第3話 偶然の再会
私、上坂瞳。この高校入って以来、近くに有る喜多神社には、なるべくお参りするようにしていた。お参りする理由は特にない。ただ心が安らぐからだ。あの事件が起こるまでは。
あれから夏休みも過ぎ、手掛かりもないまま三ヶ月が過ぎてしまった。このまま喜多神社にお参りしないままでは良くないと思い、トラウマを解消する為にも友人の高坂綾乃と一緒に参拝する事にした。
「瞳、良く決断したわね。そうそうトラウマは解消出来ないものよ」
「いつまでも過去の事にこだわっていても仕方ない。それにここにお参りすればもしかしたら彼を見つける事が出来るかもしれないから」
「あはは、そんなテレビドラマみたいな事はそうそう起きないでしょ。まあいいわ私も一緒に行ってあげる。二人なら万一有ってもどうにかなるから」
「そうだと良いんだけど」
学校の帰り、少し不安を感じながら神社の階段を登り、境内に着くと男の子が二人お参りをしていた。他にも数人いる。仕方なく彼らが終わるのを待っていると終わったのか、顔を上げてこちらを向いた。
「えっ!」
「あっ!」
多分間違いない。でも他に人もいる。彼の胸には1Bのクラス徽章が付けられている。お互いに視線を交わしたが、他にも人がいたので、特に何を話すまでもなく彼らは階段を降りて行った。
「どうしたの瞳?」
「後で話す」
俺は、二学期に入ってからまた喜多神社へのお参りを再開した。特に信心深い訳ではないが、ここに来ると何故か心が落ち着く。今日は亮も一緒に来てくれるという事で二人で行く事にした。
「柚希、三ヶ月も経ったけど結局助けた人見つからなかったな」
「ああ、もう諦める事にしたよ。別に礼を言って欲しい訳じゃないけど、あれほどの怪我をしたんだから助けた人が誰なのか位知りたかったんだけどな」
「それは俺も同感だ。でも縁が無かったんだろう」
「そうだな」
俺達は話しながら神社の階段を登り境内に着くと何人かお参りする人がいた。やはりこの喜多神社はこの辺の守り神なんだなとつくづく思う。俺達の番が来た。
きちんと境内の前で仕来りに乗っ取って参拝を済ませて次の人に譲ろうと後ろを向いて脇に退いた時だった。
「えっ!」
「あっ!」
間違いない。あの時の人(女の子)だ。お互いに視線を交わしたが話す事はしなかった。ただ胸に2Aの徽章が付けられていた。
「なあ、今の上坂先輩じゃないか?」
「うーん良く分からないけど」
「あの人達もここに参拝に来るんだ。俺も通うかな」
「なんで?」
「だって、上坂先輩に会えるかも知れないから」
「動機が不純だ。神社はそんなところじゃないぞ」
「じゃあ柚希はなんで来るんだ」
「俺は、ここに来ると気持ちが凄く穏やかになるんだ。だから気が有る時だけ来るようにしている」
「そうか。じゃあ俺は止めとくか。そんな気分ならないし」
私は家に帰ってから彼の事を思い出していた。身長は私とほとんど変わらない多分百七十センチ位。容姿は髪の毛が短めという以外は特に目立つ子では無かった。もっともしっかり見た訳ではないが。
どちらにしろ、朝一番で1Bに行ってみよう。
翌朝、俺は詩織と亮と一緒にいつもの様に登校した。最近話すようになった俺の席の後ろに座る渡辺静香さんと挨拶を交わした後、いつもの様に亮と話していると入り口を皆が見ている事に気が付いた。俺もそちらを振り向くと
「あっ!」
「あっ、居た」
突然上坂先輩が教室に入って来た。
「ねえ、ちょっと良いかな」
全員の注目の的だ。でも断れない。
「いいですよ」
上坂先輩に連れられて階段の踊り場の下に来ると
「君だよね。私を助けてくれたの。名前なんて言うの?」
「いきなりなんですか?」
「だからぁ、五月も終わりの時、喜多神社の裏で暴漢三人に襲われそうになった私を助けてくれたでしょ。いきなり私を殴ろうとした男に体ごとぶつかって」
「えっ、じゃああの時の女の人って…」
その時予鈴が鳴った。
「名前教えて。私は上坂瞳」
