

「柚希、酷いじゃない。私を置いて走り去ろうなんて」

「いや、そういう訳じゃ…」


 先輩はチラッと梨音の方を見るとさっと俺の所に寄って来て腕を掴んだ。

「柚希、一緒に帰ろ」

「先輩、ここはまだ学校の中です。こういう事しない約束でしょ」

「だって誰もいないから良いじゃない」

「駄目です」


 先輩の腕の中から強引に俺の腕を抜いた。

「いいじゃない、ケチ」


 ケチって何言ってんだ。この人。仕方なく

「帰りますよ」

「うん!」


 梨音が後ろにいるのは分かったが関係ない事だ。途中、喜多神社に寄ろうと思ったが今の状況ではあまり好ましくない。先輩もそれを知ってか二人で喜多神社の前を通り過ぎた。


 話していて分かった事だが先輩は学校の有る駅から俺とは反対方向に二つ先の駅らしい。


駅に着くと先輩は

「柚希、また明日」

「はい、上坂先輩」

「ぶーっ」

 と言いつつ笑いながら手を振って別のホームに行った。


改札を入ってホームで電車を待っていると

「柚希、上坂先輩と仲が良いのね。付き合っているの?」

「お前には関係ない事だ」

「柚希お願い。説明させて」

「もう説明は聞いた。信じられないだけだ」



 柚希は私から離れて別のドアから電車に乗った。そして私は二つ先の駅で電車を降りてマンションに戻った。

「ただいま」


 誰もいない部屋に挨拶をして中に入る。まだ転入してそれほど経っていないのに凄く疲れた。もっと簡単に柚希と元に戻れると思った。でも全然駄目。


 私の言っている事が信じて貰えない。…あの時、柚希の家に住まわせて貰う位のつもりで両親を説得していればこんな事にはならなかった。あんな嘘をつかずに正直に自分の気持ちを言っていればこんな事にならなかった。

 

 このままでは日本戻って来た意味がない。何とかしないと。





 私、上坂瞳。生徒会の中喜多祭実行委員の集まりで山神さん(柚希の姉)が言った言葉は驚いたけど間違った事を言った訳でない。あの集まりは主担当が一人出席すればいいことになっている。


 多分知らないで二人で来たんだと思うけど。ちょっと言い方がきつかったな。でも神崎さんの事を考えればああいう言い方になるのは仕方ないかもしれない。まあ公私混同だけどね。


 集まりが解散になった後、私は急いで教室に戻った。そしてスクールバッグを持つと急いで校舎を出た。


 案の定、柚希は坂に向っている途中だ。だから私は少し駆け足で彼を追った。後ろに神崎さんが歩いているのが分かったので、意図的に柚希の腕に抱き着いて仲が良い事を彼女にアピールした。


 あの子は綺麗だ。そして柚希は優しい、いずれ彼女を許す時が来るだろう。それが嫌だった。まだ柚希には暴漢から助けて貰った恩人という気持ちそしてそのお礼を返したいという気持ちだけど。


 何故か神崎さんを見ると嫌な感じがした。だから今の内にそういう芽は潰しておかなければいけない。私の心がそう言っている。個人的には彼女になんの恨みも無いんだけど。




 俺山神柚希。中喜多祭も後数日に迫った。お肉や野菜、そして肝心の焼きそばのそばは、クラスの中でなんと肉屋やスーパーの子供がいたので簡単に話がついた。一応挨拶に行くと、仕入れ原価と手間賃だけで出してあげるから頑張んなと言ってくれた。嬉しい限りだ。


 そして班分けだ。クラスは三十五人。一班七人。内訳は販売二人、焼き二人、具材仕込み二人そして仕出し一人を二時間内でローテンションする。


 教室内は五列七席なので班分けは列毎に簡単に決まった。誰々と一緒にしたいという奴もいたがそんな事聞いていたら収集が付かなくなる。それを多数決で乗り切った。


 でも問題が出た。開催が午前九時から午後五時まで。だから一日四班で二日で八班が必要になる。当然、二日で十班あるので仕方なく、最後の班つまり俺達は日ごとの片付け係に回された。

 俺は嬉しいが、文句を言う奴もいた。だからそういう奴は他の班の応援に行っていいけど片付けはするという事になった


 四班梨音のいる班への応援が多くなったが、それは勝手にして貰おう。


 そして中喜多祭が開催された。


―――――


 梨音、どうするのかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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