第2話 気が付かない
私、上坂瞳(かみさかひとみ)。学校の帰り、喜多神社にお参りしてから帰ろうと思って階段を上がって境内に入ったら、後ろからガラの悪そうな男の人三人が付いて来た。
お参りしようと思っていたけど、不味そうな雰囲気だったので、その人達を避けて階段を降りようとした所で腕を掴まれた。
掴まれた腕を解こうとしたけど、全然力が違って…。大きな声で叫んだけど誰も来なくて必死に抵抗したけど境内の裏に連れて行かれた。
目的は直ぐに分かった。彼氏も出来た事のない私がこんな奴らに襲われる訳には行かないと必死に抵抗した時、あの子が現れた。
あの子あの後どうなったのかな。怖くて逃げて来ちゃったけど…。うちの学校の制服着ていた。どこかで会えればいいんだけど…。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「また、助けて貰った子の事考えているの?」
「うん、せめて会ってお礼は言いたい。何とか見つからないかな」
「でも、身長が瞳と同じ位しか分からないんじゃねえ」
私と話しているのは中学からの友人高坂綾乃(こうさかあやの)。特に目立つ子では無いが、お互いに一緒に遊んだり相談したりする仲の良い友達だ。
「少なくても二年には居ないわね。いれば必ず噂が流れてくるから。それに三年生でもないわね。瞳の話を聞く限りあなたを助けたのなら直ぐに名乗りを上げるはずだから。そうすると一年生ね。でも知合いいないなあ」
「ありがとう、毎日学食とか行ってみれば手掛かりを掴めるかもしれない」
「まあ、そうだね。でも瞳も私もお弁当でしょ」
「うん、だから自販機だけ利用しに行く」
「そんなところだね」
病院を退院して学校に登校してから一週間が経った。
俺の通う高校は、家のある駅から五つ目の駅にある。駅から歩いて十五分。実際は校門の所までは十分だが、そこから校舎やグラウンドのある所まで坂道を五分程歩くからだ。
しかし、なんでこんな所に高校作ったんだ。俺は今の体だとしんどい。頭の包帯も取れて顔にガーゼがあるが、腕は長袖シャツと上着があるので分からない。
無理せず詩織とのんびり歩いてると後ろから声を掛けられた。
「おはよ柚希」
「おう、おはよ亮」
「どうだ傷の治りは?」
「まあ、そこそこだ。先生は順調に治っていると言ってくれている」
「そうか、でもその体じゃまだ体育は出来ないな」
「そうだな。来週からかな」
三人で話している内に下駄箱に着いた。上履きに履き替えてから教室に行き、自分の席に座る。
俺の席は出席番号順のお陰で窓側後ろから二番目だ。後ろは渡辺静香(わたなべしずか)という俺より背の高い女の子が座っているが、あまり話した事もない。
「山神君おはよ」
俺は後ろを振り向いて
「えっ?」
「何驚いているの。朝の挨拶しただけでしょ」
「あ、ああ。渡辺さんおはようございます」
「ぷっ、山神君なんで敬語なの?同じクラスだよ」
「い、いや。初めて声掛けられたんでちょっと…」
後ろから掛けられた女の子。ほとんど顔も見ていなかったけど、良く見れば黒い綺麗な髪が肩まで伸びて大きな目と可愛い唇をしている。胸は控えめだけど。
「何見ているの?」
「いつも後ろだったし、話したのも初めてだから、つい。ごめん」
話をしている内に予鈴が鳴って担任の先生が入って来た。長崎祥子(ながさきしょうこ)先生。1Bの担任だ。肩まである髪の毛。顔は丸くて目がぱっちりしている。胸はまあ惜しい感じで背も高くない小動物系の可愛い先生。みんなから祥子先生と呼ばれている。
「はい、みんな席に着いて。出席取るわよ」
祥子先生が出席を取り終わると
「山神君は四限目の体育は見学ね。今週いっぱいは無理しない様に」
それだけ言うと教室を出て行った。変に目立つ発言はしないで先生。
三限目が終わると、みんな体育着に着替えるが俺は着替えないので、そのまま下駄箱で履き替えてグラウンドに出ようとすると、すっと前を髪の毛が腰の近くまである女子が歩いて行った。
あれっ、似ている。でも髪の毛が長い女子なんて一杯いるし。俺は着替えて教室から出て来た亮達と一緒にグラウンドに出た。
