第3話「愛」

 私はただ好きなだけなのに……。


 私はレンが好き。昔からの幼馴染で、誰にでも優しく、時折見せるクシャッとした無邪気な笑顔に心奪われた。


 でも、数年前からこの街に来た従兄妹いとこの「空」とかいう女。あの女が来てからレンは私のことを見てくれなくなった。


 だから私はアイツを殺した。


 そしてレンに全てを打ち明けた。レンをそそのかしたゴミ女を殺したこと。これで私たちは結ばれること。


 でもレンは答えてくれなかった。


 何か不機嫌そうな顔をして私に近寄って……、あれ? 私に近寄ってなんだっけ?


 まあとにかく、あの女がいなくなったんだ。これから私のことを見てもらえばいい──。


「空! 逃げて!!」

「え!? 七海!?」

「いいから逃げて!!」


 なにが起きているのか分からなかった私は、七海に言われるがまま逃げた。とにかく走った。


 怖かった。あんな怖い表情をした恵と七海は初めて見た。でもなんで? 七海は死んだはず……。


「はぁ……はぁ……」


 宛もない私は家に逃げた。どうしようどうしようどうしよう………。

 バカな私には理解できない。部屋に閉じこもって身を隠すしかない。


「おーい、空?」

 

 この声はレンだ! クローゼットの中に隠れていた私はすぐに飛び出した。が───。


「空! 逃げなさい!!」

「コイツに近づいちゃダメ!」


「ぐぅ……がッ……」

 

 突然、知らない女の人がレンの後ろから現れ、ガッとレンの首を締め上げる。


 レンが苦しそうだよやめて! やめてよ!


 無我夢中で私はその人を押しのけた。


 私はレンを助けるために、その人の首を同じように握り締める。


 すると、その人は私の頬を弱々しい力で触れながら、小さな声で呟いた。


「ごめんね……守ってあげられなくて……」


 その直後、確かにそこにいたはずの人は、霧のように散って姿を消した──。


 あれ……? あれ……?


 大事な物が欠けていた。

 いつも不思議に思っていた。


 幼少期の記憶があやふやで、絶対に無くしちゃいけない宝物を失ったような感覚。


 あの人は──────


「……お母さん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る