第4話「母」

 お母さんがなんで……?


 いや、そんなことよりも空は……!?


「……すぅ……すぅ……」


 良かった……生きてた。


 私は死んだ。でもこの世にとどまった。


 本来ならばこんな異常事態、あわてて戸惑うものなんだろうけど、私にとって重要な事は決まっていた。


 この子が幸せになるまで、ココにいよう。


 空は夫の親戚に引き取られた。私もよくお世話になった人達だ。これなら私がいなくても大丈夫。


 それから空はすくすく成長していった。私は何もしてあげられないけど、こうやって我が子の成長が見れるだけでも私は救われた気持ちになった。


 自縛霊とも違い、私は自由に動き回れた。

 物にも触れられるし逆に透き通ることもできる。


 こんな生活を続けていた私は、偶然同じ存在に出会えた。命を落とし未練を残し、この世にしがみつく亡霊。そんな存在を死人しびとと呼ぶ。


 基本的に生者が死人を視認することはない。が死にぎわにある者がごく稀に見えてしまうことはある。しかし死人に触れ、会話をすることは出来ないので意味はない。


 とおじいさんが教えてくれた。


 日本の行く先を見届けたい。とその未練からこの世に居続けたおじいさん。


 そんなおじいさんは最後に忠告をしてくれた。


死人しびと同士が争うのはいいが、生きてる人間を殺してはいけないぞ」


 死人が生きてる人間を殺すと説明は出来ないが、不味いことが起こるらしい。


 私だって生きてる人を殺したいなんて思わない。



 ──と考えていた。でもその時は来てしまった。


 この町に巣食う無差別殺人の犯人、その通り魔。


 そんな殺人鬼が空の背後をつけている。


 ──やばい。


 どうすれば…………。


 いや考えてる暇はない、おじいさんが言ってたことは気になるがやるしかない。


 私はその通り魔に体当たりし、路地裏に押しのけた。そして母にしたように通り魔を殺した。


 そして私はとてつもない衝動に駆られてしまう。

 殺したい。可愛い空を殺したい。


 そして消えた。空の記憶から──私が。


 おじいさんの忠告、あれは生きてる人間を殺すと未練先の記憶から自分が消えてしまうこと。そして霊自身は徐々に殺人衝動を覚え、自分の血縁関係者を殺したくなってしまうことだった。


 しかしおじいさんは注意喚起しか出来なかった。


 事の詳細を話そうにも、途端に言葉を発することが出来なくなり、文字や手振りすらもヒントとなるようなもの、その一切を何かに禁じられるからだ。


 自分自身で体験して分かった。

 これはヤバい、空に忘れられるのはいい。

 悲しいが、それでも生きてくれればいい。


 だけど、この気持ちが徐々に強まっている。


 お母さんが私や空を殺そうとしたのは恐らく、誰か生きてる人を殺して、この感情に負けたんだ。


 ……ならはどうする?

 私が殺したアイツは、空に執着していた。


 もしもアイツが未練を残し、私と同じ存在になっていたら非常に危険だ。理性が保てているうちにアイツを殺して、私も誰かに殺されないと────。


 状況を全て理解した私の考えは、驚くほどすぐに纏まる。


 ……私の大事なものを狙ったんだ。

 刺し違えてでも……、


「2度殺してやる」

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