第96話 sideマリア『勇者達』②

私マリアは強くなっています。


ダンガーラに拠点を移して3ヶ月で、レベルは41。メロンとカリナが月に1度は上級ダンジョンに付き合ってくれるので、一年くらいでレベル50の壁を越えるかもしれません。



今日ですか?


カインと海浜フィールドのセプラ中級ダンジョン39階に来ています。


年中晴れ、白い砂浜、碧い海。



そこでメガズワイカニ狙いです。


デートではありません。


かなり仲良くなった185センチハンサムのカインが、カニを食べたいと言うのです。特別な人ではありません。


騎士団の仕事で危険が伴う任務が続いているので、希望を聞いてみただけです。


西のネパルント帝国が戦争に負けたのは、周知の事実。敗因のひとつに横暴な王族が、無理な争いを続けたことにあります。


国民は貴族排除の政権樹立、復興に目を向け、勝戦国も手を貸す方向です。


そのためには愚王の処刑は必須です。


しかし、皇帝と数人の腹心が包囲網を逃れ我が国に逃げ込んだということです。


さらにたちが悪いのは、秘宝「龍の指輪」を持って逃げているのです。


「昔、ネパルントの初代皇帝が助けた龍の力を借りて、悪政を続けた独裁者を倒して国を起こしたんだ。マリアは知ってた?」

「知ってる。1匹だけど、自由に使役できるんだよね。事実って説が強いよね」


「指輪と血が合わさって、盟約が成立するらしい。クズでも王は初代皇帝の血を引いている。「龍の指輪」を使ってドラゴンを使役する気だ」

「血脈は一流ってやつか。龍が性格の審査もしてから、力を貸せばいいのにね」


「あはは。そうして欲しいよ」


「だから、カインも小隊を率いて、愚王の捜索をするのね」

「ああ。北の山岳地帯とか行かれて、本当に高位ドラゴンを連れてこられたら一大事だ。結構、危険な任務だけど大切な仕事だ」


好戦的なカニが私達の方に寄ってきた。だから氷魔法で20匹を一網打尽にしました。


「マリアの氷魔法は、何度見ても綺麗だな」

「まあ、巡り合わせが良くて、強くしてもらったのよ」


「いやあ、マリア達「殺戮天使」も捜索隊に参加してくれるのは心強いよ」

「た、たまたまよ。ギルドで依頼が出てたし、メロンとカリナも故郷を守るために受けたの」


あくまで、故郷のためです。もう一度言いますが、カインのためでなく故郷のためです。


勝手にギルマスと交渉し、「殺戮天使」として依頼を受けたのは私ですが、メロンとカリナが快諾してくれて良かったです。


カリナに経緯をカインにばらされましたが、カインのためではありません。


その日のデート、いや探索でカニ40匹、大型魚の魔物25匹ほど捕まえて終了。


氷属性特化ですが、サーシャにもらった「六角氷姫」「氷魔法極」「魔力増加」のお陰で、レベル80クラスの仕事ができます。


ダンジョンボスの40階メガカジキマグローラをケインと一緒にサクッと倒して、ダンガーラまでの15キロを帰りました。


しかし、ダンガーラに近づくと事態が大きく動いていました。


ダンガーラの街は門が閉じかけ、城壁の見張り台、城門前に騎士団と数十人の冒険者がいます。


私達は急いで街に入りました。そして見張り台の上に行くと、メロンとカリナもいました。


「大変なことになっているけど、何があったのカリナ」

「ネパルントの王です。この国に側近たちと西から侵入したとみせかけて、少数で北の山岳地帯に行ったのです」


「まさか」

「体長20メートルのレッドドラゴンを引き連れて、真っ直ぐダンガーラに向かって来てるわ」


ギルマスの予測では、ネパルントの馬鹿王は、ここに軍事拠点を作る気なのです。ドラゴンを全方向に向かわせやすいように、開けた場所にある街を押さえようとしているようです。私達や魔法、弓部隊が立っている城壁も幅が4メートルあります。街を奪われたら大変なことになります。


厳しい戦いになります。その上に悪い知らせまでありました。


ドラゴンに触発され、オークとゴブリン300匹もダンガーラに向かっているのです。


「マリアさん、ここから魔法の援護をお願い。私とカリナは下でまずゴブリンやオークを減らすわ」

「メロン、私も行く」

「ダメよ。マリアさんは、いざという時に城壁の上にいる人達を守って。カインさん達と一緒に戦って」


私の返事も待たず、メロンがカリナを抱えて城壁から飛び降りました。希少な「飛翔」スキルで高さ30メートルから降りて、騎士団と合流しました。


私は氷魔法を準備。カインは弓部隊に加わって、矢を放つ準備をしています。


やがて、赤い龍が見えてきました。龍の右側には馬に乗った人間が数名、並走しています。奴らが今回の本当の敵なのです。


普通なら絶望的ですが、ここにはメロンとカリナがいます。彼女達はサーシャと同種の「何か」を持っています。


聞けませんが、ハルピインのギルドで見かけた召喚者が持っていた「神器」に似た気配がするようになっています。


今はその力に託したいです。


お願いです。レッドドラゴンを倒し、街の人達を、そしてカインを守って下さい。


城壁から下を見ると、レッドドラゴンが前方1キロで止まりました。誰かが指示したのでしょうか。


止まったドラゴンの左右から、オークの集団が前に出てきました。メロンとカリナが走り出し、オークを潰す気です。


だけど、私の中で警鐘が鳴りました。


「いけない、メロン、カリナ、オークは囮よ!」


私が叫んだ直後、レッドドラゴンが火球を吐きました。


凝縮された3メートルのエネルギーの塊である火球は空を飛びながら30メートルにも膨れあがります。


そして放物線を描き、街の中に飛び込んでくる角度で進んでいます。


レッドドラゴンを操るキチガイ王の狙いは、街の人間の殲滅なのです。


完全に見誤っていました。


メロンとカリナのどちらかなら、この攻撃を止められたでしょうが、2人とも地上に降りています。


無駄だと分かっていても、カインが私を抱き締めて背中で熱波を受けようとしています。


改めて、・・・・と想います。


ぼそっ。

「カイン、デート・・」

「・・なんだい、マリア」


「もう一度だけ言います。生き残れたら・・その・・デートしましょう」


「六角氷姫」を取り出しました。



私の精一杯を見せてあげます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る