「山神柚希です」
「じゃあ、昼休みもう一度来るから、待っていて。じゃあね」
先輩は怒涛のようにやって来てあっという間に戻って行った。
「なんなんだ」
俺は急いで教室に戻ると担任の祥子先生が直ぐに入って来た。おかげで皆から色々聞かれずに済んだ。…のだが。
授業が終わる休み毎にクラスメイトが男女に関わらず色々聞いて来た。何とか亮が押し返してくれていたが、
「柚希、一瞬で有名人だな。これから大変だぞ。でもお前が助けたのがあの先輩とはな」
「俺は何も言っていない」
「柚希何年お前と付き合っていると思ってんだ」
俺は小声で
「頼むから他の人に言わないでくれ」
「分かっているけど。詳しい事は後で教えろよ」
「…分かった」
そして昼休み、四時限目の授業が終わり、亮と昼を食べに教室を出ようとしたところで
「山神君、私と来て」
「えっ?!」
「えっ、じゃないでしょ。約束したじゃない」
俺は亮の方を向くとあっ、もうあいつ何処にもいなかった。俺はクラスメイトの視線を一斉に浴びながら上坂先輩に手を引かれて裏庭の花壇のあるベンチに連れて来られた。これがまた廊下で注目を浴びる事になってしまったのだが。
「山神君、少し強引でごめんなさい」
「いえ」
「でも私どうしても君を見つけたくて。一生懸命探したんだけど三ヶ月経っても見つからなくて。私の気持ちが消化しきれなくて。だから…」
「先輩落着いて下さい。ゆっくり聞きますから」
「ごめんなさい。とにかく私を暴漢から助けてくれてありがとう。本当にありがとう。もし君が現れなかったと思うとぞっとする。どうやってお礼すればいいか分からない。何でも言って。君の願い叶えるから」
「じゃあ、一つだけ。学校内で俺に目立つことは止めて下さい。俺は自分が誰を助けたのかは知りたかったですけど、お礼をして貰うとかそういう気持ちは全くありませんから」
「そんな…」
私は最悪の事まで考えたけど受け入れるつもりでいた。それだけの価値が有る事をこの子はしてくれたから。それを何もいらないと言っている。
「じゃあ、せめて友達になってくれない。毎日お弁当も作ってくる。一緒に食べよ」
「だから…。もうその気持ちで十分ですから。俺に構わないで下さい」
「嫌だ」
「えっ?」
「嫌だ。山神君に何もお礼出来ないなんて、絶対に嫌だ」
「…………」
「お願い、友達で良いから」
「…分かりました」
「じゃあ、早速連絡先交換しよう」
この学校は授業中にスマホを使わない限り持ち込みは自由だ。
「これで良し。じゃあ明日から一緒にお昼食べよ」
「駄目です。俺みたいな普通人が先輩みたいな有名人と一緒にいたら俺の高校生活が終わってしまいます。学校内では話しかけないで下さい」
「じゃあ、どうすれば会えるの?」
「休みの日とか」
「そうか、分かった。じゃあ学校の帰りとか、休みの日に会う様にしようか。うんそれがいい」
「あっ、二人共ご飯食べて無いよね。これ半分こしよう。いまから学食や購買に行っても遅いだろうから」
いつの間にか先輩の手には可愛いお弁当の包みが握られていた。
「いえ、いいです。一食位抜いても大丈夫です」
「そんな…分かったわじゃあ今日の放課後ご馳走する」
「それも結構です」
予鈴が鳴った。
「先輩教室に戻りましょうか」
「…………」
ちょっと下を向いて寂しそうな顔をしている。結構可愛い。仕方なく
「じゃあ、放課後、駅の〇ックで待ち合わせましょうか」
「うん!」
それから午後の授業は俺のお腹の虫が結構賑やかで後ろの渡辺さんに随分笑われてしまった。
―――――
いよいよ始まりますかね。柚希と瞳のイチャラブが…、まだ早いか。
次回をお楽しみに
二日に一回の更新になります。なっていますですね。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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