授業はもうすぐ開催される体育祭の準備がほとんどだ。何気なく見ていると女子の中でひときわ目立つ背の高い女の子渡辺静香さんが、スタートラインに着いた。スタートの練習だろう。
体育の先生の笛の合図と共に勢いよく抜け出した。綺麗なスタートだ。三十メートル位で走りを止めるが、身長と相まって、本当に綺麗に見える。もっと早く気付けば良かったかな。
女子のスタート練習を見ていると亮がやって来た。
「柚希、何処見ているんだ。女子の練習ばかり見て、結構いやらしいな」
「なにを言っているんだ。俺は健全な高校男子としての正しい行動をしているだけだ」
「良く分からんこと言って。そうだ先生がちょっと手伝ってくれって言われたから呼びに来た」
「それ早く言え」
残念ながら俺の男子高校生としての健全な行動はそこで終わってしまった。
体育の授業も終わり昼休みになり、
「柚希、学食一緒に行くか」
「おう」
この学校の学食は結構うまい。購買の菓子パンも良いが、唐揚げ丼は唐揚げも大きくて味も中々美味い。二人で同じものを頼んで、四人座りのテーブルに向い合せに座った。
亮と遊びの話をしながら昼食を摂っていると入り口が騒がしくなった。振り向くと綺麗な女子生徒が入って来た。友達と二人だ。
「上坂先輩綺麗だな」
「上坂と言うのかあの人は」
俺は入口が背中方向なのであまり見えない。
「お前、上坂先輩を知らないのか校内では有名な人だぞ。
ところでさあ気の所為かも知れないが上坂先輩って、この前柚希が助けた人に似てないか?」
「まさか、気の所為だろう」
チラッと後ろを見たが、もう居なかった。
私上坂瞳。友達と一緒に学食の自販機にジュースを買いに来た。でも目的はもう一つ。私を助けてくれた男の子がここに来ていないか探す為だ。だけど二百人以上が入る学食で一人の男の子を見つけるなんて無理だろうけど、とにかく見つけてお礼を言わない事には気が収まらない。あの後どうだったかも分からない。
「瞳居そう?」
「分からない。少ししか見ていないし。でも身長は私と同じ位だった気がする」
「特徴とか覚えていない?」
「顔を見れば分かると思うんだけど一瞬だったし、気も焦っていたから」
「それじゃあ厳しいわね」
「毎日来れば見つかるかも」
「彼がお弁当だったら駄目だけどね。まあ地道に探すしかないわね」
私が襲われた事は綾乃にしか言っていない。両親にも話していない。下手に話したら心配を掛けるだけだから。
俺達は学食で昼食を食べ終わると教室に戻った。幼馴染の詩織が友達とお昼を食べながら賑やかに話している。
「柚希、ちょっと俺用事が有るから」
「そうか」
亮が教室を出て行った。俺は席に戻って六月も近くなった青い空を見ていた。空を見るとつい思い出してしまう。いきなり俺の前から消えた元カノの事を。
…梨音(りおん)どうしているのかな。振られてあんなに苦しんだのにまだ未練が残っているのかな。
「どうしたの山神君?なんか遠くを見て?」
「えっ、あっ渡辺さん」
「私の質問に答えてない」
「あ、ああ。ちょっと前の事思い出していたんだ」
「ふーん。そうなんだ」
私渡辺静香。この高校に入学して以来、あまり女子生徒の友達は出来ていない。作らない訳では無いのだけど、放課後は部活の陸上に直ぐに行くし、そのおかげで遊びとかは付き合っていない。身長も百七十五センチもあり取っ付き難いのかも知れない。
そんな私の前に座る山神柚希君、最初は全く興味も無かった。だから話もしなかったけど、二週間前突然登校しなくなった。流石に前に座るクラスメイトなので気にしたが、聞くとこの学校の女子生徒を助けたらしい。それも男三人を相手に。それで興味を持ってしまった。どんな子のかと。
登校しなくなってから五日目に登校して来た山神君は、とても喧嘩をするような子には見えなかった。良く聞くと喧嘩もした事無いのに男三人に立ち向かい一方的にやられたようだ。人間そんな事簡単に出来る訳は無い。私は少なからず彼に興味を抱いてしまった。
―――――
まだ山神柚希と上坂瞳の出会いは遠そうです。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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