第97話 sideマリア『勇者達』③
レッドドラゴンが放った直径30メートルの火球が迫ってきました。
だけどなぜか、ハルピインでサーシャに殺気を向けられたときより楽です。
「ドラゴンより怖いサーシャって何者なのよ」
お陰で腹は決まりました。
カインの抱擁は名残惜しいですが、手をほどいて城壁の上に立ちました。
「女は度胸です。六角氷姫、能力開放、魔力全開!」
あらゆるものの力を借りて、今の素の私では放てない魔法を構築します。
熟練度が低い氷の障壁を張っても、またたく間にドラゴンの火球に溶かされるでしょう。
それよりも、平面型の攻撃魔法をぶつけます。
火球が迫るなかでも体の中から冷気を感じます。
ゴゴゴゴゴ!街の中からたくさんの悲鳴が上がる。
火球を相殺したい。ダメなら反らす。それでもダメなら・・
「私にみんなを守る力を下さい!」
『アブソリュートゼロ』
ギイィィィン!
超低温の直径20メートルもある六角形の氷の壁。本来なら地面に設置する技だけど、空中に展開させて面で炎を受けます。
火球とぶつかった瞬間に、巨大な氷の結晶を回転させます。
一瞬は押しました。けれど、炎に押され始めました。
「だけど、私がくじけるわけにはいかない。そうだよね」
彼の視線を感じる。力をちょうだい。
ねえ、カイン・・
六角氷姫に魔力を込めます。炎が止まりません。けれど、魔力を込めます。そして頭痛がしても魔力を込めます。
鼻の奥がつんとして、なにやら液体がドロリと出てきます。
「ぐ、ぐ、ぐうう」
私の真上で火と氷の攻防が続いています。
「や、か、せない。まもる、んだ」
目にも激痛が走って、視界も真っ赤です。
「もう、少し・・ごぷっ」
「マリア!」
火球はまだ消えていないのに、私の魔法が消えました。
火球はまだ3メートルあります。
「黒風」
その時です。声とともに何かの魔力が飛んできて、火球に直撃しました。風の魔力です。火球を切り裂き、霧散させました。
間一髪でメロンが来てくれたのです。
メロンはそのまま私のところに来て、2本のポーションを飲ませてくれました。
立てませんが、幾分か意識がはっきりします。
「・・助かった、メロン」
「ありがとう、マリアさん。私達は判断ミスをしたわ。マリアさんの判断がなければ、多くの人が死んでいた。ありがとう、マリアさん」
「いえ、力及ばすでした・・」
「あとは任せて」
「・・えっ、あっ、カリナは、ドラゴンは?」
メロンはのんびりしていていいのでしょうか。
カインに抱えてもらい、城壁の端に連れていってもらいました。すると、そこには驚きの光景が広がっていました。
城壁から300メートル先。
カリナがレッドドラゴンと1対1で戦っているのです。
騎士団、冒険者、ドラゴンを使役するネパルントの愚王さえも、戦いを見ています。
ドラゴンの噛みつき、爪攻撃、全て「黒獅子」から伸びた金と黒のオーラで弾いています。
頭を縦に振って噛みつきにきたドラゴンに合わせ、下から武器を持っていない右手にオーラを纏わせパンチを放ちました。
20メートル、数トンのドラゴンと、160センチ美女の真っ向勝負。
ゴイイン!
なんと、カリナのアッパーカットが決まり、ドラゴンがのけ反りました。
「黒獅子変化!」
カリナが叫ぶと、剣が刃が黒と金の糸になり、カリナの左腕に巻き付きました。
「メロン、合わせて」
「オッケー、上から行くわ!」
私の横に立っていたメロンが跳ぶと、あっという間にドラゴンの真上に到着しました。あとは自由落下です。
そして、左腕を伸ばして落下。
その腕にカリナと同じように黒と金のオーラが巻き付き、黒の間から黄金の光が漏れだしました。
メロンは上から落下しながら、カリナは下から跳びながら、ドラゴンの脳天と顎下から攻撃します。
ばち、ばちっ、ばちばちばち。ぱーーーーーん。
ドラゴンの頭に幾筋もの割れ目ができて、ものすごい衝撃波が周囲に翔んできました。
そして・・
ドラゴンの首はなくなり、あっけなく巨体が倒れました。
ネパルントの馬鹿どもは、衝撃波を至近距離で食らい、ぼろクズのようになりながら宙を舞っています。
◆
街の門が開き、中も外も大騒ぎになっています。
その中心にはメロンとカリナがいます。
「サーシャ、2人は本物の勇者になりました」
私は歩けないままなので、カインがお姫様抱っこしたまま、城壁から地上に降ろしてくれました。鼻と口から出た血も拭いてなくて、恥ずかしいのです。
「マリアさん」
2人が駆け寄ってきます。
「さすがです。お二人とも。私が生まれた街を救ってくれた勇者に感謝します」
臨時メンバーとして、とても誇らしい気分です。
「なに言ってるんですか、ひとごとみたいに」
「街の人達が「マリアさん」を待ってるよ」
何を言っているのでしょうか、この2人は。
「私は炎も止められなかったし、魔力が尽きて倒たから・・」
戸惑っていると、街の人達が集まってきます。
感謝や称賛の言葉をもらい、カインに抱かれていることもあって照れ臭くなってきました。カインが離してくれません。
一緒に城壁の上にいた人達は、街の人に何と伝えたのでしょうか。
メロンとカリナは当たり前として、力が劣る私まで勇者の如く称えられています。
カインにお姫様抱っこされたままです。カインも私も、私の血がべっとりついているのです。
目立ちすぎです。
◆◆
あれから1ヶ月。
周囲が大変なことになっています。
ネパルントの残党を追ってきていたニュデリィ王国の人にも、メロンとカリナの活躍、そしておまけの私の微力な手助けが見られていました。
西にあるニュデリィの国から私まで「勇者認定」を受けてしまいました。
「殺戮天使」の美女2人には求婚、士官、他国招待の話がひっきりなしです。
私でしょうか?
私にも、さばききれないほどのオファーがありました。
ですが、カインと一緒にいます。
いえいえ違います。他国に嫁いだりする気がないから、カインに彼氏代わりになってもらっているだけです。
今日は、ダンジョンでもなく普通の海岸にいます。カインと2人です。
いえ、いえいえいえ。約束を果たしたまでです。ドラゴンの炎を止めに行く前、デートの約束をしたからです。
もう1度言いますが・・
いえ・・違いますね。認めます。本気のデートだよね? カイン。
だよね。ねえ、カイン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます